第78話 みんなで作る披露宴
翌朝、日の出前から準備に取り掛かる。
「ほら、ルーミン起きて。コペルとパルフィはもう行ったよ」
「もう朝ですか。こちらではさっき寝たばかりな気がします」
結局昨夜は遅くまで話し込んでしまった。パルフィとは二年近く一緒の部屋だったから、名残惜しいのは仕方がないことだ。
井戸で顔を洗い、部屋のみんなで寮の台所まで向かう。
今日の披露宴は寮の前の広場が会場だけど、料理は他のところでも作ってもらって荷車で運んでもらう予定にしている。そうしないとさすがに200人分は1か所の台所では無理だ。
「パルフィさんも料理の手伝いをするんですか?」
「まあ、あたいが手伝ってもらっている立場なんだけどな。昼までは余裕があるからそれまでは頑張るぜ」
パルフィは、昼には午後の披露宴のために衣装を着替えに戻らないといけない。
今日、式を挙げる4人の衣装は、コペルを中心に織物部屋のみんなで時間をかけて仕上げてきた。
羊毛、綿だけでなく蚕さんから採った生糸も少しだけど使って、さらに糸をいろんな色で染め上げ刺繍もしているから、カラフルでそれでいて品があるものが出来た。
今日この披露宴を見た人はきっと思うはずだ。自分の時も着てみたい。娘の時にはもっといいものを着せたい。そうやって少しずつでもこの地域で広がって行ったら、それが文化になるかもしれない。
普段の披露宴で出される料理は他の台所で作ってもらい、寮では今回初めてお披露目する料理を中心に作ることになっている。
「なあ、ルーミン。この料理って初めて見るんだが味見していいか?」
「いいですよ。でも熱いから気を付けてくださいね」
パルフィは揚げたての唐揚げを頬張り
「あ、あちぃ。ふぅふぅー。塩気が効いていて美味しいな」
「今度はこれに付けて食べてみてください」
ルーミンは今日のために作っていたマヨネーズを差し出す。
「! これもすげえ。何にでも合いそうだな。あとで作り方教えてくれねえか」
「もちろんいいですよ。みんなにも教えてあげます」
今日の披露宴は衣装だけでなく、料理もみんなに広まってくれたらいいと思う。
「それじゃあ、あたいたちそろそろ行くからな。みんなよろしく頼む」
お昼前、パルフィはコペルと一緒に衣装を着るために家へと向かった。
そして午後になり、披露宴会場には村の男たちが用意してくれた絨毯が敷き詰められ、料理を並べるだけの状態になっている。
お、荷車が来た……あれはパンかな。あ、プロフも来た。
「みんな、そろそろ料理を並べるよ」
少しずつ集まってきている村人の手を借りて、出来上がった料理を並べていく。
「ソル姉ちゃんすごいね。初めて見る料理ばかりだよ。すごくおいしそうなんだけど……まだ食べちゃダメだよね」
「テムスちょっと待っていてね。もうすぐユーリルたちも来ると思うから」
料理を並び終え、参列者もある程度座った頃、今日の主役の四人を連れた父さんがやってきた。
花嫁の衣装を見た女性からは驚きの声が上がっている。
「本日この時をもって、コルカのクトゥの息子アラルクとバトゥの娘ラーレ。そして、わが息子ユーリルとコルカのファームの娘パルフィの婚姻は相成った。皆々様この者たちを祝福してくだされ!」
父さんの挨拶を合図に披露宴が始まる。
早速二組の新郎新婦の席の周りには、祝福するための人だかりができている。
おっと、こっちにも来た。
「ねえ、ソル。あの衣装どうやって作ったの。あたし来年結婚するんだけど、着ることできないかしら」
「一年あれば大丈夫だよ。作り方は教えてあげるから今度工房の織物部屋まで来て」
他にも
「なあ、ソル。この料理はどうやって作るんだい。そしてこの白いやつも初めて見たのだけど、これも教えてもらえたら助かるのだが」
「それはマヨネーズと言って詳しい作り方はルーミンが知っているんだけど、一度料理教室を開きますからその時に来てください」
料理の方の評判もいいみたいだ。
少し落ち着いた頃を見計らって、料理を持って主役たちの所へと向かう。
「パルフィおめでとう。これパッと食べられる料理。あまり食べてないでしょう」
「お、ありがとうな。お腹ペコペコだ。みんなこの服のことを聞きに来やがる。これじゃあ何が主役か分かんねえな」
「それはパルフィがきれいだからだよ」
「へへ、そうかい。ソルから言われると嬉しいな」
「ユーリルもボーっとしてないで食べて、すぐ人来ちゃうよ」
「え、うん。ありがとう」
「どうしたの?」
「僕のお嫁さんはこんなにきれいなんだと思って……」
はいはい、ごちそうさまでした。
台所に戻ると賑やかな声が聞こえてきた。
「それ分かる。私もソルが男だったらいいって思ったことあるもの」
「何話しているの?」
「ソルさんモテモテですよ。お嫁さんいっぱいもらえますね」
どういうこと?
