第101話 学校帰りの集まり:竹下の部屋2
「皆さん今日お集まりいただいたのは、セムトさんから頼まれたタルブクを助ける方法について話し合いをするためです」
夏休みの補習が終わった後、竹下の家にいつもの五人で集まっている。
「竹下先輩どうしたんですか? 暑さにやられたのでしょうか」
いつものように僕の右隣に座っている海渡が聞いてきた。
「さあ? 暑さかどうかはわからないけど、拾い食いだけはしないように言っている」
「そこ、聞こえているよ! 暑さにもやられてないし、拾い食いなんてしないから、ちょっとまじめな振りしたらこれだよ」
自分でまじめな振りって言っているし。
「えっと、話がそれちゃったけど、これ見てくれる」
そう言って竹下が見せてくれた写真は……
「これってダイコンですか?」
ダイコンならテラでも作っている。普通に食べられているもので珍しくもない。でも、なんか違う気がする……
「風花わかる?」
「これはダイコンではないね。でも、どこかの市場で見た気がする」
今日はリュザールの風花は見たことがあるみたいだ。
「あ、やっぱりあるんだ。原産地がカスピ海辺りらしいからもしかしてって思ったんだけど、それなら話が早い。これはテンサイという野菜で砂糖の原料なんだ」
「え、砂糖? サトウキビから作られるんじゃないの?」
「もちろんサトウキビからも作られるけど、日本の砂糖の30%ぐらいは北海道で作られたテンサイが原料らしいよ」
知らなかった。
「そのテンサイをタルブクで作って、砂糖を普及させようというわけ?」
カインの砂糖はカルトゥのはるか南から運ばれてくる。距離がかなりあるから量も少ないし、何より高い。テンサイは高緯度の北海道で作られるくらいだから、タルブクで作られるのかもしれない。
「うーん、タルブクは標高が高いから寒すぎてテンサイは作れないかもしれない」
いまいちよくわからない。作れないなら意味ないじゃん。
「なんでこの話をしたの?」
「テンサイを栽培してもらうのは、タルブクの北の方。地球ではキルギスの首都のビシュケクあたりの人たち。地球のこの場所ではテンサイが作られているから栽培できるはずなんだ」
やっぱりよくわからない。タルブクの人たちを助ける方法を話し合うために、僕たちは集まったと思うんだけど、
「それがどうしてタルブクの人たちを助けることになるの? 今の話ではタルブクの北の人を助けることになるみたいなんだけど」
「そう、それが一番の目的!」
そう言って竹下が話してくれた内容はこうだった。
タルブクの村は元々放牧を中心にしていたので、今回のコルカの北で起こった干ばつにも直接的な影響はなかった。ただ、タルブクの北の町や村ではコルカの北の地方と交易が盛んにおこなわれていて、コルカの北でいくつか村や町がなくなった影響がかなり出ていた。
そうなるとタルブクで作られる織物や羊や馬などの家畜も北の町では売れなくなるし、仕事を失った人たちはタルブクやその近辺にも現れ、いろいろな問題を起こすようになる。この前カインに来た盗賊も一つの例だそうだ。
そこで、タルブクの北の地方に新しい産業を起こしてあげたら、仕事がない人たちも働くことができてその地方が安定してくるし、タルブクの織物や家畜も買うようになるだろう。そうしたら、もともと自立できていたタルブクは元通りになるということらしい。
「もちろん、荷馬車の製造とかもやってもらってもいいと思うけどね。まずは北の地方を安定させないと意味がない。そこで、風花にはテンサイの種を仕入れてもらいたいんだけどいいかな」
「わかった。セムトさんにも話してみる」
「ありがとう、頼むね。あとは来年の春すぎ、一人では危ないのでこの件でタルブクやその北に行きたいんだけど、ついてきてくれる人!」
「はい!」
海渡お前はダメだろう。
「却下! 新婚さんはおとなしく
僕は風花と顔を見合わせ二人で手を挙げた。
「はい、樹に風花。よろしく頼むね」
「あーあ、残念。タルブクの北と言ったら綺麗な湖があるはずですよね。見てみたかったな。それで、今日のお話は終わりですか。それなら竹下先輩の新しいお宝を拝見して……」
「あ、ちょっと待って、僕からも話があるんだけどいいかな。あ、海渡はそのまま見ていていいからね」
不服そうな海渡の顔を見てそう言ったけど、みんなに意見が聞きたいとかじゃなくて、僕の意思表示だからいいだろう。
「どうしたの?」
「あのね、昨日ユーリルが戻るときに
「ごめん、不注意だった。それでどうなったの」
「うん、それは大丈夫だったんだけど、学校のことを教えたら、ラーレにルフィナを学校に行かせたいって言われてね」
「あー、それは俺も思う。ラザルとラミルも学校に行かせてやりたい」
「僕もそう思う。子供たちが学べる場を作ってあげたい。そうしたら、みんなもっと豊かになってくれると思う。それで今朝、風花とも話したんだけど、将来学校を作る時のために僕は教育学部に行こうと思うんだ」
「学校……そうだな、樹の言う通り教え方がわからないと建物だけ作ってもだめだよな。俺の事も話していい?」
うんと頷くと
「俺はね、工学部に行こうと思っている。これまでいろいろな建物を建ててきたけど、今のままじゃだめだ、地震が来たら一発で崩れちゃう。もっと専門的な知識が欲しい。だから樹が学校を作るのなら、子供たちが安全に過ごせる建物は俺が作る」
穂乃花さんは確か理学部志望だったはずだ。理論と応用、二人で協力したら面白いかもしれない。
「ボクはね、経済学部に行きたい。隊商の仕事だけでなくて、さっき竹下君が言ったようなことを考えられる人間になりたい」
「先輩たちすごいです。私はまだそこまで考えていません」
「僕も全く……」
海渡は、結局お宝の本は読まずに僕たちの話を聞いてくれていた。
「深く考え無くていいからね。僕たちはもう二年生だから、進路を決めなくちゃいけない時期だっただけ。二人とも自分たちがやりたいことをしなよ」
「それで、樹たちはどこの大学を目指すの?」
「風花と同じところに通いたいから、教育学部と経済学部があるところにしようと話してた」
「それなら俺と同じ東大を目指そうぜ。教育学部も経済学部もあるからさ」
「東大かー。僕たちはかなり頑張らないといけないよ」
「三人で一緒に勉強したらはかどるし、テラでもできるじゃん。それに入学したら樹、一緒の部屋に住もうぜ。安上がりだし家事も分担したら楽だろう」
「一緒の部屋ね……」
「あれ、もしかしてお前たち大学では二人で一緒に住むつもりだったの?」
「いや、そこまでは考えてないけど、近くに住めたらいいねって話してた」
「それならいいじゃん、風花は穂乃花さんと同じ東京のおばあちゃんの家に一緒に住んで、樹は俺と一緒に住む。相手に会いたいときはそれぞれ会ったらいいだけだしさ」
なんか東大に合格できる前提で話しているけど、大丈夫なのか?
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あとがきです。
「樹です」
「竹下です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「竹下と一緒の部屋かー」
「何? 俺とじゃ不服なの?」
「不服というわけじゃないけど、せっかく東京に行ってもこちらと変わらなくなりそう」
「まあ、そうかもしれないけど。勉強しに行くんだから仕方がないじゃん。それに二人の邪魔はしないから樹も協力してね」
「えっ、あ、うん」
「大丈夫かな……」
「さて、次回予告のご案内です。次回はお祭りの話になるようです」
「次回もお楽しみにー」
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