第100話 結納を終えて
一週間後、ユーリルたちがビントから戻って来た。
先にコルカから帰ってきている父さんに、ジャバトとルーミンの結納がうまくいったことを報告し、その翌日父さんは結婚の日取りを村の者と話し合うと言って出かけて行った。おそらく来年の春の中日(お彼岸)ということで決まると思う。
「よかったねルーミン。それで住む家はどこに作りたい?」
「住む家ですか……。そこまで気が回っていませんでした。ジャバトにも聞かないといけませんが、できたら浴場の近くがいいです」
「わかった。あとから父さんとユーリルに伝えておくね」
結婚が春の中日に決まったら、二人の家を作るのには十分間に合う。それに、浴場の近くならうちの井戸が使える場所に作ることになるから、井戸を新たに掘る必要もない。建設は、仕事の合間に工房の荷馬車組と機織り機組が中心となって作るはずだ。人手も足りてるはずだから、雪が降りだす前に基礎とレンガの準備ができていたら大丈夫だろう。
織物部屋では、通常の仕事とは別に、ジャバトとルーミンの新居に使うための絨毯や布団、それにタオルなどの結婚生活に必要な道具を作っている。
この地方の女の子は結婚するときのために、小さい頃から家で織物を習って花嫁道具の準備していくんだけど、ルーミンのところは弟たちがたくさんいてそんな暇がなかったみたい。こっち来てからも、海渡と繋がっちゃってそういう意識が飛んでしまっていたらしく、何もしていなかったから、今になって慌ててみんなに手伝ってもらっているのだ。一緒の部屋にいた私たちも、忘れていたからあまり強くは言えないんだけどね。
「うう、ごめんなさい。適当でいいのでよろしくお願いします」
「何言ってんの! 適当にやっていたら幸せになんてなれないのよ。私たちが手伝ってあげるからしっかりやりなさい」
というわけで、みんなで作ってあげているんだけど、ここには機織り機もあるしコペルという強い味方がいる。かなり気合の入った物ができるに違いない。
そして、鍛冶工房だけはジャバトとルーミンの結婚に関係なく、朝から晩というか日暮れまで、ずっと銅貨の製造を行っている。
コルカから帰ってきたリュザールによると、銅貨の普及はうまくいっていて、すでに取引の何割かは銅貨で行われるようになっているらしい。これはコルカやカインの周りの村に銅貨を普及させた影響もあるかもしれないが、セムトさんやカスムさんなどの隊商の人たちの協力が得られていることも大きいと思う。
「ねえ、どうするの? リュザールからは銅貨はすぐに足りなくなるって言われたよ」
忙しいパルフィの代わりに、織物部屋で預かっているラザルとラミルの様子を見に来たユーリルに聞いてみる。
「いずれ足りなくなるとは思っていたけど、こう早いとは思っていなかったね」
銅貨が私たちの住む盆地内で使われる分だけならそこまで気にしなくてよかったんだけど、リュザールの話には続きがあって、カルトゥやこの盆地以外の地方との取引にも銅貨が使われるようになっており、これからかなりの量の銅貨が盆地の外に流出するんじゃないかということだった。
そこで、今ある銅の分は急いで銅貨にしてしまおうと頑張っているわけだ。
「まあ、仕方がないんじゃないの。足りない分は今まで通り麦とかでやるはずだよ」
「え、そんなのでいいの?」
「うん、他の町の鍛冶工房に頼んでもいいんだけど、元々銅貨では利益が取れないし、一気に作ったら今度は銅が足りなくなって、その価格が上がっちゃう。今まで通りが一番いいはずだよ」
「でも、それなら銅貨の価値が上がっちゃうんじゃないの?」
「それもあり得るんだけど、さっきも言ったけど、一応
まあ、確かにユーリルが言うのもわかる。これ以上鍛冶工房の仕事を増やすことはできない。
「そうだね、ルーミンの実家にお風呂を作ることになったしね」
「そうそう、あの二人が結婚してからになるけど、ここで風呂釜を作って運ばないといけないからね。銅貨ばかり作っていられないよ」
ユーリルは結納のためにビントの村に行ったとき、ルーミンの家でお風呂が作れるか調べてきた。
それだけでなく、作れると判断してからはお風呂に使う木材の加工を、ルーミンの婚約者になる予定だったあの木こりの親父に頼んできたらしいのだ。ルーミンは嫌がっていたらしいけど、
