第79話 クリスマスパーティー

「ねえ、ユーリル。そろそろ大丈夫みたいだって父さんが言っていたよ」


 12月も終盤に差し掛かったある日、パルフィの状態についてユーリルに伝える。パルフィは結婚式のあと妊娠しているのがわかり、そろそろ安定期に入るようだ。


 今でも昨日のように思い出すけど、結婚式の翌月いつもの時期に生理が来なかったときのパルフィの様子。そしてそのあと、父さんに妊娠していると診断してもらった後のパルフィの喜びようと言ったらなかった。工房のみんなで喜んだものだ。


 子供を授かったことがわかってからは、パルフィにはあまり力を入れる仕事はさせていない。本人はハンマーで鉄を叩きたいようだったけど、さすがに止めた。赤ちゃんのためって言ったら納得してくれたから助かった。ただ、全く仕事をしないのも体に悪いので、ここのところ鍛冶工房の職人さんを育てることに力を入れているみたい。テムスがたくさん教えてもらえて嬉しいって喜んでいる。


「ラーレは来月くらいかな」


 ラーレもパルフィから一か月くらい後に妊娠がわかった。機織りの仕事は鍛冶の仕事のように力は使わないけど、同じ姿勢ばかり取るので、それはそれでよくはない。だから、みんなの交代の時に手伝ってもらっている。

 工房の織物部屋には盗賊から逃げてきた家族の奥さん2人が働いてくれることになり、それにユーリルたちが他の村長さんたちに頼んで出してもらった3人の計5人が増えて、なんとか今のところうまく回っている。




「ところでさ。昨日風花が言っていた事どうするの? は参加するけど」


「クリスマスパーティーだよね。海渡たちはなんて?」


「料理持って行きますって」


「ああ、なるほど。それなら風花のお母さんにそこまで迷惑ってわけでもないか」


「うん、みんなでお金出し合って、海渡の家にお願いしたらいいと思う」


「目下絶賛フリーの竹下には、特別用事もないので参加でお願いします。でも、どうして急にクリスマスパーティー開くことになったかわかる?」


「なんでも、風花のお姉さんが急に帰って来ることになって、せっかくならみんなで楽しんだらどうかって、風花のお母さんが思ったみたいだよ」


「風花のお姉さん? あの美人だっていう」


「私もまだ会ったことないからわからないけど、風花からは私のお姉ちゃんは美人で頼りになるっていつも聞いている」


「ふーん、別にかまわないんじゃないの。っていうか、それなら是非にも参加させてください! でもこれまでほとんど帰ってこなかったよね、急にどうしたんだろう」


「こっちでは結婚しているっていうのに相変わらずだねえユーリル竹下は、それで全部不発っていうのも笑えるんだけど」


! それでどうして風花の姉ちゃん帰って来るの?」


「なんでも年明けに東京の大学を受験するみたいだよ。その息抜きに帰って来るんだって」


「東京の大学って」


「東大」


「すげえな風花の姉ちゃん」






 クリスマスイブの夕方、海渡の家に寄りパーティー用の料理を持って風花の家へと向かう。


「私、風花先輩のお宅初めてです。どんなところですか?」


「普通のマンションだよ。4LDKで部屋は上の方かな」


「街中のマンションてだけで普通じゃないから、それに上の方って言ったら値段も高いんじゃないの」


「会社で借りているって言っていたから、風花のお父さんが払っているわけではないみたい」


「へえ、それでもすごいです。4LDKか羨ましい。僕の家なんて2DKですよ。ん、住居にはキッチンがないからただの2Dですよ。平面ですよ、薄っぺらくてもう大変です」


「面白い、座布団1枚! でも、海渡たちの家ってものすごく便利じゃない」


「はい、お買い物には困りませんね。雨が降っても傘もいりませんよ」


「アーケードの中だからね」


「ところで樹先輩は、風花先輩のお宅にはよく行かれるんですか?」


「たまにかな。大体毎日散歩で会っているし、行くのは水樹さんに呼ばれた時くらい」


「水樹さんって?」


「風花のお母さん」


「え、それじゃあ二人っきりじゃないんですか」


「……うん」


「樹先輩の家には風花先輩来てるんですよね」


「うちのお母さんに呼ばれた時くらい……」


「……お二人って幼稚園生ですか、小学生でももっと進んでますよ」


「お、おかしいかな」


「おかしいというか、樹先輩の不能を疑いたくなりますね」


「姉ちゃんそれは言い過ぎ、樹先輩ちゃんと使えるから」


「なんで海渡が知っているの」


「それは温泉のと……」


「も、もういいでしょう。そろそろ着くよ」


「樹、凪ちゃん容赦ないね」


「うん、リムンと一緒だなんて信じられない」


「そこ! こそこそ話さない!」


「「はい!」」




 マンションの入り口で部屋番号を押し、インターフォンを鳴らす。


「はい、どうぞ」


 スピーカーから風花の声が流れ、入り口のドアが開く。


「おー、さすがお高いマンションは違いますね」


「し、海渡。お上りさんと思われちゃうから」


 わざとやってんのかなこの双子は。




 エレベータに乗り、風花の家の前まで行き、改めてインターフォンを鳴らす。


 すぐさまドアが開き、風花によく似た若いきれいな女性が出てきた。


「おう、お前たちよく来たな。まあ上がれや」


 雰囲気と言葉のギャップにみんなで顔を見合わせていると奥から


「みんな何しているの早く上がって」


 風花がいつもの様子で話しかけてきた。


「お、お邪魔します」




「はいこれ、料理です」


 海渡たちと一緒に持ってきた料理を水樹さんに手渡す。


「ありがとう。穂乃花ほのか手伝って」


 先ほどドアを開けてくれた女性が、水樹さんに呼ばれてキッチンへと向かった。どうやら、お姉さんは穂乃花さんというようだ。

 僕たちは風花に案内されてリビングに通される。


「ねえ、風花。お姉さんっていつもあんな感じなの」


「うん、頼りになりそうでしょう」


 頼りになるというかものすごく既視感きしかんがあるんだけど……




 海渡たちの作ってくれた料理のほかに、水樹さんたちも料理を作ってくれていて、おなか一杯食べることができた。もう入らないと思ってもケーキは食べることができるんだから、本当に不思議だ。




