第90話 学校帰りの集まり:樹の部屋2

 翌日の放課後、通常なら武研の活動日なのだけど、中学が中間試験で休みなので、みんな僕の部屋に集まってもらった。


「竹下先輩、パルフィさん気持ちよさそうでしたね」


「うん、よかった。本当に間に合ってよかった。凪たちが温泉を調べてくれて助かったよ。ありがとう」


 凪と海渡は武研の合宿の時に、温泉旅館で竹下の頼まれたいろいろな設備や器具のサイズを測っていた。その記録は竹下に伝えられ、竹下はその記憶を持ってテラの浴場の建設に役立てたのだ。


「いえいえ、僕たちもお風呂入りたかったからお安い御用ですよ。それで樹先輩、パルフィさんの出産はもうすぐですよね」


「うん、予定日はあと10日ぐらいだと思う」


 今回パルフィは生まれて初めてお風呂というものに入った。出産間近で初産。正直入らせるのはどうかと迷ったが、いざとなったらソルが取り上げたらいいし、何より本人たちが楽しみにしていたから入らせることにしたけど、心配は杞憂だった。


「そうですか。ユーリルさんもとうとうパパですね。それにしても新婚初夜で的中ですか。さすがです。アラルクさんは翌月持ち越しだったのにですね」


 ゴン!


「海渡下品!」


「姉ちゃんいたい。ゲンコツはやめてっていってるじゃん。ルーミンの時は絶対しないでよ兄ちゃんリムンの腕力じゃシャレにならないから」


リムンは紳士だから女性には手をあげないよ。それにしてもびっくりしました。あんなに垢が出るなんて。たぶん匂っていたはずですが、気づかなかった。慣れていたんですかね」


「そうかもしれないね。僕も髪なんていくら石鹸付けても泡立たないし、どれだけ汚れていたんだって思ったもの」


「水で流すことしかできなかったからね。それで樹、昨日ジャバトが来たから聞けなかったけど、サーシャはどうだったの」


「うんとね、結論から言うと、一年の碧だと思う」


「え、本当ですか! それじゃ早速、明日の夜繋げちゃいますか?」


「海渡、腕まくりなんていらないから。それに、たぶん繋がんないと思う」


「ん? それで、どうして碧だとわかったんですか?」


「サーシャの口からその名前が出たんだ。それに碧から聞いた病気の時期とサーシャから聞いた碧の病気の時期がほぼ一緒だった」


「それなら繋げられそうだけど……あ、碧の奴、一度死にかけたって言っていましたね」


「そうなんだ、サーシャはその時以来碧の夢を見なくなって。碧は原因不明の病気が治っている」


「えーと、つまり樹が考えてるのは、碧とサーシャが繋がっていることによって碧が病気になってしまって、その繋がりが切れたから今は元気になっているということ?」


「うん」


「そうか……それなら仮に繋げられるにしても、碧に影響が出るかもしれませんね」


「そういうこと。そして、サーシャにはこの話を聞くために僕たちの事話しているから、協力してくれる仲間ということでお願いするね」


「わかりました。そういえば、焚口のところでジャバトと話していましたけど、その話をしていたんですか?」


「いや、さすがにその話はジャバトにはできないから、とっさにサーシャの旦那さんにリムンはどうかって話してきた」


「え、リムン?」


「そそ、ジャバトもリムンなら安心できるって言っていたよ」


 凪は地球とテラで違う人格の人を好きになれるか自信がないと言って、人を好きになることに臆病になっていたから、テラでサーシャを好きになって、地球で碧を好きになれたとしたらその心配は無くなる。

 まあ人の恋路をあれこれ言うのは余計なお世話だけどね。ただ、凪はまじめに考えすぎるところがあるから、少しは背中を押してやらないと先に進まないような気がする。少しのおせっかいは必要だろう。凪のためなら、世話好きおばちゃんの役を引き受けるのもやぶさかではない。


「少し考えさせてください」


「無理には言わないよ。凪とリムンの気持ちが一番だからね」


兄ちゃんリムンがサーシャなら、ルーミンはジャバトですか?」


「いいじゃん、ジャバトとしばらく一緒に働いたけど、妹思いのいい子だったぜ」


「竹下先輩そう言いますが、僕が希望する樹先輩ぽく無いと思うんですけど」


「そうか? 融通利かなそうなところとかそっくりだと思ったぜ」


 あれ、もしかして僕、融通利かないって思われている?


