第105話 収穫祭開催決定!

 夕方カインに到着した私は、ユーリルたち工房のみんなに事の次第を伝えることになった。


「それじゃ、若い子たちは早めに来て手伝ってくれるの?」


「うん、ビントにはまだ話してないけど、少なくともバーシの子たちは前日までには来てくれて収穫祭の手伝いをしてくれることになったよ」


 来年以降、収穫祭を行うかどうかまだ分からないけど、やり方を知っておかないとできない。だから、若い子たちを早めに来させて、手伝いながら覚えさせようということになったのだ。


「なんか責任重大ですね」


「始めてやることだから、そこまで気合入れなくても気軽にやった方がいいよ。楽しむのが目的だからね」


 ユーリルの言う通り、収穫祭と名を付けているけど、冬の厳しい季節を前にして楽しむのが目的だから、肩の力を抜いてやるくらいでちょうどいいのかもしれない。


演し物だしものもあまり難しいことやったら、次の年に他の村が困ることになるから、負担なくできるものをやることにしよう。仕事の合間に準備するの大変だと思うけど、みんなよろしくね」





 翌日から本格的に収穫祭の準備を取り掛かる。


 イベントとしては男性有志による腕相撲大会と、結婚前の男女を中心としたフォークダンスの二つ。寂しいかもしれないけど、最初からたくさんやってもうまくいくような気がしない。


 そしていくつかの出店も出す予定だ。今考えているのは、工房で作った様々な種類のタオルのお店と、きこりのオジャクさんの箸を売る店。タオルはいまだに人気だし、箸は最近では村人のほとんどの人が使えるようになってきた。きっと、いろんな種類の箸を並べたお店があったら喜んでくれるだろう。

 また、会場では披露宴の時のような料理は無料で振る舞う予定だけど、ルーミンの料理は人気なので別に有料の出店で出そうと思っている。


 そして村のみんなには、この出店で銅貨の使い方を覚えて欲しいと考えているのだ。





 父さんと一緒に村の中央広場に行き、集まった村人に収穫祭について説明する。


「それでは、収穫祭の時にはみんなにも協力してもらうということで構わないな。満月の日まであまり時間がないがよろしく頼む。そして、何か質問のある者はいないか」


「なあ、ソル。さっきお店を出すって言っていたけど、私たちも売ることはできないのか?」


「もちろん構いませんが、何を売られるんですか?」


「私の家で採ったハチミツがあるんだ。それを売りたいと思ってな」


 すごい! 売るほどハチミツあるんだ。


 私の家でも蜂の巣を見つけたら蜜や蜂の子を採っているけど、それも薬草を採るついでの時くらいだから頻繁には見つけることができない。だから見つけても薬専用だ。そのため、テラではほとんどハチミツを食べたことが無い。


 もし、出店でハチミツを売ってくれるのなら是非にも手に入れたいと思う。パンにバターを塗って少し火であぶる、溶けたところにハチミツを垂らして……。あー、想像しただけでもよだれが出て……きちゃった。


「ご、ごめんなさい。それはみんなも欲しがると思います。ぜひお願いします! 他にも売りたいものがある方は、場所を作りますので工房までお知らせください」


 あたりを見ると、他にも何人か相談している人たちがいる。もしかしたら出店の方も期待できるかも。楽しみになってきた。




 村の中央広場での説明が終わり、収穫祭の開催が決まったことをユーリルたちに伝える。


「そうなの! ハチミツのお店が出るんだ」


「まだわからないけど、興味持っていた。たぶん出店しゅってんしてくれると思う。他にも考えている人たちもいたから、いろいろなものが出てくるかもしれないよ」


 糸車や鉄製の農機具のおかげで時間に余裕ができているから、空いた時間に村の人たちもいろんなものを作っているのかもしれない。


「ハチミツかー……こっちのは畑に農薬なんて使わないから絶対美味しいよね。あれ? 確かラザルとラミルには食べさせられなかったような……」


「うん、1才にならない赤ちゃんは、食中毒にかかるかもしれないから食べさせちゃダメみたい」


「やっぱりそうなんだ、残念。そろそろ離乳食の時期だから丁度いいと思ったんだけどね。でも、僕も食べたいから売ってほしい。他にも売りたいものがありそうなら、余分に屋台を作っておこうかな」


「うん。よろしく」


「ユーリルさん。その屋台ですが、私のところは大きくお願いしますね。たくさん料理作るつもりなので」


 おー、ルーミンもやる気だ。


「大きくするの? いいけど、大丈夫なの?」


「新作料理を発表する絶好の機会ですからね。頑張りますよ」


「なにを作るの?」


「ひ・み・つと言いたいところですが、手伝ってもらいたいので教えます。うどんを出そうかと思っています。皆さん箸が使えますし」


「え、うどん? だしはどうするの? 鰹節も昆布もないよ」


 テラでは海に行くことができないみたいだから、これまで海由来の食べ物は見たことが無い。

 確か、地球で食べるうどんは、鰹節か昆布でだしを取るのが一般的だったと思う。樹が住んでいる地方ではトビウオでだしを取ったもの、通称あごだしが食べられているけど、いずれにしろ海のものだ、ルーミンはどうするつもりなんだろう。


「こちらでは海産物が期待できないので、野菜だしで作ります。あと秘密兵器もありますからいい味が出るはずですよ」


 野菜だしか、そういえばそういうレシピを見たことがあった。クズ野菜や切れ端も使えるということで、野菜を無駄にしないから環境にも優しいと言っていた記憶がある。うどんなら少し寒くなり始める時期だし、他に汁物を出さないからきっと人気になるだろう。

 それにしても秘密兵器って何だろう? ルーミンは時折一人で山に行っていることがあるようだけど、それと関係があるのかな。


「それで僕たちは何を手伝ったらいいの?」


「私はこの通りか弱いので、腕っぷしに自慢のある殿方にうどんを打つのを手伝ってもらいたいです」


「わかった。ルーミンがか弱いかどうかは置いといて、とりあえずジャバトは専属で付ける。そのほかは手の空いた人が手伝うってことにするね」


「うぅー、ソルさーん」


 どうせこの期間は織物部屋の仕事できないし、ジャバトの指導役はルーミンだ。もう心配いらない感じだけど、一緒にいた方が都合がいいだろう。


「それじゃ、みんな準備に取り掛かってくれるかな。お願いね」


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あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ハチミツだって」

「ハチミツこっちじゃほとんど食べたことないよ」

「私だって何度か舐めたことがあるくらい」

「どうやって採ってきているのかな」

「山に入ってだと思うけど、どうして?」

「もし本格的にしてくれるのなら、養蜂を教えようかと思って」

「ほんと! うまくいったら、ずっとハチミツ食べられるの?」

「うん、でも養蜂のことはあまり知らないんだよね」

「それなら山岡先生のところの紗知さんや優紀さんが知っていると思うよ。綿花の手伝いに行っているときに、養蜂農家さんからだっていって自家製のハチミツもらったことあるもん」

「え、俺(竹下)はもらったことないよ」

「ユーリルと竹下が繋がる前だからね」

「そうなんだ、残念。でも聞いたら教えてくれそうだね」

「うーん、でも紗知さん新婚さんだよ」

「も、もう大丈夫だって。じ、じゃあ次回予告をします」

「何うろたえてんの。次回は収穫祭の話と私のこともあるな……」

「あ、ソルはあれか。やっとだな」

「それでは次回もお楽しみに―」

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