第91話 パルフィの出産

 その日は朝から大変な騒ぎになった。




「ソル! 早く来て! 生まれそう!」


 まだ夜も明けきらないうち、ユーリルが私たちの部屋に飛び込んできた。


「サーシャ! 母さんとユティ姉を起こしてきて! ルーミンとコペルはリムンたちに頼んで水汲んでもらってお湯を沸かして! できるだけたくさん!」


 私はユーリルとともにパルフィのもとに向かった。






「どう? パルフィ」


「へへ、す、すまねえな。ようやく……生まれ……て……きてくれそう……だぜ」


 パルフィは寝室の中でお腹を抱えて辛そうな表情だ。


「今、母さんとユティ姉が来るからもう少し頑張ってね。ユーリルは、パルフィを動かすから手伝って」


 私たちはパルフィを抱え、少しでも楽な姿勢にしてあげる。


「よし! それじゃあ、ユーリルは出て行って」


「え、なんで?」


「なんでって、ここはテラだよ。地球みたいに男は出産に立ち会わないの」


 テラでは出産は女性の仕事だ、薬師の父さんでも立ち会うことは無い。


「し、心配する……な。みんな……い……いるから……よ。おやじに……なるんだろ、じっと……かまえ……ておくもん……だぜ」


「わ、わかった、みんなパルフィをお願いね」


 ユーリルと入れ替わりに母さんとユティ姉がやってきた。


「パルフィ、よく頑張ったね。あとは私たちがついているから安心して。今、コペルとルーミンがお湯を沸かしてくれているから、もう少し辛抱してね。ソルは今のうちにタオルと毛布を持ってきて」


 私たち兄弟三人と、ユティ姉の二人の子供の出産を経験している母さんは的確に指示を出す。





 私は織物部屋にこの日のために用意していた清潔なタオルと毛布を取りに向かう。


 工房横の井戸には、お湯を沸かすための水を汲み終えたリムンたちと、部屋を追い出されたユーリルが所在なさげに立っていた。


「ねえ、ソル。生まれた?」


 ユーリルは私の姿を見つけると駆け寄って来た。


「今さっき、部屋を出たばかりじゃない。もうちょっとかかると思うから、みんなも部屋に入って待っていなよ。生まれたら真っ先に知らせてあげるからさ」


 織物部屋のタオルと毛布を持ち、慌ててユーリルの家へと向かう。

 ユーリルにはああは言ったが、ユティ姉の二人の子供の時と比べても、もう生まれてもおかしくない気がした。




「さあ、いきんで! 赤ちゃんも頑張っているんだからしっかり!」


 思った通り、部屋の中ではすでに出産が始まっていた。


「母さんタオルと毛布持ってきたよ」


「ありがとうソル。パルフィの汗を拭いてあげて」


「湯冷まし持ってきました。あ、もう始まっている」


 ルーミンたちが来たようだが、私にはそれを見ている余裕はない。


「ちょうどよかった。少し器に移して、手を洗うから。そしてまたお湯沸かしてきてね」


 さすが母さんだ、こういう状況でも慌てることは無い。


「わかりました。今、冷ましているのもあるのですぐにとってきますね」


 コペルとルーミンの二人は、慌ててお湯を取りに行った。


 その間も出産は続く……


「ほら、頭が出てきたよ。もう少し頑張って!」


 それからしばらく、パルフィを励ましながら、なおも出産が続く…………




「もう少し!」


「っんー!!」


 パルフィのいきむ声とともに一人目の赤ちゃんが出てきて、部屋の中に赤ちゃんの元気な産声が響き渡る。


「よくやった! もう一人いくよ!」


 やはり双子なんだ。


 ユティ姉と一緒に、一人目の赤ちゃんを濡らした清潔なタオルで拭いてあげる。あ、男の子だ。


「っんんー!!!」


 二人目の赤ちゃんも大きな声で産声を上げた。


「お疲れ様、パルフィ。二人とも元気な男の子だよ」


 二人の赤ちゃんをパルフィに見せる。


「へへ、嬉しいな。あたいとユーリルの子だ」


「うん、そうだね。ユーリルにそっくりだよ。それじゃあ弟クンの方、きれいにするね」


 上の子はパルフィに抱かせ、下の子を母さんから受け取りきれいにしてあげる。




「あのー、ユーリルさんが外にいて入っていいか、聞いてきたのですが……」


 外に汚れたお湯を捨ててきたサーシャが聞いてきた。呼びに行くと言ったのに産声を聞いてやってきたのだろう。


「ダメダメ、いいというまで外にいるように言って」


 まだ駄目だよ、産後の処理をしっかりしないとパルフィも赤ちゃんも病気になっちゃう。






 それからパルフィも双子の赤ちゃんも綺麗になった状態でユーリルを中に招き入れる。


「パルフィ!」


「おう! これでおめえも親父だな」


「え、あ、僕の子供……二人!」


 ユーリルは、パルフィの横で寝ている二人の赤ちゃんを見て驚く。


「そうだよ、双子だった。抱いてみる? あ、手はそこで洗ってね」


 ユーリルは器に入ったお湯で手を洗い、私からお兄ちゃんの方の赤ちゃんを受け取った。


 ユーリルは恐る恐る赤ちゃんを抱きかかえ、


「あ、合っているかな。僕、赤ちゃんを抱くの初めてで」


 そっか、ユーリルも竹下も一人っ子だ。下の子の面倒とか見たことないはずだ。


「首が座ってないから頭を支えてあげて、そうそう。この子がお兄ちゃんね」


「ち、長男! パルフィ。僕、僕、もう」


「泣くな! あたいもへとへとでおめえの事、慰めてる余裕がねえんだ。親父なんだからしっかりしろ!」


「わ、わかった!」


「はい、この子が弟クンね」


 ユーリルから上の子を預かり、下の子を預ける。


「そっくり!」


「双子だからね。それで、ユーリル、パルフィ。名前は決めているの?」


「パルフィとも話したんだけど、男の子か女の子かわからなかったし、はっきりとは決めてない」


「おめえに任せる。男らしい名前にしてくれ」


 それにしてもこの子たち、近くで騒いでいるのにぐっすり寝ているな。この子たちならパルフィが言うように、鍛冶工房で育てても大丈夫なのかもしれないね。


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あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「よかったねお父さんだよ」

「あんなに小っさいのに二人とも手を握り返してくれた! 僕の子供たちはきっと天才なんだ!」

「いや、赤ちゃんの正常な反応だから。でも、元気な証拠だよ」

「そっか、元気な証拠か……ふふふ、僕ね、樹に繋げてもらって感謝している。ユーリルのままだったら、きっとパルフィとも一緒になれなかったし、こんなかわいい子供たちを持つことはできなかったはず。本当にありがとう」

「お礼なんていらないから。私もユーリルのおかげでいろいろと助けられているし、二人にもこの子供たちにも幸せになってもらいたい。そのためにはまだやらないといけないことがあるんだけど、協力してくれるかな」

「もちろん! この子たちのためにも頑張るよ」

「これからもよろしくね。ということで」

「「次回もお楽しみにー」」

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