第83話 学校帰りの集まり:樹の部屋1

 春の中日(お彼岸)も近くなり、雪もかなり解けてきた。

 ユーリルは、パルフィと話をしていて思いついたお風呂を作るための準備で忙しそうだ。


 そろそろ銅貨の方も溜まってきているので、普及させてもいい頃なのだけど、そのためにはユーリルは数か月カインを離れないといけないかもしれない。パルフィの妊娠も8か月に差し掛かろうとしているこの時期に、そばにいさせてあげないのは酷なので、子供が生まれてから行ってもらおうと思っている。




「リュザール、いってらっしゃい。みんなも気を付けてね」


 リュザールたちの隊商も雪解けに合わせて動き出す。冬の間に作りためておいたタオルや鉄製の農具などを荷馬車一杯に積んで出発していった。


 結局男の人が入らずに、女だけの織物部屋で作業しながら考える。


 春の中日が来ると私たちは17才になる。ルーミンとリムンにコペルは16才。

 コペルにはテムスがいるからいいとして、ルーミンとリムンにはそろそろお相手がいないとおかしい時期になってきた。


「さて、どうしたものか……」


「ソルさんどうしたんですか。おててが止まってますよ」


 機織り機の前でぼーっとしているのを、ルーミンにとがめられてしまった。


「ルーミンとリムンのお相手をどうしようかと思って」


「ほんとそうよルーミン。誰か気になる人はいないの?」


「ラーレさん、探してはいるんですけどなかなか。誰かいませんかね、このままだと父さんが本当にその辺の人連れてきちゃいます」


 その辺の人というのは無いとは思うけど、長男長女でない場合は、そこまで気合を入れて子供たちの結婚相手を探さない親も確かにいる。

 そういう時に相手を見つけてないと、一度結婚したけど、相手が亡くなったり、事情があって別れたりした人の後添えとしてあてがわれることもある。

 その相手がいい人であったのならいいのだけど、もし問題があって別れていたとしたら、その後の人生は大変なことになるかもしれない。


 うちの工房の子たちで、年頃なのに相手がいないのはルーミンとリムンの双子だけ……


「はてさて、どうしたものか……」


「だからソルさん、おててが止まったままですよ。私にはそのうち白馬に乗った王子様が迎えに来てくれますから心配しないでください」


「あらルーミン。馬なんて毛色で選んじゃだめよ。力があるか、丈夫かで選ばないと後悔するわよ」


 ラーレの馬講座が始まった。しばらくはこの話題が続きそうだ。


 どこかに男の子と女の子が落ちていないかな……






 お彼岸が過ぎて月が替わり、僕たち三人は高校2年生になり、凪と海渡の双子も、同じ高校の入試を突破し晴れて下級生となった。


「これでいつでも先輩たちと会うことができますね」


 これまでもSNSでグループを作っていたので、いつでも相談はすることができた。でもやっぱり、直接会った方が話は早い。


 とはいえ、凪たちと学年が違うので頻繁に会うことができない。かといって部活を作ろうとしても、武研の活動も見ないといけないので、そういうわけにはいかない。


 そこで、武研の活動がない火曜日と木曜日は、学校帰りに僕の家か竹下の家に寄って話をすることにした。ちなみに武研の活動日には、僕たちの中から二人が手伝いに行くことになっている。





「今日のお昼、みんなで集まって話したじゃないですか。それを見ていた同級生から笑われましたよ」


 今僕たちは、学校帰りに僕の部屋で車座になっている。部屋は広くはないけど、この五人なら狭く感じることもない。


「なんで?」


「お前の頭で、あの先輩たちと一緒にいてついていけるのかって。失礼しちゃいますよね。僕だってやるときはやるんですから」


 もう下級生の間でも知られているのか……僕と風花はともかく、竹下は学年トップクラスの成績だ。というのも、穂乃花さんは受験に合格し4月から東大に通っている。竹下も再来年の受験で、東大に入って一緒に通うんだと言って猛勉強しているのだ。それで本当に学年トップクラスになれるのだから大したものだと思う。


「海渡も本気で勉強したらいいと思うんだけど……」


「え、まあ、必要があったらやりますけど、今のところは人生を楽しみたいです。…………なんか姉ちゃんが気になっているようなので僕が代わりに聞きますけど、リュザールさんは今どちらですか?」


