第98話 織物部屋の日常

 地球の暦で7月下旬。ユーリルはルーミンとジャバト、それに弟たちから会いたいとせがまれたリムンを連れてビントに向けて旅立った。

 ユーリルは出発に合わせてコルカから帰ってきたわけだけど、子供たちと一緒にいる時間を考えて、二日前に戻ると言った時はさすがだと感心したものだ。



 四人が運ぶ荷物の中には、結納用にと荷馬車に積まれた麦や塩などの物資の他に、途中の村で羊を買うための銅貨と、ルーミンとジャバトの二人で作った織物も積み込まれている。


 ルーミンはジャバトに機織り機の使い方を教えるときに、最初の頃はどうして私がという感じでやっていたけど、あまりにもジャバトが一生懸命に覚えようとするものだから、それにつられるように熱心に教えていたように見えた。


「ルーミン。いい感じに教えているじゃない」


「そんなことありませんよと言いたいところですが、私のために一生懸命に織っているところを見ると、なんだかみんなのために頑張っている樹先輩ぽい気もしないではないですね。それにしても、いいんですか? あんなにいい織物を私の家にくれちゃって」


「いいの、いいの。コペルもみんなも張り切っているんだから。ルーミンも早くジャバトと一緒に織物仕上げちゃいなよ」


 まあ、こんな感じで二人の共同作業も無事済んで、少しは仲良くなったんじゃないかな。




 それで、今回はルーミンとジャバトは結納のためにビントに行くんだけど、ルーミンがカインのジャバトのところに嫁ぐ形になっているので、結婚の日取りはこちらで決めていいことになっている。

 その日取りは、ジャバトの親代わりの父さんが村の人と話し合って調整するので、父さんたちがコルカから帰ってきてから決められる。おそらく来年の春の中日(お彼岸)を目途に行うことになると思う。

 というのも、いまから準備しても秋の終わりにギリギリ間に合うかどうかで、その時期は雪が降り始めてもおかしくない。雪の中、外での披露宴はさすがに参加者に迷惑を掛けちゃうから余程のことが無いとやらない。半年以上先になるのは仕方がないけど、冬の間も工房は仕事だから、二人にはその間にもっと仲良くなってくれたらいいと思う。





「さてと、お見送りも済んだけど、パルフィはリムンの代わりにサーシャの面倒を見るんでしょう」


 今回のビント行きの旅にはサーシャは同行させなかった。仮にリムンとサーシャが一緒になるとしても、リムンは16才でサーシャはまだ13才だ、そこまで急ぐ必要もない。この二人については来年あたりから準備してサーシャが15才になる頃、結婚出来たらいいと思う。


「おう、そうだな。鍛冶の仕事についてはリムンが教えてくれているが、基礎はこれからだな。少しずつ仕事も覚えてもらわねえといけねえが、大丈夫かサーシャ」


「はい、パルフィさん。鍛冶面白いです」


「へへ、そうか、ビシバシ行くから覚悟しておけよ!」


「パルフィ張り切っているね。それならラザルとラミルは織物部屋で預かっておこうか」


 織物部屋にはラーレやルーミンみたいな若い子だけでなく、村のベテランのお母さんたちもたくさん働いてくれている。子連れの人もいて普段から赤ちゃんや子供の面倒を見ているから、二人位増えてもなんてことはない。


「そうだな。まあ、今日のところは鉄を叩く予定もないし、一緒に連れて行くわ。お乳をやるときにお邪魔するから、その時にはよろしく頼むぜ」


 そう言ってパルフィは、二人の子供を連れてサーシャと一緒に鍛冶工房まで向かって行った。


「さ、私も頑張りますか!」


 つい先日まで、ジャバトとルーミンの結納用の織物を作っていたから、織物部屋の仕事は少し遅れている。そのため、赤ちゃんを出産してもうすぐ一か月のラーレにもお願いして手伝ってもらっているのだ。ラーレは、ここならみんなが子供を見てくれるから逆に助かるよと言ってくれた。ありがたいことだと思う。


「お、ルフィナ。ご機嫌だね」


 休憩中のベテラン奥さんの横で機織りの音に合わせているのか、ご機嫌な様子で手をバタつかせている女の子、ルフィナは先月生まれたばかりのアラルクとラーレの子供だ。


「ソル、お帰り。ルーミン達はもう行ったの?」


「今、お見送りしてきた。さてと、お仕事に入る前にちょっとだけルフィナちゃんに構ってもらおうかな」


 小さい頃から一緒だったラーレの子供だ、可愛くないわけがない。こうやって時間があるときは遊んでもらっている。


 私はルフィナの隣に座り、そっと抱きかかえる。


「だいぶん重たくなってきたねー。おっぱいもたくさん飲んでいるもんねー」


 ルフィナはそろそろ見ている物がわかるようになってきているのか、じっとこちらを見てくることがある。


「ねえ、ソル。どんな感じ?」


「うーん、そろそろかな口を動かしかけてきたよ」


 ラーレはこちらに来て、お乳を飲ませる準備を始める。


「ソルいい?」


 私はラーレにルフィナを渡すと、


「お、ルフィナもおっぱいの時間か」


 そこへラザルとラミルを連れたパルフィがやってきた。


「あれ、もうお乳の時間なの?」


「さっきやったんだけどな、少し足らなかったのかぐずりだしてよ」


 二人ともたくさん飲んでいるからなー。お乳が足りなくなってきているのかな。


「父さんが出してくれた薬草は飲んでいるよね」


「飲んでいるんだけど、こいつらの食欲の方が旺盛ってことだな」


 パルフィはラザルとラミル二人同時に授乳させながら答える。


「ねえ、パルフィ。足りないのなら私のをあげましょうか?」


「お! 助かるけど、いいのか? ルフィナから恨まれねえかな」


「大丈夫、大丈夫。少しくらいどうってことないわよ」


 そう言ってラーレはパルフィからラザルを受け取り、ルフィナと一緒にお乳を与える。


 ラザルは最初は戸惑った感じだったけど、ラーレのお乳をどんどん飲み始める。


「へえー、少し大きいだけでこんなに飲むんだ」


「だろ、すぐにルフィナもこうなって来るぜ」


 いいなーふたりとも……


「ソール。羨ましそうに見てないで、手伝って!」


「あ、ごめん。すぐやる」


 織物部屋にはみんなの笑い声が響き渡った。


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あとがきです。

「ソルです」

「パルフィだぜ」

「「いつも読んでくれてありがとな」」

「へへ、いつも合わせてもらってすまねえな」

「いいのいいの、パルフィが一緒にいてくれるだけで嬉しいから」

「ありがとな。ところでよ、ラザルとラミルにお嫁さんを探してやろうと思うんだ」

「え、もう! ち、ちょっと早くないかな」

「そうか? 一人はルフィナに頼むとして、もう一人はソルおめえが生んでくれ」

「え、いや、私はまだ先だよ。女の子かどうかわからないし。それに、ルーミンの方が早いかも」

「ルーミンか、早速頼んでくる」

「ちょっと待って、いまビントに行っているから会えないよ」

「あ、そうか。仕方がねえな」

「ささ、お仕事しよう」

「そうだな。えっと、なんだ、次回の話は地球の話みたいだな」

「「次回も読んでくれよな」」

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