第85話 2人の兄妹
翌日のお昼過ぎ、リュザールたちの隊商は予定通りカインに到着した。
村の広場で隊商の解散をしたあと、リュザールと二人の兄妹は工房の私のところにやってきた。
「おかえり、リュザール。この人たちは?」
「工房で働いてくれる人たち。さあ、挨拶して」
「初めまして、マルトから来たジャバトです。15才になります。ジャバトと呼んでください」
「妹のサーシャです。私もサーシャと呼んでください。13才です。よろしくお願いします」
おお、なかなか礼儀もよさそうだ。
「私はソル。この工房の代表をしているの。よろしくね」
私は手を差し出し、二人と握手をする。
「まずは父さんに紹介するから付いて来て」
二人を診察室にいる父さんのところに案内する。
「父さん、工房で働きたいって子が来たんだけど」
診察室には父さんとジュト兄がいて、薬を調剤していた。ユティ姉は子育て中で、今はお休みだ。
「入ってもらいなさい」
「男の子の方がジャバト、女の子の方がサーシャ。マルト村からリュザールに連れてきてもらったんだけどいいかな」
「ふむ、少し話をしよう。ソルも一緒にいなさい」
「ジャバトとサーシャだね。マルトから来たと言ったが……」
「兄妹です」
「ジャバトがお兄さんだね。兄妹二人というのは何か理由があるのかな」
「はい。この冬、無理がたたって両親が相次いで亡くなってしまいました。元々俺らは北の方の村にいたのですが、水が干上がってマルトに逃れていました。何とか生活はできていたのですが……」
「なるほど、慣れない土地で苦労したんだね。ご両親も亡くなって大変だと思うが、マルトでも仕事はあるのではないかな。蚕さんの飼育が順調だと聞いているよ」
「はい、仕事はありましたがマルトにはほとんど知り合いがいません。それなら、いろんなことを始めているこちらで働いた方がいいと思い、紹介してほしいとマルトの村長に頼んでいました」
「なるほど、それでカインに来たというわけだね。わかった。おかしいところは無いようだ。一応、村のみんなの了解を取ってからになるけど、よく来たね歓迎するよ」
ふう、これでこの二人は村の住民になれる。もちろん、村の人に話した後になるけど、大丈夫だろう。最近は治安も怪しくなってきているし、この前盗賊が襲ってきたばかりだから、誰でも受け入れるわけにはいかない。父さんもちゃんとした理由があるか聞きたかったんだと思う。
「よかったね。ジャバト、サーシャ」
「それでソル。二人はどこに住むのかな」
「ジャバトは工房の寮に、サーシャは私たちの部屋に来てもらおうかと」
「そうだね……ん、でもそれなら、二人は食事が別になるが構わないのかい」
「え、そうなんですか……もしよかったら一緒の方が、慣れない場所で妹が心配ですし」
「それだったら、ジャバトには工房のテムスたちの部屋に住んでもらいます」
ユーリルとアラルクがいなくなったテムスの部屋は、リュザールがいないときはリムンと二人だから、一人増えても問題ない。リムンも少し寂しそうだったからちょうどいいだろう。
「ふむ、それなら食事は私たちと一緒だね。ソル、二人を部屋に案内してあげなさい」
「ありがとう、父さん。行こう二人とも」
二人をそれぞれの部屋に案内し、工房のみんなにも紹介する。
「というわけで、二人が新しくこの工房の仲間になりました。それで、サーシャは織物部屋に来てもらおうと思うけど、ジャバトはどうする?」
「がたいもいいし鍛冶工房に欲しいな」
パルフィは大きなおなかを抱えながら話す。
「え、機織り機の方にも欲しいんだけど。最近は鍛冶工房ばかりでこっちには補充がないし」
「荷馬車の方はちょうどいい感じかな。でも増えた方が助かるのは確かだけどね」
ユーリルたちも浴場の建設を中断して挨拶に来ている。
「ジャバト、一緒に織物しましょうよ。毎日やっても飽きないわよ」
こういうのは当然ルーミンだ。毎日飽きた飽きたと言っている自分のことは棚に上げて言うもんだから、織物部屋のみんなが笑っているよ。
「ふふ、それでジャバトは何をしてみたい?」
「そうですね、俺は織物がしてみたいです。楽しそう」
「へ? お、おっしゃ―!」
る、ルーミン。今は女の子だよ。
「くっそー、頭数に入れていたのに予定が狂っちまったぜ」
し、しー! パルフィ!
予定って、確かにパルフィにはこの二人が来ることは伝えたかもしれないけど、来ることを前もって知っていたらおかしいのだからね。
「うー、仕方がない。でも工事の間は手伝ってほしい」
「ふっふー、仕方ないですね、ユーリルさん。織物部屋の貴重な男手ですが、お貸ししましょう」
なぜか、ルーミンが仕切っている。まあ、パルフィの発言がスルーされているからいいか。
「あ、あのー、女性のパルフィさんが鍛冶をされているのなら、私もやらせてもらうことはできますか?」
ずっと黙っていたサーシャの発言を聞いて、その場に沈黙が訪れる……
「え? さ、サーシャは鍛冶がやりたいの?」
「はい。織物は苦手で、せっかくなら新しいことに挑戦してみたいので」
「おっしゃ―!」
ぱ、パルフィ、そんなに興奮しないで。お腹の赤ちゃんがびっくりするから。
「あ、あぁー、二人増えると思ったら一人減って、残った一人も浴場建設の間はいなくなる。結局、しばらくは変わんないじゃないですかー」
「浴場……もしかしてお風呂に入れるようになるのかな」
ルーミンの叫び中、隣にいたサーシャがそう呟いた気がした。
あれ、サーシャ。もしかしてお風呂のこと知ってんの?
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あとがきです。
「ソルです」
「ユーリルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「それにしてもびっくりだよね。ジャバトは織物でサーシャは鍛冶だよ。予想していたものと反対だった」
「機織り機の方にも人が欲しかったのに……いつまでたっても人が増えない」
「つ、次の人はきっと機織り機を作りたくてたまらない人が来るよ」
「そんなわけないじゃん。仕方がない、こうなったら浴場建設の間にジャバトを説得してこちらに引き込むまで」
「やめて、ルーミンが暴れだす」
「あーん、またアラルクに頼み込んで人を貸してもらわないといけないよー」
「またリュザールに人を探してきてもらおう。たくさん来たらそのうちやりたい人も出て来るよ」
「不人気職種はつらい……」
「さあ、気を取り直して次回のご案内をいたします」
「次回は地球での話が多いかな。ということは奴が動き出すのか……」
「まあ、そういう性分だから仕方が無いよ」
「「次回もお楽しみに―」」
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