第81話 ユーリルの家で

 年が明けて間もなく、お母さんから旅行のお誘いがあった。


「樹、今度の連休、時間があったら一緒に旅行に行かない? 夏に由紀ちゃんの彼氏さんのところで災害があったの知っているでしょう。まだお客さんが戻らなくて困っているらしいのよね」


 ゴールデンウィークにお世話になった温泉旅館がある地区で、夏に大雨が降り観光施設が流される被害が出た。由紀ちゃんの許嫁さんがいる旅館は被害はなかったそうだけど、地区全体の観光客が少なくなっているって由紀ちゃんが言っていた。


「別に用事は無いから大丈夫だけど、お父さんも行くの?」


「お父さんはその日は学会があるらしくていないのよね。ご飯作るのも面倒だし、たまには息抜きも必要じゃない」


 ごはんは僕も作っていると思うけど……確かにあの旅館の温泉は気持ちがよかった。普段看護師の仕事でお疲れのお母さんのためにもいい機会かもしれない。


「じゃあ、その日は空けておくね」


 次の日曜日は、お母さんと二人で温泉に行くことになった。みんなにも言っておかないといけないな。





「いいなー、樹先輩はあの温泉に行くんですね。羨ましすぎますぅ」


「ふふん、いいでしょう。だからごめんねリュザール。その日は風花と散歩行けないんだ」


「あ、ああ。せ、せっかくの温泉だもんね。お母さんと楽しんできてね」


 ……? リュザールがたどたどしい気がする。


「なあ、ルーミン。その温泉というのは何だ?」


 今日は週に一度の工房が休みの日。いま私たちはユーリルの家に集まって、パルフィと一緒に話をしている最中だ。この前地球のことをパルフィに話したので、あちらの世界のことに興味があるらしい。


「温泉というのはですね、簡単に言うとお湯がずっと沸き続ける場所で、その中にはいると気持ちいいんですよ」


「お湯に入るとそんなに気持ちいいのか?」


「はい。とても気持ちがいいし、清潔になれます」


「清潔にか……なあ、ユーリル。その温泉というのは作ることはできねえのか」


「温泉はこのあたりにないから無理だけど、お湯を貯めておくことができたらお風呂は作れる。お風呂が作れたらお湯に入れるから大体同じになると思う」


「じゃあ、そのお風呂ってえのを作ってくれ」


「うーん、お風呂ってたくさんの水を使うんだ。だから井戸からその水を汲むのが大変で苦労すると思うんだよね」


「体を入れるだけだろう。別に井戸の水を使わなくても、川の水でいいじゃないのか?」


「!!」


「ほら、そこにちょうどいい川があるだろ」


 パルフィは鍛冶工房の東にある、小さな川の方を指さしている。


「そうか、川の上流から水を引き込んで貯めておいて、風呂釜で沸かしてから温泉のように必要な分だけ湯船にれられるように作ったらいいのか。それなら大人数でもはいれる。それに川の上流には何もないから汚いってこともないはずだし……」


 ユーリルが何か思いついたようだ、これできっとテラでもお風呂に入ることができるようになる。


「あたいにもできることがあったら何でも言えよ」


「パルフィ、無理のない程度にお願いね」


「でもなソル、赤ちゃん生まれる前に清潔にできるんなら、それに越したことねえからな」


 それもそうか、出産には清潔な方がいいに決まっている。それに、ユーリルはパルフィに無理がない範囲でお願いするだろう。



「なんだか知りませんが、お風呂ができそうな気配ですね」


「うん、楽しみだね」


「あ、話は変わりますが竹下先輩、この前穂乃花さんと歩いていたじゃないですか。デートですか?」


 さすがルーミン、パルフィがいるところで聞くんだ。


「え、ああ、まあな」


「なあ、その穂乃花ってのはあっちのあたいだろ。それでルーミン、でぇとってなんだ?」


「デートというのは好き合っている二人で、お出かけしたりお話ししたりすることです」


「へー、二人っきりでか?」


「そうですね、普通は二人っきりですね」


「あっちのユーリルと穂乃花はもう結婚してんのか?」


「いえ、まだですよ。この前会ったばかりだし、竹下先輩は若いから結婚できません」


「結婚してないのに二人っきりになっていいのか?」


「そうですね、あちらではこちらと違っていろいろとやっていいですね…………で、竹下先輩はやりました?」


「へ? 何を? …………! おま、ここで」


 さすがルーミン、さらに聞きにくいことを聞いてくる。


「やるって何を?」


「夜の営みのことですパルフィさん」


 ユーリルはルーミンの口を塞ごうとしたけど、こちらでは未婚の女性に触るのはご法度だから、ルーミンの口を止めることができなかったようだ。


「夜の営みか……あたいも気になるな、どうなんだユーリル、ちゃんと穂乃花とやってきたか。怒んねえから言ってみろ」


「や、やってない」


「本当か? あたいはむしろ穂乃花にもあっちのユーリルとの子供を持ってほしいだけどな。で、どうなんだ」


「やってないです……」


「なんでですかぁ。あちらの親御さんの了解もあっていたでしょう」


「穂乃花さんが試験受かるまで楽しみにしておくって」


「それって、受からなかったらできないってことじゃないんですか。なんてフラグ立ててきたんですか」


「ふらぐってなんだ。まあルーミン、あまり心配はいらないんじゃねえか。その試験ていうのが何かわからねえが、それがうまくいかなかったらあちらのユーリルと穂乃花は結ばれねえってことだろ。そういうことなら大丈夫だな。穂乃花はかなり気合入っているはずだぜ」


 そういえば、昨日風花からお姉ちゃん張り切って戻っていったよって聞いている。


「へへ、そうか。穂乃花の方もうまく行っているみたいだな。安心したぜ」


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あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「……」

「何かしゃべってくださいよ」

「…………」

「わかりました。では、私の好きなことを話しますね」

「! ごめん。おっぱいだけは勘弁して」

「いやだな、ソルさん。私がおっぱいにしか興味ないとでも思っているのですか」

「あ、違うならいいんだ」

「今度ユーリルさんがお風呂作ってくれるはずですからね、そしたらいくらでも拝めます」

「……ルーミンとは一緒に入らない」

「何言っているんですか。地球と違ってお湯沸かすのも大変なんですよ、一緒に入らないと資源の無駄です」

「うう、貞操の危機が」

「あ、お時間のようですね。次回は樹先輩に何かが起こります!」

「そ、そうなんだ……」

「次回更新をお楽しみに!」

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