第97話 結納の準備

 ビントのあとにもう一つ近くの村に寄って銅貨を渡し、カインに戻ってきたのは出発してから8日目の夕方だった。


 父さん達とリュザールの隊商がコルカに向けて出発するのは二日後なので、急いでルーミンとジャバトの件を報告する。


「そうか! それはめでたい! 私もジャバトの相手は思い悩んでいたのだが、いい人がいたのならそれに越したことは無い。……それにしても二人はいつの間に思い合っていたのかな?」


 思い合っていたかと言われると困るけど……


「今回の旅で?」


「今回の旅……で? それは大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ、あなた。心配いりません、あの二人はきっとお似合いの夫婦になります」


 やっぱり、母さんの目から見てもお似合いに見えるんだ。


「そうか、それならばいいのだが、ただ、その日は私もジュトもコルカに行かなければならないから結納には行けないよ」


「うん、それはルーミンのお父さんにも伝えていて、代理をユーリルに頼むことで話しています」


 結納は花婿さんの親が花嫁さんの家に行き、結納品を納めてそれを相手が受け取ることで成立する。でも、その日の父さんはコルカなのでビントへは行けない。こういう場合は、その家の成人した子供が代わりを務めるんだけど、ジュト兄は父さんと一緒にコルカなのでお願いできない。しかし、ユーリルならすでに父さんの子供になっているし、家庭を持っているから代理としての役割を十分果たすことができる。


「ユーリルか、彼なら私の代わりは務まると思うがまだコルカだろう。戻って来られるのかい」


「ビントから戻る時に、コルカに行く行商人に頼んだので伝わっているはずです」


 ビントを発つときに、コルカに向かう行商人にクトゥさんの行商宿に伝えてもらうように頼んでいる。地球で竹下に頼むから無駄なことになるんだけど、父さんたちはすぐにコルカに向かうし、クトゥさんも知らないんじゃ不思議に思われるから念のためだ。





 ビントでルーミンとジャバトの結婚が決まった翌日。地球では学校が休みだったから、緊急の話があると言ってみんなを朝から呼び出した。まあ当然すごい騒ぎになった。


『え! 樹が緊急というから何かと思ったら、ルーミンとジャバトが結婚するの!』


『私も朝起きたら、いきなり海渡がそう言うしびっくりしちゃって』


『確かにくっつけようと思ってはいたけど、早くて来年か再来年くらいの予定だったよね』


『うん、今回の旅で意識させて徐々にって計画だったんだけど、ルーミンがいきなりジャバトと帰って来て、結納のためのお金貸してくれって言った時は驚いたよ』


『そうなんだ。それじゃあ、ソルが何かやったわけではないんだね』


ソルは何もしてないよ。ただ、銅貨の説明をしていただけ、ねえ風花』


『うん、村に着いたらルーミンはすぐいなくなっちゃって、村長トールさんのところで話ししていたらジャバトを迎えに来て、その次に戻ってきたときはお金貸してくださいだった』


はかられた……』


『何? 聞こえないよ海渡』


『図られた! やめてやる!』


『え、やめていいの。まだビントだから間に合うよ。明日ルーミンのお父さんにそう言おうか?』


『い、いや、それはやめてください。あの親父にだけは嫁ぎたくないです。くそ、何か方法は…………そ、そうだ結納の品の分、貸してください。それで結婚を取りやめにしてもらいます』


『貸すのはいいけど、ルーミンのお父さんそれを受け取ってくれるの?』


『う、受け取らないと思います』


 テラの人は施しを受けることを良しとしないんだよな。


『そう言うことなら仕方がないじゃん。俺も結納に間に合うように戻って来るからさ、二人で幸せになりなよ。子供がいなくても楽しいけど、子供ができたらもう毎日が賑やかで……』


 …………いつものようにそこからは竹下の親バカオンステージだ。僕たちも幸せをおすそ分けしてもらっているようで、楽しいからいいんだけどね。





 父さんへの報告を終え工房に行くと、渦中の二人は、出産を終えたばかりで休んでいるラーレ以外のみんなから質問攻めにあっていた。


「父さんへの報告終わったよ」


「そ、ソルさん助けてください」


 私を見かけたジャバトは、囲みを逃れこちらへと来る。


「あ、ジャバトずるい!」


 ルーミンも同じように逃げてきた。


「ソル! 丁度いいところに! 詳しく話して! どうしてこうなったの?」




 話さないとみんなも納得しないだろうから、当時の状況を事細ことこまやかに説明してあげる。


「そうなんだ、ルーミンってジャバトに興味ないようにしていて、内心ではそう思っていたのね。気付かなかった」


「私だって、気付いていませんよ、今だってよくわかりませんし」


「ふふ、ルーミンたら照れちゃってかわいい。それにしてもサーシャが、お兄ちゃんのために結納用の織物を作ってあげたいって言ってきた時は、相手もいないのに気が早いんじゃないのかって思ったけどちょうどよかったわね」


「へ、へぇー、織物も準備していたんだ。それはあとから渡さないといけないかなって思っていたんだけど、よかったよ」


 サーシャにみんなに頼んで織物を作ってもらうように、海渡から凪に伝えてもらったのは私だけど、それを言うわけにはいかないから話を合わせてみた。

 ふふふー、それにしても今日はなんかうまく話せた気がする。ユーリルはここにいないけど、これを聞いたらさすがにダイコンとは言わないだろう。



「それでソル、いつビントには行くの?」


「あと20日先かな」


「20日か、それなら織物も十分間に合いそうだね…………へっへー、いいこと思いついた。簡単なものはジャバトに織らせようか、もちろん指導はルーミンで」


「え、僕がですか?」


「ち、ちょっと待って」


「私たちも手伝ってあげるから、まずは二人で頑張って見なよ」


 結婚するために二人で共同作業を行う。これはいい感じになるかも。


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あとがきです。

「竹下です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「今年一番びっくりしたかもしれない」

「僕だってびっくりですよ。まさか奴と結婚することになろうとは……」

「ちょっと聞きにくいこと聞いてもいい?」

「なんですか。僕に答えられることかな」

「あのさ、男と結婚するってどういう感じなの?」

「話しにくいこと、ズバリ聞いてきましたね。まあ、いいでしょう。海渡としては男の人との結婚はありえませんね。でもルーミンとしては全く気になりません」

「そうなの」

「だって、ルーミンは生まれた時から男の人と結婚するものって思っているんですよ。いくら海渡と一緒になったからと言って変わりませんよ。ルーミンの時はこの人の子供が欲しいと思うときありますもん」

「じゃあ、ジャバトとはそういう気持ちになったんだ」

「え、まあ、ないこともないなと……」

「ごちそうさま。さて、次回更新の案内です。えっと、次回はソルたちの話かな」

「次回もお楽しみに―」

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