第104話 バズランさんのもとへ

 翌朝、父さんに話したら、それは面白い! となって、早速バーシの村長むらおさであるバズランさんとの打ち合わせに出発することになった。




「父さんと一緒に旅するのは久しぶりだね」


 今回はバーシまでの一泊二日の父さんとの二人旅。そのバーシまでは馬で半日だから旅といえるかどうか微妙だけど、テラではその距離でも普通の人達が移動することはめったにないから、今回の件がうまく行ったら画期的だともいえる。


「コルカの診察に一緒に行った時以来か。もう2年以上前になるな」


 父さんは今回の旅で、収穫祭の話のほかに私とリュザールの結婚の話も一緒に済ませてしまうつもりのようだ。これで正式に私とリュザールの結婚が決まる。

 長かったのは短かったのかわからないけど、リュザールに初めて会ったのは14才の時の9月で今は17才の10月。結婚するのは来年の春以降になるから、結局父さんたちに最初に言った3年後の18才の時に結婚するという時期になってしまったんだけど、このところの忙しさを考えたら仕方がなかったと思う。






 夕方前にバーシに到着した私たちは、バズランさんのお宅へ向かう。


「おお、これはタリュフさんにソルさんではないですか。二人そろっては珍しい。ようこそいらっしゃいました」


 急な訪問にかかわらず、バズランさんはいつものように温かく迎えてくれた。


 居間に通され、早速収穫祭の話をすると、


「実は先日ビントのトールさんと話す機会がありましてね。その時にそろそろ結婚相手の交換が必要ではないかとの話が出たのですよ」


「ほう、そうでしたか」


「ええ、ただ、これまでのように私たちで決めてしまうのもなかなか大変でして、本人たちに決めてもらえるのならそれに越したことはありません」


「確かに、そうやって結婚した子たちが幸せになるかどうか、ずっと気になりますからな」


「そうなのですよ。だから今回のお話は、是非わが村の若い子たちも参加させてもらいたい。もちろん、ビントのトールさんもそう言うと思います」


「おおー、ビントまで。多くの子に集まってもらった方が、いい伴侶に巡り合える機会も増える。喜ばしい限りです」


「よかった、トールさんには私から話しておきます。当日はよろしくお願いします」


 その後、収穫祭当日の詳細を詰め、話は私とリュザールの結婚に及んだ。


「それじゃ、ソル。少し席を外してくれるかな」


 私は居間を出て、いつも泊まらせてもらっている部屋へと向かう。




 そのままにしていた荷物を解いていると、ものの十分もしないうちに父さんがやってきた。


「え、父さん。もう終わったの?」


「ああ、ソルとリュザールの結婚は遅すぎたぐらいだったからね。いくつか確認事項を決めたくらいさ。まあ、結納の時はバズランに来てもらう必要があるけど、それも今度の収穫祭の時に済ませることになったからもう安心だよ」





 しばらくすると食事ができたと呼ばれ、父さんと一緒に改めて居間へと向かう。


「それで、マルトの北の橋の方はどうですか?」


 バズラン家の食卓は、いつものようにたくさんの料理が並べられていた。


「今は二組の職人たちが作業に行ってくれています。雪が降り始める前に橋脚を作ってしまわないといけないですからね」


 バズランさんによると橋脚さえできていたら、翌春の雪解け水で水かさが増したときでも作業ができるらしく、今のうちに作ってしまおうとしているらしい。


「あの辺りは雪が降り始めるのもこちらに比べて遅いから、ギリギリまで作業ができます。おそらく来年の今頃か再来年の春までには完成できると思いますよ」


 おー、あの川の北側は地球でも大きな都市がある場所だから、橋が完成したらきっと発展するだろう。それに、竹下があの辺りに銅の鉱山があると言っていたから、その場所を発掘してもらってもいいかもしれない。




「それで、話は変わりますが、トールさんによると浴場ですか? 今度はソルさんたちにそちらを作ってもらうと話されていたのですが、それはいったいどういうものでしょうか?」


