第103話 収穫祭開催に向けて

 翌日、早速父さんに収穫祭の計画を話す。


「ほう、それは面白そうだね。やっても構わないが、準備も大変そうだし費用も掛かるだろう、それはどうするのかな」


「工房のみんなが手伝うって言ってくれたから何とかなると思う。費用は工房の利益で賄おうと思っています。村のみんなにもお世話になっているからお返ししないと」


「ふむ、気持ちはわかるが、工房ばかりに負担させても村のみんなも気を使うだろう。よし、今度みんなと話して、村からも手伝えないか話してみよう」


「ありがとう、父さん。それじゃ、私たちは準備を始めるね」


「ちょっと待ってソル。それはいつ行うのかい?」


「次の満月の時!」


 次の満月の日は今から11日後だ。なぜ、この日を選んだかというと、明確な暦のないテラでは春や秋の中日以外は月の満ち欠けや日が昇る回数で日にちを表す。来年以降も祭りを行うのなら、秋の中日の次の満月の日が収穫祭と決めたらわかりやすいと思ったからだ。


 父さんからOKが出たことをみんなに伝え、それぞれの仕事場で説明をして協力を求めることになった。そして、ちょうど今日からコルカに向けて出発するリュザールには、カインに無いものを買って来てもらうように頼んだ。





「ねえ、ソル。その収穫祭って何をやるの?」


「うん、綿花や麦とか羊とか何でもいいんだけど、今年もたくさん収穫できたことへの感謝と来年もお願いしますの意味を込めてやるんだ。でも、そのあたりのことはあまり気にしないでみんなで楽しんでもらったらいいと思う」


「楽しむの? それじゃあさ、食べるだけじゃないんだね?」


「うーん、食べるだけでもいいんだろうけど、それだけじゃ寂しいからなんかやりたいんだよね。みんな何か思い浮かばない?」


 うーんとみんな唸っている。あまり娯楽が無いから、こういうのは難しいのかな。


「なあなあ、ソルに掴みにかからせるってのはどうだ。たいていの奴は触ることもできねえだろ」


 ラザルとラミルにお乳を与えに来ているパルフィが提案してきた。


「でも、触れるのルーミンたちくらいでしょ。それじゃ面白くないんじゃないの」


「それもそうか」


 本気になった私を掴めるのは、リュザール、ユーリルそしてリムンとルーミンの四人。リュザールから武術を教わるようになったアラルクもまだ触ることはできないので、結局地球との入れ替わり組だけしか掴むことはできないと思う。


 そして、私はリムンとルーミンより一年先輩だけど、最近ではこの二人に追い付かれてしまっていて、『ふふふ、ソルさんは私たちが守ります。安心して後ろで見ていてください』って言われるけど、さすがにそう言うわけにはいかない。もっと精進しなければ。


 おっと、話がそれてしまった。


「みんなも何か思いついたら教えてね」





 翌日、学校帰りに僕たちは竹下の部屋に集まった。


「そちらで何か面白いアイデアとか出た?」


「鍛冶工房でもいろいろ出たけど、そんなに盛り上がりそうなのはなかったです」


「織物部屋もそうでしたね、樹先輩」


「うん、ソルに掴みかかるってアイデアが出たけど。ここにいる四人以外は掴めないと思うからちょっと……」


「僕たちが無双して終わるのはさすがに面白くないですからね」


「あのさ、俺のところで出たのは面白そうだったよ。腕相撲大会。リムンとアラルクのどっちが強いかの話で盛り上がった。アラルクなんて俺は大したことないですって謙遜していたけど、負ける気なんてなさそうな様子だったからな」


 アラルクは体の大きさは村一番かもしれない。それに力も強く、パルフィの長剣を事も無げに振り回し、以前盗賊に川で襲われたときは、私たちの中で一番多く敵を倒していた。

 それに対してリムンは体の大きさではアラルクに及ばないが、鍛冶工房に入ってから毎日鉄を叩いたり、重たい金属を運んだりしているのでかなりごつい体つきになって来ている。腕の力ならもしかしたらアラルクより強いかもしれない。


 この二人のどちらの力が強いか、確かに面白そうな気がする。


「どう。リムンはアラルクに勝てそう?」


「アラルクさんにはかなわないかもしれませんが、簡単には負けませんよ」


 おー、リムンの方もやる気があるようだ。


「それじゃ、腕相撲大会はやることにして、女の子の方はどうする? 料理食べるだけじゃ面白くないよ」


「女の子ねー。男の意見としては可愛い服着て踊ってもらえたら嬉しいかな」


 踊りか……結婚式の時も盛り上がってきたら勝手に踊りだす子たちもいるから、踊り自体嫌いじゃないと思うけど。


「ねえ、バーシの若い子たちも呼んで一緒に楽しんでもらうのはどうかな。そしてフォークダンスみたいに男の子も女の子も一緒に踊ったら、仲良くなる子も出て来ると思うんだけど」


 なるほど、風花が言うこともよくわかる。


 テラでは他の村との交流はそこまで多くない。限られた村人の間だけでの婚姻が続いてしまうと血縁関係が濃くなってくることがあって、村長はそうならないために他の村からお嫁さんを貰って来たり、逆にお嫁に出したりすることがある。

 父さんが他の村長の人と仲がいいのは、普段からこういう調整を行っているからなのだ。


「自分たちで相手を見つけてもらうようにするんだね」


「うん、できたら好きな子と一緒になれたらいいと思うから」


 最終的には結婚相手は親が決めるけど、どの親も好き合っているのなら一緒にさせてあげようと思うはずだ。それに、元々結婚相手が決まっている子には参加させないようにしたら、親の反対を押し切ってということもないと思う。


「タリュフ父さんとバズランさんに聞いておかないといけないね。リュザールはバーシにはいないんでしょう」


「うん、今回素通りしたからすでに隣の村まで行っている。帰りもいつもより早く戻れるけどそれでもギリギリだね」


 リュザールはセムトさんの隊商とは別に、数人で銅貨の補給に行ってもらっている。こちらからの荷物は銅貨だけなので、隊商の時よりも早くコルカまで行けるんだけど、それでも距離があるから戻ってくるまでにあと9日かかる予定だ。

 あまりギリギリにバズランさんに話しても参加者が集まるかどうかわからない。


「明日の朝、タリュフ父さんに相談してみよう」


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あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「地球でのお祭りを参考にした収穫祭だけど、何とかできそうだね」

「これから準備が大変そうだけど、みんなで頑張るよ。ところでソルは、アラルクとリムンどちらが強いと思う?」

「やっぱりアラルクじゃないの。あの時も結構な重さのある長剣を軽々と振り回していたし、何より体が大きいからリムンには不利だと思うよ」

「そうかな。腕相撲は腕の長さが長い人に有利だと思われているけど、やり方次第では短い方が有利な場合もあるよ。リムンは毎日金属の塊を運んでいるから腕の強さならアラルク以上だからね。きっと勝つはずさ」

「えらいリムンを推すね、どうしたの?」

「パルフィに応援するように言われているから……」

「あー、なるほど。亭主関白には程遠いみたいだね。さて、次回更新の案内です」

「そんなことないよちゃんと亭主関白しているよ。その証拠にパルフィはちゃんと僕を立ててくれるからね」

「それもカインの奥様方からの教えなんだけどね。次回は収穫祭を行うための準備のお話です」

「そうなんだ……」

「まあ、幸せならそれが一番だよ。次回もおたのしみにー」

「おたのしみに……」

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