「か、海渡!」


 あー、リムンはリュザールに憧れていたからな。それに部屋でもテムスと二人だけだし、少し寂しいのかもしれないな。


「ボク? 今はカルトゥからコルカへ向かっている所だよ」


「そうなのですか、それじゃあ戻ってくるまでしばらくかかりますね」


「うん、だからみんなパルフィのことお願いね」


 パルフィとリュザールが姉弟かもしれないとわかってから、身寄りがないと思っていたリュザールに心境の変化があったような気がする。


「ところで凪と海渡はここにきてよかったの、新しいクラスで帰りにどこかに行くとかあったんじゃないの?」


「あー、今日は何もなかったですね。違う中学の子も多いのでまだ様子見という感じです」


 僕たちの時もそうだった。仲良くなってくるには一か月くらいかかる気がする。


「クラスの行事があるときは無理しなくていいから。僕たちもそうするし」


「わかりました先輩。でも僕は、重大な使命があってきました。初めて先輩の部屋にお招きにあずかりましたからね、お宝を探さなければなりません」


 そう言って部屋の中をきょろきょろと見回す海渡。


「うーん、ベッドが無いからその下ではないし……」


「海渡。樹はね、本の間に隠しているよ」


 余計なことを言う竹下。


「ふふふ、そういうことでしたか。木を隠すには林ですね。……森でしたっけ」


 そう言って本棚を物色し始める海渡。


「森の中ね。それでリュザールにお願いがあるんだけど」


「ボクに?」


「あれ、止めないんですか。見つけちゃいますよ」


「うん」


「おかしいですね。お宝は別の場所ですかね」


「海渡! うっとうしいから座ってなさい」


 ゴン!


「うう、姉ちゃん。だからゲンコツは痛いって」


「すみません樹先輩。黙らせたんで話を続けてください」


「ありがとう凪。あのね、リムンとルーミンの事なんだけど、村にはちょうどいいお相手がいなくて、リュザールに他の町にいないか探してもらいたいんだけど、いいかな」


「お相手か……二人はどんな人がタイプなの?」


「私は……リュザールさん」


「僕はソルさん!」


「言うと思った」


 竹下の言う通りこの二人の理想の相手はリュザールとソルなのだ。当然そのままの希望をかなえてやることはできない。


「つまり、ボクみたいな女の子と樹みたいな男の子を見つけてきたらいいのかな」


 二人して同じような仕草で考えだす。


「風花先輩みたいな女の子……」


「樹先輩に抱かれる……」


 海渡のその言い方はおかしいから。ルーミンは抱けないし、海渡は抱かないから。


「そうですね、風花先輩のような女の子がいいです」


「うん、わかった」


「僕は樹先輩がいいです」


「ごめんね、樹はやらないよ。でも、似た子がいないか探してみるね。……あれ、何か引っかかる…………あ、思い出した!」


「何を?」


「マルトの村長さんから男の子と女の子を預かってくれって頼まれていた。準備ができていたら帰りに一緒に連れて行きますって言っていたんだ」


「どんな子だったの?」


「会ってないけど、少し年下だって聞いている」


 その子たちの準備ができてたらあと半月くらいでカインに来るのか、どんな子たちだろう。


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あとがきです。

「樹です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「またこいつとか」

「かわいい後輩に向かって、こいつとは何ですか。失礼しちゃいます」

「ごめんごめん。でも、自分のことをかわいい後輩っていうのも大概だからね」

「えへへ、照れちゃいます。樹先輩もかわいいですよ」

じっと見つめあう二人。

「いや、やってない、やってない。見つめ合ってない。へんなナレーション入れないで」

「ちぇ、まあいいや。それにしても樹先輩のお宝は、どこに隠してあったんでしょうか。まさか持って無いということは無いと思うんですが、竹下先輩もわからなかったみたいですし」

「黙秘権」

「ちゃんと僕の目を見て答えてください」

じっと見つめあう二人。

「ここのナレーションか! 違う場所に入れないでよ。びっくりするじゃない」

「それで、答えてください。どこに隠したんですか!」

「知らない。持って無い」

「一人部屋の健全な男子高校生が、持って無いはずはないじゃないですか。さあ、白状するんだ!」

「持ってません……」

「ま、まさか。持って無くても済むということは……」

「か、海渡。次回予告の時間だよ。リュザールが連れてきた二人についてのお話です」

「あ、はぐらかされたー。怪しい」

「皆さん次回もお楽しみに―」

「絶対、何か隠している!」

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