「いやね、ルーミンにどんな人がタイプなの? って聞いたら、ソルみたいな人って言うじゃない。そしたら私もそうだっていう子がいて……」
そうなんだ……やっぱり女の子っぽくないのかな。
「そうそう、優しいし、頼りになるし、相手のことを大切にしてくれそう」
「…………」
「みんなソルさんのこと好きみたいですよ」
「……やめて、恥ずかしい」
「ソル。耳まで真っ赤でかわいい」
夕方近くになり、新規の参列者がいなくなった頃、手伝ってくれた女性たちで新婦を囲んで話をする。
「へえ、それじゃあパルフィは今なのかい」
「ああ、だから今日は気合入れてやるつもりだぜ」
「うーん、あまり気合入っているの悟られない方がいいね」
「そうだねえ、二人とも初めてなんだろう。男なんて表では態度はでかくても、気が弱い生き物なんだよ。失敗しちゃいけないって思ったら、役に立たないこともあるからね」
「最初が肝心さ。たとえ失敗しても、責めちゃいけないよ。それを包み込んであげる度量が女には必要なのさ」
これは勉強になる。さすがベテランの奥様方だ、未婚の子たちは食い入るように聞いている。
「なるほどな。あたいの方が年上だから、うまく導いてやらないといけないってことだな」
「あんたが年下なら任せっきりでもいいのかもしれないけど、年上ならその方がいいだろうね。ユーリルはそう言うのが好きそうだし」
そうそうと、みんなから笑いが起こる。
「よかったですねユーリルさん。みんなに慕われていて」
ルーミンはユーリルの生い立ちも知っているから、みんなに必要とされないことに対する恐怖も知っている。
「うん、でも今日のことはユーリルには内緒だよ」
「わかっていますって、手のひらの上で踊らされているってわかったら萎えちゃいますもんね」
日も落ちかけの頃、盛況のうちに披露宴も終了した。
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あとがきという名のオフレコ
せっかく書いたのに本文に入れるのはどうかと思ったのでこちらに掲載しました。
披露宴の翌日、地球では男だけの秘密の会談が始まっていた。
「ところで竹下先輩。初夜はどうでした?」
こういうことをはっきりと聞いてくれる海渡には頭が下がる。
「え、ああ。す、すごかった……」
「ほおー、では、どんな感じですごかったのかを詳しく!」
「い、いや、さすがにそれは話せない」
「ちぇ、それではパルフィさんの新しい発見とかはありましたか」
「なんで俺、詰問されてんの……ま、まあ、あんなところにほくろがあるなんて知らなかった」
「ああ、内股のところのやつですかね。確かに、覗き込まないとわからないですよね」
「なんでお前が知ってんだよ!!!」
「知ってますよ。だって、一緒の部屋に住んでたし、身体だって拭いたり拭かれたりしてましたよ」
「もしかして樹も?」
「う、うん」
「お前たちの記憶消してやる!」
「物騒なことしないでください。これからはユーリルさんだけの特権になるんですから」
「そ、そうだな。
「あーあ、パルフィさんの筋肉質な肌に触れなくなるのは残念です。これからは妄想だけにしときます」
「海渡! お前もしかしてパルフィをおかずにしてんじゃないだろうな」
「嫌だな竹下先輩。たまにしかしてませんよ」
「たまにって、やってるじゃねえか!」
「僕たち健全な年頃の男の子ですよ。やるなという方が無理ですって、竹下先輩も男ならわかるでしょう」
「僕たちってもしかして樹も?」
「え、いや僕は……」
「お前もか! ……やっぱりお前たちの記憶消してやる!」
「待ってください竹下先輩。僕はもっぱらソルさんだから消さなくても大丈夫です。むしろソルさんのを消されたら困ります」
「!! 海渡……僕がおかずなの?」
「違います。樹先輩ではなくてソルさん」
「そうなのかもしれないけど……なんか、もやもやする」
「お前たちもう付き合っちゃえば」
「それもいいかもしれないですね」
「シャレにならないからやめて」
「さあ、次回予告の時間になりました」
「この流れでもやるのね」
「次回は地球でのお話になります」
「披露宴から少し時間がたったころみたいなんですが、新キャラが爆弾発言をやるみたいです」
「「「皆さん次回もお楽しみにー」」」
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