第88話 二度目の温泉合宿2

 温泉旅館にお昼頃到着した僕たちは、去年と同じように宿のロビーで部屋割りをすることになった。今年も各部屋3人ずつだったので、由紀ちゃんにお願いして碧君を僕と海渡と同じ部屋にしてもらうように頼んだんだ。


「すまんな、碧の事頼む」


 由紀ちゃんも碧君の事が気になっていたらしい。


 部屋割りが由紀ちゃんから発表され、碧君が僕たちのところにやってきた。


「あ、あの先輩、西川碧です。よろしくお願いします」


「碧君よろしくね。僕は立花樹」


「僕は中山海渡。よろしく!」


 部屋に荷物を置いて、昼食を風花たちと食堂で食べてるときに、碧君との食事を終えた姉の唯がやってきた。


「樹先輩、海渡先輩。碧の事よろしくお願いします。碧は……」


 唯ちゃんの話では、碧君は体が弱くて小学校の頃はあまり学校には行けなかったらしい。そして6年生になってすぐに容体が急変し、一度は心臓が止まったこともあったそうだ。でもそのあと奇跡的に回復して、6年生の終わりころは学校に来ることができるようになったようだけど、なかなか他の子たちとうまく付き合うことができないみたい。

 そこで唯ちゃんが体を鍛えることもできるし、仲間も作れる武研に誘ってみたというわけだ。


 うちの子たちはみんな仲がいいけど、他のみんなも碧君が入ったばかりで距離感がつかめていないのかもしれないな。


「唯ちゃん、できるだけのことはやってみるよ」


「そうそう、唯ちゃん。僕と樹先輩に任せておいて」




 食事のあと、武道場に向かい午後の訓練を始める。


 一年生はつかむ訓練からだ。

 風花が三年生を、由紀ちゃんと凪が二年生の相手をしてあげているので、僕と海渡で一年生の面倒を見ることになった。


「相手の動きをよく見て! 意識してみたら筋肉の動きがわかるようになるから」


 今年入った一年生は6人で、二人一組になって相手を掴む訓練をしている。

 碧君の方は、今は掴まれる立場なのでペアの子の方をじっと見て、いつ動いてくるかわからない相手の様子を探っている。


「掴む方は30分の間ならいつ動いてもいいからね。逆に掴まれる方は相手が動くまで動いたらだめだよ」


 この訓練、簡単そうに見えてなかなか大変なのだ。掴む方も掴まれる方も相手の様子をずっと見ておかないといけない。忍耐力の勝負になる。

 でも、これを続けることによって、普段でも相手の様子を見る癖がつくみたいで、ちょっとした相手の変化がわかるようになり、それで武研の子たちはほかの部活の子たちよりずっと仲がいいのだと思う。


「やった!」「あー、やられちゃった」


 碧君が相手から腕を掴れたようだ。


「はーい、一回攻防が終わったところは攻守変わってやってくださいね。終わってないところは終わるまでそのまま続けて」


 海渡の言葉で碧君たちのペアは攻守を変えてやり始めた。




「はい、それでは次はペアを変えます。時計回りに入れ替わって」


 30分ごとにペアを替え、夕方近くまでその練習を続けた。




「はい、それでは今日の訓練はこれで終わります。夕食は食堂に時間厳守で集合! それまでは各自自由に行動して構いません。それでは解散!」


「「「押忍!」」」」


 今日のところは碧君も何とか頑張っていたけど、うまくはいかなかったようだ。まあ、最初だからね。でも、みんなと少しは話ができるようになっているようだから、もうちょっとだけ手伝ってあげたらいいように思う。




 というわけで、夕食までの一時間の自由時間。この時間はかいた汗を流す時間だ。つまり温泉だ!


