第86話 学校帰りの集まり:竹下の部屋1

「なあ、ソル。テムスの事なんだけどさ」


 サーシャにお風呂のことを聞いてみようとしたら、先にパルフィから声を掛けられた。


「う、うん、どうしたの? パルフィ」


「あたいもそろそろ鍛冶工房にも出れなくなるだろう。あいつも頑張ろうって思っているみたいだから、しばらくの間親父のところに修行に出したらどうかって思ってんだが、どうだ?」


「え、ファームさんのところに? 迷惑にならない?」


「親父、結婚式の時に来ただろ。その時テムスの事を気に入っていたみたいだからよ。むしろ大歓迎だと思うぜ」


「そうなんだ、それでテムスには言ったの?」


「まだだ、ソルに話をしてからと思ったからよ」


「わかった。父さんにも聞いてみる。それまでは黙っていてね」


「おう!」




 そのあとサーシャを探してみたけど、見当たらない。男はみんな浴場の建設に行ってしまったから、女の子に連れられて織物部屋に行っているのだろう。


 もしかしてお風呂って北の方の人は知っているのかな、コルカの北には温泉もあるというし……あのあたりの事ならユーリルに聞いたらいいのだけど、作業中の手を止めさせてまで聞くことでもないか。よし、明日地球で聞こう。


 それなら、まずは父さんだ。テムスのことをどう考えているか、テムスがいない間に尋ねてみよう。



 今日二度目の診察室まで向かう。


「父さん、何度もごめん。入っていい?」


「構わないよ」


 薬を調合している父さんとジュト兄の前に座り、テムスのことを聞いてみる。


「父さん、テムスのことをなんだけど、パルフィがファームさんのところで修行させたらどうかって言ってきた。どうしたらいいと思う」


「テムスは11才か……修行をさせるには少し早い気もするが、13才になったらコペルと結婚しないといけないから、ちょうどいい時期なのかもしれないね」


 コペルとテムスのことは父さんにも話した。父さんも母さんから言われていたらしく、二人を結婚させるつもりだったらしい。


「ねえ、ソル。テムスはどれくらいの期間ファームさんに預けるの?」


「ごめんなさい、ジュト兄。それは聞いてない」


「そうだね、鍛冶の修行がどれくらいで済むのかは、本職にしかわからないね。ありがとうソル。パルフィと話をしておくよ」


 あとは、父さんとパルフィで話し合うだろう。……コペルには、決まったあとテムスから伝えさせた方がいいな。




 翌日の火曜日、学校が終わった後に竹下の家へと集まる。

 今日はお店にお客さんがいるので、竹下の部屋まで上がって話すことになった。


「部屋が狭くてごめんな。ベッドの上に座ってもいいからさ」


 部屋の広さは僕のところと変わらないけど、ベッドが置いてある分だけ座るスペースが狭くなっている。


 ベッドに向かった海渡はその上に座るかと思いきや、床に座り、おもむろにマットの下を探りだす。


「竹下先輩は恋人さんと遠距離恋愛中ですからね、隠していないはずがありません」


「残念ながらそこにはないよ。お前がそうするのは予想済みだから隠した」


「ちぇ、ここにいる間に絶対探し出してやる」


 部屋を物色中の海渡を無視して話を始める。


「昨日、ジャバトに浴場の建設を頼んだじゃない。その時にサーシャが『お風呂に入れるようになるのかな』って言ったんだよね。これってお風呂のこと知っていると思うんだけど、ユーリルがいた北の方ではお風呂ってあったの?」


「お風呂か。俺の家は遊牧民だったから、決まった住居というのは冬の間の家くらいで、そこは水が貴重だからお風呂はなかった。隊商宿で働いていた時もそれは同じで、お風呂とか聞いたこともないよ。あるとしたらコルカの北の温泉だけど、そこ以外では体をお湯で洗ったり温めるということはしてないと思う」


