第99話 学校帰りの集まり:風花の部屋1
「やっと終業式が終わりました。ようやく夏休みが始まりますよ」
「海渡たちの成績はどうだったの。通知表貰ったでしょう」
ユーリルたちがビントに向けて旅立った翌日、一学期の終業式を終えた僕たち五人は、風花の家に行くために同じバスに乗っている。
僕たちが通う高校は山の上にあって、そこから山に沿って建っている家の間の路地を抜け、階段を降りたら風花の家の近くまで下りてくることができる。歩いて20分くらいで行けるので、気候がいい時期は野良猫と遊びながらのんびりと行くこともあるんだけど、さすがに夏本番を迎えたこの時期に歩こうとは思わない。
「姉ちゃんはよかったようですけど、僕は並でした」
「海渡ももっと勉強したらいいのに。私と同じ頭持っているはずだから、いいところまでいくはずよ」
凪は確か学年で10番台にいたはずだ。リムンにしても凪にしても、まじめで何事にも一生懸命に取り組もうとする。そして、わからないことは先生だけでなく僕たちにもどんどん聞いてきて、特にテラでは空いた時間にユーリルに勉強を教えてもらっているので、学力も上がっているというわけだ。
テラでの勉強は地球では寝ている間のことだから、他の同級生たちより優位に立てるのは当たり前だともいえる。
「僕の場合は家のあとを継ぎますからね。いい大学行く意味があるのかと思って」
「逆に聞くけど、東大に行ったら総菜屋さんしたらダメなの?」
「い、いや、そういうわけではないと思うけど……」
「それにね、海渡。こちらで勉強したことはテラで使えるんだから、覚えられるものは覚えていた方がいいよ」
学校の勉強は将来役に立たないって言う意見を言う人もいるけど、竹下の言う通り、僕たちの場合は役に立つとしか言いようがない。
だって、数学の知識が無かったらユーリルはお風呂を作ることもできなかったし、リュザールも行商でうまく立ち回ることはできない。歴史だって国語だって直接的には使えないけど、その中で学ぶべきものは多い。
「わかりました。テラのためですね。そう言われたら頑張れる気がします。それに東大卒の総菜屋。お客さんも頭が良くなると思って買ってくれるかもしれませんね」
そういうお客さんがいるのかわからないけど、選択肢はたくさんあった方が海渡のためにもいいと思う。
「ところでよかったんですか風花先輩。お宅に邪魔して」
「うん、いつもは樹君や竹下君のところばかりで申し訳ないから」
風花の家にみんなで集まるのはクリスマスパーティー以来のことだし、風花の部屋に入るのは初めての奴もいる。
バスを降り、風花の家に行き、風花の部屋に案内される。
そうすると当然奴が動き出す……はず……ん?
「あれ、海渡。探さないの?」
なぜか海渡はおとなしく座って、みんなで買ってきたジュースを飲んでいる。
「探さないのって、人聞きの悪い。女性のお部屋でそういうことはしませんよ。それにたぶん風花先輩はお持ちではないでしょうし」
「そう? あるかもよ」
「!」「!!」「!!!」
風花の答えに、思わずみんなで反応してしまった。
「ふふふ、そう言うことならこの海渡、期待に応えなければなりませんね」
半そでシャツを腕まくりする仕草をして立ち上がった海渡を
ゴン!
「痛い! だから姉ちゃんゲンコツは止めてって言っているでしょ。これで東大に入れなくなったらどうするの」
「あんたが東大に入ろうが入るまいがどうでもいいけど、女の子の部屋を家探しする男がどこにいる!」
「だって、あの風花先輩が持っているかもって言うんだよ。どんな内容か気になるじゃん。では、これだけは聞かせてください! 本の中身は男ですか? 女ですか?」
「海渡!!」
「うふふ、内緒」
「あーん、風花先輩がお持ちなら、きっと女の子ならソルさんに似ていて、男なら樹先輩に似ているはずです。それなら僕も見たかったのにー」
「海渡って、結婚するっていうのに変わんないのな」
「理想通りの人と一緒になれたらいいのでしょうが、そうではないですからね。だからせめて空想の中だけは……」
「お前、それはジャバトには言うなよ」
「もちろん言いませんよ。織物部屋でカインの奥様方のご指導を受けていますからね、旦那さんをうまく操る方法は心得ています」
「そうなの樹?」
僕は竹下のこの問いには答えなかった。って、風花もじっと見つめてこないで、世の中には知らない方が幸せなこともあるんだから。
「と、ところで海渡は唯ちゃんとはどんな感じなの?」
以前の会合で海渡は唯ちゃんと付き合ったらどうかと言ったことがあったので、余計なお世話かもしれないけどその後どうなったのか聞いてみた。
「うーん、武研で会うくらいで特別何もやってはいなかったのですが、ここ最近なぜか好感度が上がっている気はします」
これってやっぱり……
「ねえ、竹下。どう思う?」
「ジャバトから何か言ってきたことは」
「まだない。サーシャに聞いてみたこともあるけど、そういう様子はなかったって言っていた」
「繋がってないのか。繋がりが薄いのか、それとも元々別人格なのか……。樹は無理やり繋げる気はないんでしょう?」
「うん、碧の件もあるし本人から頼まれない限りは試さない」
「それなら様子見か……。そう言うことなら海渡。ジャバトと唯が同じ人格かは分からないけど、もし一緒なら唯からお前に告白とか無いからな。その気があるならお前から行けよ」
「う、わかりました……唯ちゃん、唯ちゃん……そういえばなんか気になるような気がします」
まあ、後は本人同士がうまくやるのを見守っていくだけだ。
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あとがきです。
「樹です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「話さないからね」
「いったい何をですか?」
「あ、聞かないならいいんだ」
「ははーん、さては風花先輩の部屋のお宝のことを知っているんですね」
「し、知らない」
「どうして知っているかなんて、お聞きしませんから、お宝の内容だけ早く白状してください」
「い、いや」
「読者の皆さんも知りたがっていますよ。さあ! さあ!! さあ!!!」
「え、あ、あれは」
「何しているの?」
「ふ、風花!」「風花先輩!」
「な、なんでもないよ」
「そう、よかった。海渡君ちょっと来てくれる」
「い、樹先輩助けてくださーい」
「海渡、ごめん」
「あー……」
「えーと、海渡がいなくなったので、次回のご案内をします。内容はテラでのお話になります。次回をお楽しみに♪……海渡大丈夫かな」
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