 部屋に戻り着替えをもって、海渡と碧君の三人で今日のお風呂へと向かう。今日の男風呂は二階の古い浴場の方だ。


「海渡、メジャー持ってきた?」


 エレベーターの前で海渡に確認する。


「もちろんですよ。頼まれた仕事はちゃんとこなしますからね」


 まあ、文句も多いと思うけどね。


「あのー、メジャーは何に使うんですか? 僕、こういうところ初めてで、よくわからないから教えてください」


「ならば教えてしんぜよう」


「いや、海渡。竹下の真似はしなくていいから、普通に教えてあげて。それでね碧君、メジャーは竹下が浴場の研究をしててね、今日参加できないから僕たちに測ってくるように頼んできたんだ」


「そうなんですね、わかりました。あのー樹先輩、お願いがあります。みんなと同じように僕のことも呼び捨てにしてください」


 そっか、最初から君付けで呼んでいたからそうしてたけど、結果として他の子と違う呼び方になっていたのか失敗失敗。


「ごめんね碧。それじゃ、お風呂行こうか」


「はい!」





 浴場の脱衣場に行き中を見ると、今年もまだ他のお客さんは入っていないようだ。


「碧、こういうところは分かるの?」


「いえ、僕は去年まであまり外に出ることができませんでした。だから銭湯とか温泉とか初めてです」


 僕と海渡で脱衣場の使い方や温泉の入り方を教える。



「去年の海渡みたいだね」


「海渡先輩?」


「そうそう、去年の海渡もこういうところが初めてで、竹下に教わっていたよ」


「竹下先輩が男たるもの隠すべからずって言うから、みんな本気にして武研の子たちはそのまま入っていたよ。ほら、今年もそのまま入っているでしょう」


 確かに去年からいる子は隠してないな、まあ、一度見せてるから今更隠しても一緒ということだろうね。


「みんな、いつもこうなんですか?」


「違うと思うよ、僕も去年の勉強合宿ではみんなに合わせて隠して入ったから」


 隠す隠さないは個人の自由だと思うけど、そのあたりは臨機応変だろうね。体を洗い終えた僕たちは湯船の中に入り話を続ける。


「それで、海渡先輩も僕と同じように体が弱くてこういうところ使ったことが無かったのですか」


「ううん、僕の場合はタイミングが悪かっただけ。修学旅行のたびに熱出してた。今思い出しても悔しい……」


「その体のことだけど、唯から少し聞いてる。今はもう大丈夫なの?」


「はい、僕はその時のことをよく知らないのですが、去年の春頃に一度死にかけたらしいです。でも、そのあとなぜか急によくなって、今は何ともないです」


「何の病気だったか聞いていい?」


「原因不明の病気でした。いいときは何ともないのですが、悪くなると歩くことはもちろん動くことさえできなくなって、息をするのも苦しくて……」


「そっか、大変だったんだね」


「でも今は平気ですから。早くみんなと一緒に色々なことしてみたいです。今日はありがとうございました。先輩たちのおかげで他のみんなとも話すことができました」


 思った以上に前向きだ。この調子なら僕らが何もしなくても、他の子たちともうまくやっていけるだろう。




 翌朝のランニング。当然参加するつもりで準備していたけど、結局集合時間ギリギリになってしまって……


「遅い! またか樹!」


「ごめんなさい!」



 ランニングに出発した後、風花が近づいてきた。


「どうしたの? 碧君に何かあったの」


「いや、別に何もないんだけど……」


「……ふーん、男の子ことは分かっているつもりだけど、毎回だと私も少し考えちゃう」


「え、いや、別にそういうわけじゃないから」


「さあ、どうしようかな」


「ま、待って風花!」


「そこ! 遊んでないで、真面目に走れ!」


 今年も由紀ちゃんに怒られてしまった。


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あとがきです。

「樹です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「温泉合宿の回でした」

「はい、前回約束した通り、樹先輩の温泉の描写をしてみたいと思います」

「!!」

「白濁したお湯に足を入れる。生まれたままの姿だ。当然隠すものは何もない。白く濁ったお湯があまり灼けてない張りのある肌をすべる」

「ちょっと待って、それって男風呂の描写なの?」

「もちろんそうですよ。続けますね。しばらく経っただろうか、おもむろに立ち上がり隣の湯船へと向かう。んっ、となまめかしい声をあげながら、体を湯船に沈めこむ。おそらくお湯の温度が高いのだろう。しばらくすると赤みがさした肌がさらに赤く色づいていく……」

「もう、やめて」

「先輩の行動をそのまま描写しただけですよ。何か違っている所ってありました?」

「いや、ない」

「では、続けますね」

「ストップ! 次回予告の時間だから」

「ちぇ、これから面白くなるのに」

「次回はテラでもようやくお風呂が完成します」

「こうなったら薄い本でも作って公表してやる」

「ちなみに16才は18禁の本は出せないからね」

「!?」

「では、皆さん次回更新をお楽しみにー」

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