第96話 銅貨の普及4(ビント村)
「それで、お父さんに結婚相手はジャバトだって言ってきたの?」
「はい、売り言葉に買い言葉でそうなってしまって……」
ルーミンから聞いた話を再現すると…………
『お、ルーミン。どうしてここに?』
『カイン村から荷物を届けにきたんだけど、そしたら私の結婚相手が決まったって聞いて……』
『知っているなら話が早い。お前、山の麓に住んでいる木こりの男を知っているだろ』
『え、ちょっと待って! その人って確かお父さんより年上じゃない』
『まあ、年上だと言っても一つか二つだ、そいつの嫁がこの冬に病気で死んでしまってな。今、次の嫁を探しているんだ。お前にちょうどいいと思ってよ』
『何言ってんの! そいつって昔から評判悪くて嫌われていたでしょう』
『今は心を入れ替えてやってるからよ。頼むわ』
『絶対いや!』
『そう言うな。お前の兄貴が今度結婚するんだよ。どうしても結納の品がいるんだ。俺たちを助けると思って受けてくれねえか』
『私にはもう決めた人がいるの! その人以外とは一緒にならない!』
『なんだと! 俺の知らない相手に娘はやれるか!』
『その人を紹介したら認めてくれる』
『ああ、ちゃんとした奴なら会ってやらんこともねえ』
『わかった。すぐに連れて来る!』
…………
「それでお父さんに紹介するためにジャバトを連れて行ったんだね」
「はい、このままだとあの親父に嫁がされちゃうし、かといって、リュザールさんを連れて行くわけにはいかない。ジャバトだったらまあいいかと思って……それで連れて行ったんですけど、ジャバトって年の割にしっかりしているじゃないですか、お父さんも気に入ってくれて、あいつよりもこいつの方がいいとなったんですが、結局兄貴の結婚が迫ってて結納の問題を解決しないといけなくなって……ソルさん、私のこの先のお給金分を使ってもいいから何とかしてください!」
ルーミンのお父さんも評判の悪い人に娘はやりたくないのだろうけど、仕方なくこの話を受けちゃたんだろうな。
「わかった。ジャバトが出す予定の結納の品はこっちで用意する。それでいつまでに用意したらいいの?」
「一か月先みたいです」
「!」
一か月先か、このあたりの結納の時は麦だけでは済まなかったと思う。塩などの物資に確か織物も必要だったはずだ。……麦と塩、米に羊は買うとして、織物の方がギリギリだな。そのほかはせっかくだから銅貨で……
「ルーミン。今日寝たら凪に伝えて。サーシャと協力してジャバトがルーミンの結納のために織物が必要だからコペルにお願いしてって」
他の人に聞こえないようにルーミンに小声で伝える。
「え、そんな直接的に頼んでいいんですか?」
「うーん、実はルーミンとジャバトを引っ付けようとみんなで画策していて、下話は済んでいるんだ……」
「!!! は、図られた……とほほ、これ姉ちゃんに言ったらどんな反応されるだろう」
まあ、仕組んでいたのは事実だけど、結局決めたのはルーミンなんだから仕方がないよね。
「それで、ジャバトの方はよかったの?」
「え、はい。俺はルーミンさんを幸せにします! 結納の品も働いて返しますのでよろしくお願いします!」
まあ、予定とは違う形になったが、結果オーライだろう。
ルーミンは明日お父さんのところに結納の件を話に行くということなので、一緒にトールさんのところで食事をごちそうになり、泊まらせてもらうことになった。
翌朝、広場に集まった村人に銅貨のついての説明を始める。
今日の講師役はリュザールだ。リュザールはバーシの隊商の時にこの村によく来ていて顔なじみも多い。それに隊商の人間がこれで物が買えると言ったら、特に信用するだろう。
昨日の騒ぎを知っているのかな。村人の中にはリュザールの話を聞きながら、時折トールさんの隣に立っているルーミンとジャバトの方をちらちらとみている人もいるみたい。
「ソルさん、あそこにいるのがお父さんです」
ルーミンの指さす方には、ルーミンとリムンによく似た男性が立っていた。その隣にいるのはルーミンたちのお母さんかな、優しそうな人だ。
「あ、あいつです。私を買おうとした奴」
そこには集団から少し外れたところに立って、こちらの方を苦虫を嚙み潰したような顔で見ている男性がいた。
「ねえ、本当にルーミンのお父さんより少し上なの?」
「みたいですね。前よりもっと老けたように見えますよ」
ルーミンのお父さんは多分30才半ばぐらいだと思う。でも、そこに見えるのは絵にかいたようなエロおやじ。これならルーミンが嫌がるのもわかる。
「結婚するってお兄さんは?」
「えーと、あ、いました。お父さんの後ろにいますね」
確かにそこには若い男性が立っていた……あれ、私と一緒ぐらいじゃないかな。
「お兄さんっていくつ?」
「ソルさんと一緒ですよ。私の一つ上です」