「リュザールはどこかで聞いたことない?」


「ボクも記憶にないな。ビントの方ではどうだった?」


「私も聞いたことない。海渡は?」


「僕もなーい。それにしてもいったいどこだろ」


 やっぱりみんなも知らないみたい。


「それならサーシャってこっちと繋がっていると思う?」


「それは分からないけど、もし繋がってこっちの知識があるなら、俺らがやっていること見たら何か反応するはずだよ。地球の知識をそのまま持って行っているんだからさ」


 サーシャが地球と繋がっていて、僕たちが作り出した糸車や荷馬車それにタオルを見たら、それが地球のものとそっくりということに気付くはず。それなら余程の事情がない限り、その知識はどこから得たのですかって聞いてくるということか。


「しばらくは様子見ってことでいいのかな?」


「それで、いいんじゃない。それよりも凪はサーシャを見てどう思った? お相手になりそう?」


「え、私……かわいい子でしたけど、まだ性格がわからないので何とも」


「海渡の方は? ジャバトの方を見ていたでしょ」


「そうですね、一応想像してみましたが、まだ抱かれたいとは思いませんね。年下ですし」


 凪はサーシャと鍛冶工房で、海渡はジャバトと一緒に織物部屋で仕事をするからこれから接点はたくさんある。急ぐ必要はない。それなら今日のところは……


「海渡、竹下が隠しているのはそこじゃないよ、たぶんそこのベッドの足元にある開けにくい引き出しの中。いけー!」


「アイサイサー!」


「ちょ、樹。やめろ!」


 僕が竹下を押さえている間に海渡が竹下の引き出しを探り、お目当てのものを見つけ出す。


「ん、これは……ありました! ほほー、これが竹下先輩の秘蔵のお宝ですね。大量です」


 そう言って海渡は引き出しからいくつもの本を発掘していく。


「こら、お前たち見るな!」


「あー竹下先輩。これなんて持っていないって言ってたのに、やっぱり持っているじゃないですか。絶対好きそうだと思って聞いてみたのに」


 凪は写真集の一つを持って竹下に見せつける。


「いや、だって、なんか見透かされているようでいやじゃんか」


 ふむふむ、きっと男部屋では夜はこんな感じで話をしていたんだろう。


「リュザールがいるときもこんな感じだったの?」


「うん、だいたいそうかな。バカばかり話していた」


 思春期男子が集まるとこんな感じだろうな。あー、テムスがおませさんなのは、こいつらのせいか。お姉ちゃんとしてはなんか複雑な心境。

 でもすごいな竹下は、地球では女の子とわかっている二人にも普通に男同士の会話をしていたんだ。


「ふふ、あはははは」


「樹。どうしたの?」


「あ、ごめんね風花。みんな仲良しで嬉しくなっちゃって。さて、僕も見てみようかな。風花はどうする」


「ボクも見てみる」


 そのあとはみんなで竹下のお宝の品評会になった。ごめんな竹下。


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あとがきです。

「竹下です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「海渡てめえ」

「あんなわかりやすいところに隠しているのが悪いんです」

「かなり恥ずかしいんだけどな」

「性癖暴露大会になってましたもんね」

「うう、それにしても凪の奴、相変わらず容赦ないな」

「姉ちゃんは半分男、ん? 違うな。一人の男と一人の女ですもんね。うまく使い分けてますよ」

「それはそうなんだろうけど……ちくしょう! 今度海渡の家行ったときは覚悟しておけよ。お前のも暴露してやる」

「あー、僕。本当に持ってないんですよ。部屋は姉ちゃんと一緒だし、トイレも長くは使えないからスマホでというわけにもいきません」

「ん、ならどうやってんの?」

「前に言ったじゃないですか記憶だって」

「あー、それで俺の本食い入るように見てたんだ」

「そうそう、覚えておかなくちゃいけないんです。この前竹下先輩に、ソルさんの記憶消されそうになった時はひやひやしましたよ。この先おかずなしでどうやって生きて行こうかと……まあ消されたら上書きするだけですけどね」

「……樹も大変だな。えーと次回予告の時間になりました」

「次回は武研の話になるんですかね」

「皆さん次回もお楽しみにー」

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