寸法とか形とかを書いた図面は、文字が読めるトールさんに渡してきて、仕事の指示もトールさん自身がやってくれるみたい。トールさんはそれだけでなく、浴場の建設も村でやるからと言ってくれて、ユーリルたちは作ってもらった浴場に風呂釜の設置と、
トールさんがなぜここまで協力してくれるかというと、トールさんは寒がりらしく常日頃から暖かいお湯で体を温めることができたらと思っていたみたい。ユーリルがお風呂の説明をしたら、村をあげて協力するからすぐにでも作って欲しいと懇願されたのだ。
「でも、あのトールさんに話したのは失敗だったかも」
「あー、他の村にもすぐに伝わるかもね」
「その時はどうするの?」
「水が使えるところならいいけど、そうでないところは諦めてもらうしかないね」
私たちが住む盆地は冬には雪が降るけど、春から秋にかけてはほとんど雨が降らない。だからお風呂用に水が使えるのは、川が流れていたり湧水が湧いている所に限られる。それに衛生的な場所でないとお風呂といえども使えない。だから、川の場合は上流部に限られると思う。下流部は人の生活排水も流れていたり、動物も使っているみたいなのでそんなにきれいじゃないんだよね。
まあ、水を煮沸したあとに冷まして使ったらいいと思うけど、燃やすのに使う木も限られているから、普通に沸かして使えるところ以外ではだめだと思う。
「そうそう、銅貨の普及でコルカに一緒に行ったときに、セムトさんから頼まれていたことがあるんだ。セムトさんの実家ってタルブクにあるでしょう。そこを助けてもらえないかって言われた」
タルブクと言えばセムトさんの子供のチャムさんが嫁いでいった先だ。ここを襲ってきた盗賊もあちらの方から来ていたから、コルカの北の地方で水が枯れた影響があるのかもしれない。
「助けてと言われても、何をどうしたらいいんだろう」
「それについては考えがあるんだ。明日の学校帰りに僕の家に集まってくれるかな。あ、それじゃ、そろそろ戻るね。ラザルとラミルのことお願いね」
そう言うとユーリルは自分の仕事場に戻っていき、そのあと、ラーレが休憩のために私のところまで来た。
「ねえねえソル。学校ってなに?」
あ、ラーレに聞かれていた……
「えーと、学校というのは、いろいろなことを学べる場所なんだ」
「それって、前にソルが私たちに文字教えてくれたような感じなの?」
「うん、他にも計算や技術なんかも教えてくれる」
「計算は分かるけど、技術って働きながら覚えるものじゃないの?」
「そうなんだけど、初めの頃はどんな仕事がいいかわからないじゃない。それを少しだけでも教えることができたら、進みたい道も選びやすいんじゃないかと思って」
「ふーん、それじゃ学校ってやりたいことを見つける場所ってことなの?」
「うん、将来どうしたいかを考える場所かもしれないね」
「それでソルたちは、今度はその学校というものを作るの?」
「ラーレはどう思う?」
「私はソルのおかげで文字も読めるし、書けるようになった。ルフィナたちにはもっとたくさんのことを知ってもらいたい」
そういうとラーレは、おとなしく並んで寝ているルフィナとラザルとラミルの三人の頭を撫でていった。
学校か……いつかは作りたいとは思っていたけど、詳しくは考えたことなかった。ただ、この子たちが大きくなるまでには準備できないかな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「ねえ、ユーリル。学校ってどうやって作ったらいいかわかる?」
「学校……そうだね、建物はともかく先生と生徒がいたらいいと思うけど」
「せ、先生?」
「うん、教える人がいないと意味がないよ。急にどうしたの?」
「ちょっと思うことがあって」
「ふーん、ソルのやりたいようにやったらいいよ。僕たちはいつでも手伝うからさ」
「ありがとう。みんながいてくれてほんとにうれしい。それでは次回のご案内です。次回は地球での集まりの時に竹下から頼まれごとがあります。なお、今回のお話で第100話となりました!」
「皆さんの応援のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます」
「お話はまだまだ続きますので、これからも引き続きよろしくお願いいたします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます