第95話 銅貨の普及3(ビント村)

 ビントには予定通りその日の夕方に到着した。まずはトールさんの家を目指す。


「トールさんのお宅はこちらですよ」


 14才までビントに住んでいたルーミンに案内され、村の中を荷馬車が進む。荷馬車はリュザールが手綱を引き、ルーミンがその横に座って案内している。私とジャバトは馬に乗っての移動だ。


「お、ルーミンじゃねえか。話を聞いて戻ってきたのか……ん、それにしては早すぎるか」


 ルーミンの姿を見て、中年のおじさんが声をかけてきた。それを見て私たちは動きを止める。


「おじさんこんにちは。元気そうで何よりです。それで、話って何のことですか?」


「さっき親父さんから聞いたばかりだから知っているわけはないか。家に帰ったらわかることだが、お前の結婚相手が見つかったって喜んでいたぞ。早く行ってやれ」


 ルーミンの結婚相手?


「すみませんリュザールさん、案内することができなくなりました。トールさんの家はこの先をまっすぐ行って左手にあります。皆さんで向かってください」


「ルーミンはどうするの?」


「お父さんに会って、事情を聞いてきます」


 ルーミンは荷馬車を降りて、走り出していった。




「ルーミンさん結婚しちゃうのかな」


 トールさんの家を目指して進む馬の上で、ジャバトがそう呟くのが聞こえた。


「ジャバトはルーミンのことが気になるの?」


「え、あ、はい。優しく教えてくれるから」


 ジャバトはそう言いながら顔を赤くする。


 あいつ、武研の時もそうだけど、年下でもしっかり向き合ってあげてるんだもんな。それで、年下からの人気はあるのだけど、本人はどちらかというと年上好き。だから、なかなか浮いた話には繋がっていない。

 ジャバトの方はルーミンに興味があるようだけど、ルーミンはお父さんから結婚相手の話が来ちゃったしどうするつもりなのかな。


 などと考えていたら、リュザールが一軒の家の前で荷馬車を止めた。


「確かここだった」


 リュザールもバーシの隊商にいたころはここまで行商に来ていたようだし、そのころの記憶があるのだろう。


 すぐに、荷馬車の音を聞きつけたのか、トールさんが家の外まで出てきた。


「あれ? 誰かと思ったら、これはソルさんではないですか。ご無沙汰しております。それで、急にどうされました?」


「トールさんもお変わりなく。銅貨ができたので、お預かりしていた銅の分をお持ちしました」


「おー、そうでしたか、まずは中に。人伝ひとづてに少し聞いてはおりますが、よくわかっておりません。是非、詳しい話を聞かせてください」




 私たちはトールさんの家の居間に案内され、持ってきた銅貨の使い方をほかの村でやってきたように説明していたら、


「ソルさん! ジャバト借りていきますね!」


 いきなりルーミンが飛び込んできた。


「ルーミン! お前も来ていたのか」


「トールさんお久しぶりです。さあ、ジャバト急いで!」


「ちょっと待て! さっきまでお前の結婚相手について親父さんと話していたところだ」


「その件については、トールさんにも言いたいことがありますが、まずはお父さんです。では、失礼します!」


 そう言って、ルーミンはジャバトを連れて出て行ってしまった。


「あのー、トールさん。お話を伺ってもいいでしょうか?」




 トールさんが話してくれた内容は、ルーミンが以前言っていたことと瓜二つだった。


「うわ、それじゃルーミンが怒るはずだ」


「やはり、そうでしょうか。私もやめた方がいいと言ったのですが……」


 結局、ルーミンのお父さんが決めた結婚相手は、お嫁さんに先立たれたおじさんで、仕事はできるけど家庭内でのうわさがよくない人だった。


「でも、どうしてルーミンのお父さんはそんな人を選んだのでしょうか」


 はっきり言って、ルーミンが危惧していたその辺の人よりも悪いと思う。


「あそこの家は男の子が多くて、結婚相手を探すのも苦労しているのですよ」


 トールさんの話を聞くとわからない話ではなかった。男の子は結婚するときにはお嫁さんの家に、結納としていろいろな物資を送ることになっている。それは嫁いできてくれる、お嫁さんを育ててくれたことに対するお礼の意味があるのだけど、男の子が多いとその結納に支払う費用も馬鹿にならないのだ。

 逆に女の子の場合は貰う方なので、おそらくルーミンの結婚相手のおじさんはその結納の品をたくさん送るとでも言っているのだろう。


「ルーミンは、ジャバトを連れて行ってどうするのかな」


 リュザールの呟きにトールさんが反応する。


「その、ジャバトという男の子はルーミンとはどういう関係なのでしょうか?」


「師匠と弟子……」


「師匠と弟子ですか……それで、いったいどうするつもりなのでしょう?」


 トールさんではないが、私もさっぱりわからない。正直、このままルーミンを待っていても仕方がないので、私とリュザールで銅貨の話を引き続き行い。明日、村人への説明を行うことになった。




 トールさんが私たちを泊めてくれるというので、そのまま居間で食事の用意を待っていると、ルーミンとジャバトがやってきた。


「ソルさん! ジャバトに、いや私にお金を貸してください!」


 どういうこと?


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あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「お金を貸してと頼まれました」

「ルーミンも余程慌てていたんだろうね、麦とか銅貨とか言わずにお金って言っていた」

「そういえばそうだ。私も気づかなかったよ」

「トールさんもいなかったから不思議に思われはしなかったと思うけど、何に使うんだろうね」

「うーん、前回のお話でお金の使い道が無いって話していたんだけど、何か見つけたのかな」

「次回の話をみたら分かるかもしれないね」

「そうかも。それでは次回のご案内です。内容は、今日のお話の続きになるみたいです」

「「皆さん次回もお楽しみに―」」

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