 そして、ホームパーティーらしくみんなでボードゲームをしているときにそれは起こった。


「なあ、。お前ってか?」


 穂乃花さんの竹下の対してのいきなりの名前呼び、それに発言内容。

 その瞬間、部屋の中の時が止まった…………


「……え、な、なに?」


 何とかして状況を確認しようとする竹下。


「大切なことだからよ、恥ずかしがらずに言ってみな」


 気にもとめず答えを求める穂乃花さん。


「お、お姉ちゃん、竹下君もみんなの前では言えないよ」


 助け舟を出す風花。さすが、男の子の気持ちを分かっているだけある。


「ん、そうか。あたいは処女だぜ、別に恥ずかしくもなんともないけどな」


 センシティブな話題を事も無げに話す穂乃花さん。


「穂乃花あなた経験なかったの? てっきりあちらで遊んでいるのかと思っていたわ」


 普通の会話の流れとして穂乃花さんに尋ねる水樹さん。


「大切なものは大事な人のために取っておくもんだからよ。それで剛、お前はどうなんだ」


 どうしても竹下に確認したい穂乃花さん。


「お、俺は……ど、経験はありません」


 何とかNGワードを避け、言葉を絞り出す竹下。


 そうか、竹下の方は童貞だったんだ。多分そうだろうなって思っていたけど、まさか聞くことになろうとは思っていなかった。それにしてもよく話す気になったよなあ、僕だったら恥ずかしくて黙ったままだと思う。


「わかった、あたいは剛を大事な人にしたい。だから剛のために大切なものは取っておく、もし剛が受け入れてくれるのなら、初めてをあたいのために取っておいてくれ」


 確かに最初から竹下は穂乃花さんに年上アタックをしていたし、穂乃花さんもまんざらではない様子ではあった。でも、いきなり愛の告白みたいな感じになる要素はあっただろうか……というかデジャブがすごい。みんなは感じていないのかな。


「ねえ、穂乃花さん。横から口をはさんですみません。どうして竹下がいいって思ったのですか」


 無粋ぶすいなのは分かっていたけど、あまりにも気になったので聞いてみた。


「そうだなあ。一目見てこいつならあたいを大事にしてくれそうって思ったからよ。だろう剛。それでどうだ」


「ぼ、僕、いや、俺は穂乃花さんを大事にします。だから穂乃花さんのために取っておきます」


「そうか、ありがとうな。これだけでも帰ってきたかいがあったぜ!」


 これはもう確定ではないだろうか。穂乃花さんはコルカでパルフィがユーリルに対して言ったことと、ほとんど同じことを話した。多分パルフィの地球での人格は穂乃花さんだ。だから、ユーリルと同じ人格の竹下に惹かれたんだと思う。


「あなたたち、もう高校生なんだから安全なやり方わかっているでしょう。修行僧じゃないんだから別に取っておかなくても、間違いを起こさなければ別にかまわないわよ」


 ここで水樹さんの爆弾発言。


「え、え、でも……」


「剛、そう難しく考えるな。まずはお友達からだからな、連絡先交換しようぜ」


 ほっ。クリスマスだし、竹下が穂乃花さんにこのまま連れていかれんじゃないかと思っていた。冷や冷やしたよ。



 ……それにしてもさっきから隣の風花にじっと見られている気がする。今、目を見るわけにはいかない。流れを変えなければ、


「ね、ねえ風花。穂乃花さんって誰かに似ていない?」


「そお?」


「話し方とかパルフィに似ていると思わない」


「うーん、雰囲気は確かに似ている気がするけど、そうなのかな」


「たぶんそうだと思う。今日帰りに他のみんなにも話してみるね」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「海渡です」

「凪です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「おっぱい、おっぱい、おっぱーい!」

「海渡大丈夫? 前からおかしいと思っていたけど、双子の片割れがこれだとお姉ちゃん情けないわ」

「だって、樹先輩僕の話聞いてくれないんだよ。ソルさんのおっぱいについて語りたいのに……」

「樹先輩も変なのに目を付けられたわね。それよりもここでは本文の話はしなくていいの?」

「別にネタバレしなかったら何話してもいいみたい。18禁なのはピーってなるみたいだよ。まだそんな人はいないみたいだけど」

「たぶん、あんたが最初になるわね」

「へへ、そう。照れるな」

「バカはほっといて。仕事をしましょう。次回更新のお知らせです」

「バカ? どこに?」

「次回はテラでのお話になります。あるキャラに秘密が!」

「変だな、僕たち以外は誰もいないけどな」

「皆さん次回も楽しみに待っててくださいね」

「そっか、画面の先の君だ!」

ゴン!

「ね、姉ちゃんゲンコツはダメ、本当に痛い……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る