「確か下にも弟がいたよね」
「はい、一つ下と二つ下と四つ下にいます」
「……近いね」
「うちのお父さんへたくそなんでしょうね」
確かにこれでは結納の品がいくらあっても足りないはずだ。
説明会の後、ルーミンとジャバトと一緒にルーミンの実家まで結納の打ち合わせに向かう。
こちらの人はほとんどの人が文字が読めないので、口頭で結納に渡す品を伝えていく。
「…………これだけのものを30回日が明けないうちにお持ちします」
「こ、こんなに。本当にいいのですか? それに長男の結納にも間に合う」
「はい、ルーミンは工房になくてはならない存在です。今更他の村に取られては困ってしまいます。結納の品はジャバトからという形になりますが、工房からの物も含まれています。どうか娘さんをジャバトにそしてカインにください」
「も、もちろん。これからも娘をよろしくお願いいたします」
「ねえ、ルーミン姉ちゃん。リムン兄ちゃんは結婚しないの?」
「リムンはもうちょっとかな。でも相手はいるから安心していいよ」
「ああ、リムンの結納もあった……」
「あ、リムンの結納の品は必要ないですよ。相手はもううちのお父さんの子供になっているので必要ないです。その代わり、リムンもカインに貰いますね」
「ねえ、リムン兄ちゃんもルーミン姉ちゃんももう会えないの……」
「そんなのことないから、いつもでもカインに来ていいし、私たちも帰ることもあるから泣かないで」
ルーミンはたぶん四つ下の弟にそう言ってなだめている。
その後、和気あいあいの内に話は終わり、トールさんの家に戻るためにルーミンの実家を出る。
「よかったね。これでルーミンもお嫁さんになれるよ」
「正直、最初からこうなる運命なのは分かっていました。でもソルさんの思い通りになるのは癪に障ります」
「まあまあ、そう言わないの。ジャバトはいい子だから幸せになれるよ」
そう言って山の方を見ると小さな小川が流れているのが見えた。
「この川って……」
「この川の水、冷たくて気持ちがいいんですよ。夏なんてみんなで水遊びしていました」
「このあたりはルーミンの家の土地になるの?」
「そうですね。この川の周りはうちの土地になるかな。でも、狭いでしょう。水はあるけど畑があまり作れないからいつも食べるのに困っていましたよ」
川か……この川って使えないかな。
「ねえ、ここにお風呂作ったらどう?」
「お風呂ですか。確かに水はきれいですけど、管理は誰がやるんですか?」
「ルーミンの家。それでお金とったらいいと思うんだけど」
「!」
「カインみたいに大きな湯船が1つじゃなくて、家族で入れるような感じのやつをいくつか作ったらいいんじゃないかな」
「早速話してきます」
「ちょっと待って! ユーリルと相談してから。風呂釜をパルフィたちに作ってもらわないといけないからそのあとで」
「確かにそうですね。鍛冶工房の人は忙しいし、パルフィさんも子供が生まれたばかりだから無理は言えませんね。でも、お風呂ができたら村のみんなきっと入りに来ますよ。それを仕事にできたら、弟たちの結納にも困りません!」
みんながお金を使う方法を考えていたけど、こういうところからやって行ったらいいような気がする。
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あとがきです。
「ソルです」
「ルーミンです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「婚約おめでとう!」
「図られた……」
「確かに図っていたけど、私たちが関係ないところで自分で決めちゃったじゃない」
「そうしないとあの親父と一緒にならないといけないんですよ、それならジャバトの方が何倍もましです」
「そう言いながらジャバトを気に入っていたでしょう。はたから見てたらツンデレぽかったよ」
「つ、ツンデレ!」
「そう? いつもは素っ気ない感じで教えているのにたまに優しくしているから、ジャバトもメロメロだったよ」
「それ、適当に言っているでしょう! デレたことなんてないですよ!」
「ばれたか。でもルーミンこれで赤ちゃん産むことができるよ。繋がった時そう言っていたじゃない」
「そういえばそんなことを言っていた気もしますが、心の準備が……まさか出産を経験するとは」
「まあ、結婚して、赤ちゃんを授かってからの話だけどね。さて、次回更新のお知らせです。」
「同じように男の気持ちを持っているソルさんのために、先に妊娠したら状況を逐一教えてあげます」
「き、気になる……え、えと次回はルーミンたちの話の続きのようですね」
「次回もお楽しみに―」
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