 食事も終わりに差し掛かった頃、バズランさんが尋ねてきた。浴場のことを知っているとは、やはりトールさんに話すと驚くほど早く話が伝わるな。


「バズランも浴場の話を聞いているのか。あれは本当に気持ちがいい。私ももう虜だ。ソルたちに頼んで作ってもらったらいいぞ」


「あ、父さん。浴場は場所を選ぶからどこでも作ることはできないよ」


 浴場は作る場所を選ぶし、風呂釜を作るのにも手間がかかるから、カインに帰って来た時には先を争ってお風呂を使っている隊商の人たちにも、あまり他のところでは話をしないようにお願いしているのだ。

 私はバズランさんに浴場のことと、そこを設置できる場所について説明した。


「なるほど、清潔な水がたくさんいるわけですね……。ただお聞きしたところ、私も非常に試してみたくなりました。収穫祭の時に使わせて貰うことは可能でしょうか」


「浴場が一つしかないので、数人で一緒に入ってもらっています。それでも構わなかったら大丈夫ですよ」


「おー、それは楽しみだ。収穫祭の時までに、バーシに作る場所がどこかないか探しておくことにしましょう」






 翌日、午前中までバズランさんと打ち合わせをして、午後から父さんと一緒にカインに帰ることになった。


「済まなかったねソル。浴場がどこでも作られないとは知らなくて」


「いいの父さん。きっと多くの人がトールさんから話を聞くはずだから、みんなから聞かれるはずだったし」


「トールさんか、彼は人が良くて頼りになるんだが、話し好きだからな」


 トールさんには何度かお会いしたけど、人当たりがよくて憎めない感じなんだよね。みんなに話をするのも悪気なんてなくて、うれしいから知ってほしい気持ちの表れなんだと思う。


「それにしても収穫祭、結構大掛かりになりそう」


「ああ、バーシだけでなくビントとその周りの村からもやって来るし、恐らく今回の収穫祭がうまく行ったら毎年やることになりそうだからね」


 バズランさんとの話し合いで、当初の予定通り、カインで行う収穫祭にバーシとビントの結婚相手を探している若い子も派遣してもらうことに決まった。


 そして今年の収穫祭の様子を見て、来年からはその若い子たちが中心になってそれぞれの村で収穫祭を行ってもいいし、結婚相手を探すイベントに関しては毎年じゃなくても何年かに一度各村で持ち回りでやったらどうかという話になっている。


「村のみんなは手伝ってくれるかな」


 先にバズランさんたちへの話を優先したので、父さんの村の人たちへの説明はこれからだ。


「今年の麦や綿花の収穫は順調だった。でも来年以降は分からないからそれを不安に思っている者もいる。収穫祭は今年のお礼と来年の祈願を兼ねるのだろう。それならみんな喜んで手伝ってくれるはずだよ」


 そっか、みんなも喜んで参加してくれるのなら、是非とも収穫祭を成功させないといけないな。よし、頑張るぞ!


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あとがきです。

「海渡です」

「樹です」

「「皆さんいつもお読みいただきありがとうございます」」


「なんで僕が呼ばれたんですか? 今回のお話ならここの担当はソルさんとタリュフさんだと思うのですが」

「いや、さすがにタリュフ父さんとここに出るのは緊張してしまうから」

「だからって、僕を呼ばないでくださいね。こう見えても忙しいんですよ」

「わかった、今度ちゃんと埋め合わせするからお願い!」

「なんだか、上司に頼まれて行きたくない取引先に代わりに行くことになったサラリーマンみたいになっていますが、まあ、いいでしょう」

「ありがとう、助かるよ。ところで海渡は唯ちゃんとはどうなの?」

「うわ、いきなりその話題ですか……まあ、今日この後お祭りの二日目に一緒に行く予定にしています」

「おお、ちゃんとやってるじゃん…………ふふ」

「何企んでいるんですか?」

「ん、何でもないよ。二人のためにも、ここは早めに終わろうか。では、次回予告のお知らせです」

「怪しい、話すんじゃなかった……」

「皆さん次回もお楽しみに―」

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