第84話 お風呂建設開始
4月の半ば、お風呂というか浴場を作る準備が整ったということで、ユーリルたちはその建設に取り掛かった。建設場所は、鍛冶工房の先にある小さな川を利用するのでその近くになる。作業は工房の男たちみんなで行うことになっていて、荷馬車や機織り機の納品が少し遅れてしまうかもしれないけど、みんなの福利厚生のためだから仕方がない。我慢してもらおう。
ユーリルの計画では、浴場の中に鍛冶工房で作ったお湯を沸かすための金属製の釜と、木こりのオジャクさんにお願いして作ってもらった湯船を設置して、さらに体を洗うためのスペースと脱衣場まで完備するらしい。
どういうものかというと、川の少し上流から
カインの南にそびえる山の山頂には年中雪が積もっているから、鍛冶工房横の川は雪解け水が流れていて一年中水が枯れることもないし、川の水が凍るほど寒くはならない。それにここの川の水は飲んでも大丈夫なほどきれいなので、お風呂として使うには申し分ない。
計画通りに浴場が完成したら一年中お風呂を楽しむことができる。まさかテラでお風呂に入れる日が来るとは夢にも思っていなかった。
お風呂を知っている私たちはもちろん、話を聞いた村の人たちもみんな楽しみにしているから、ぜひとも完成させたいと思っている。
「ねえ、ユーリル。完成にはどれくらいかかりそう?」
「うん、風呂釜はもう準備できているし、湯船の方もばっちり。それに川から水をひく場所は作業終えて樋をつけるだけだし、その樋に使う木枠もオジャクさんに頼んで前もって作っていたから組み立てるだけ、そんなに時間かからないかな。一か月もいらないと思う」
一か月か、その頃ならパルフィの出産も近い時期だ。きっと清潔な体で出産を迎えることができる。
ユーリルたちが浴場の建設を頑張ってくれている間、工房の織物部屋は相変わらずのタオルメインの作業で
「ああ、私がいったい何をやったというの? これはきっとタオルの呪いなんだわ」
「ルーミンどうしたの。頭でも打ったの?」
「ラーレさん聞いてくださいよ。人が増えたというのに相変わらずタオルばかり織っています。これはきっと呪いなんです。前世でタオルに恨まれることをやったに違いありません」
「タオルばかり織っているのは知っているけど、前世って、タオルはこの前できたばかりだから、恨まれるならルーミンあなたのはずだけど」
「あ、あはは、そうでした。それじゃあ勘違いですね」
ルーミンはたまにこうやって自分で墓穴を掘ろうとする。いつものことなのでみんなも気にしていない。
「そうよ。みんながタオルを待っているんだからしっかりと織らないと。それに私もそろそろ手伝いができなくなるから、その分もお願いするわね」
パルフィから一か月遅れのラーレのお腹も大きくなってきている。それに、お腹の子供のお父さんのアラルクもラーレのお父さんも大きな人だから、特に大きいような気がする。これからはあまり無理をさせられない。
「はーい。それでソルさん追加の
「うーん、どうだろう。リュザールに頼んでいるけど、戻ってこないとわからないよ」
風花とは毎日会っているので、リュザールの状況は知っている。明日、男の子と女の子を連れてカインに帰ってくるはずだ。当然ルーミンも知っているけど、みんなにおかしく思われないように、わざと聞いてくることがある。特に自分が失敗したときに言ってくるので注意が必要だ。
風花から聞いている二人は、マルト村から合流してきた男女の兄妹。両親が亡くなって身寄りがなくなったそうだ。マルトなら蚕さんの飼育を手伝ってもいいと思うんだけど、村にいたくない事情があるのかもしれない。15才と13才というから年齢的にもリムンたちのお相手にちょうどいいのだけど、マルトからカインまでの間くらいでは、リムンたちが言っていた条件に合うのかはわからない。
でも、この二人。リュザールからはいい子たちのようだと聞いている。明日にはこの村に到着するのでどんな子たちか今から楽しみだ。
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あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「お風呂順調だね」
「うん、おかげさまでね。でも、もう少しうまくできないかと考えているんだけど、調べに行く暇がなくて……」
「調べって何を?」
「お風呂の中の設置位置とか、用具の形とか」
「え、今から間に合うの?」
「あ、浴槽のサイズとかは変えないから置く場所だけね。どうしたら使いやすいか考えているんだけど、実際の温泉とか見てみたいんだよね」
「由紀ちゃんの彼氏さんのところは使いやすかったよ。今度の連休に武研で行くでしょう。その時に見てきたら?」
「まだ由紀ちゃん先生には言ってないけど、残念ながら剛は不参加。お店のイベントと重なってしまった……」
「ありゃま、それでどうするの?」
「凪と海渡に頼もうと思っている」
「ああ、そうだね、あの子たちなら男と女の両方の視点で見てきてくれるよ」
「そういうことだから、樹もよろしくね。樹は生まれたときからだから両方のことよくわかるでしょう」
「あはは、了解。よく見ておくね。さて、次回予告の時間となりました」
「次回は新キャラのことがわかります。この子たちはこれから誰かと絡んでくるようですね」
「皆さん次回もお楽しみに!」
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