「まあ、確かに樹先輩はいろいろとめんどくさいですけど、僕たちの事ちゃんと考えてくれていますよ」


 め、めんどくさい……


「ジャバトも人の事考えて行動していたぜ、それに樹ほどヘタレじゃないから、しっかりしているしさ」


「へ、ヘタレ……もう、それくらいにして」


「あ、樹、すまん。海渡を説得しようとして、つい」


「樹先輩。ごめんなさい。時たまこんなふうにめんどくさいけど、全然めんどくさいなんて思ってないです」


「もうだめ……」


 海渡にとどめを刺され、僕は倒れこんでしまった。


「まあ、樹のことはほっといて、話を続けると、俺らとしてはリムンとルーミンには幸せになってもらいたいと思っている」


 話し続けるんだ。ふん、どうせめんどくさいですよ。


「姉ちゃんにはテラにサーシャ、同じ人格というのならこっちには碧がいるじゃないですか。僕はジャバトだとしてこっちでは誰と一緒になればいいんですか?」


「うーん、唯でいいんじゃねえの」


「え、唯ちゃん。ジャバトと一緒の人格なんですか?」


「わかんないけど、姉弟だしジャバトと唯、同い年だろう。お前たちみたいに一緒かもしれないぜ」


「そうなのかなあ、樹先輩はどう思います……って、何やっているんですか。イチャイチャするのは二人っきりの時にしてくださいね」


 しまった。風花に頭を撫でられているところを見られてしまった。


「い、いや、ジャバトと唯が一緒かどうかはわからないけど、唯ちゃんに彼氏とかいないのかな」


 急いで座り直し、風花たち女の子に聞いてみる。


「唯ちゃん、彼氏いたことないって言っていたわよ。ねえ、風花さん」


「うん、高校生になる前に早く彼氏欲しいって言っていたから、海渡君、早くしないと誰かに取られちゃうかもよ」


「唯ちゃんか、そういう気持ちで見たことなかったから……しかし、おかしいですね、樹先輩と風花先輩の距離感。こんな感じでしたっけ?」


「あのな海渡、暗黙の了解というものがあってだな」


 た、竹下。もしかして、気づかれている?


「!!! ギキギー、ぐやじい! わ、わかりました。僕だけ置いてけぼりはかないません。唯ちゃんと仲良くなれるかわかりませんが頑張ってみます!」


 とりあえずこれでOKなのかな?


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あとがきです。

「海渡です」

「樹です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「先輩。触れて欲しいですか?」

「そっとしといて……」

「わかりました。武士の情けです。ヘタレな先輩にしてはよくやったとほめてあげます」

「……たまに思うんだけど、海渡って僕の事本当に先輩と思っている?」

「もちろんじゃないですか! こんなに先輩の事愛している人間は他にいませんよ」

「いや、愛してほしいんじゃなくて、敬意をほんの少しだけでもいいので払ってもらいたいだけなんだけど。むしろ愛してもらったら困るから」

「いやいや、嬉しい癖に。まあ、いいでしょう。敬意ですね。そういうことならこの海渡、先輩のために一肌脱ぎましょう!」

「え、何やるの?」

「みんなに言って、先輩の事を崇め奉るあがめたてまつるよう手はずを整えてきますね」

「!」

「まずは、先輩をご神体にしたお社を作って、誕生日には生誕祭をやって……」

「ごめん。僕が悪かった、今まで通りでいいです」

「遠慮しないでください。早速竹下先輩に相談して……」

「じ、次回予告の時間です」

「次回は朝から大騒動なようです。何が起こったのでしょうか」

「皆さん次回をお楽しみに―」

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