第77話 披露宴の準備

「ねえ、ルーミン。足りない材料とかはないの?」


「えーとですね、今回は200人分作るから、あとこれくらいいりますね」


 そう言ってルーミンは、綿で作った紙に必要な材料を書き記していく。さすがは惣菜屋の跡取り、大量に作る料理の調理の仕方や分量など的確に答えてくれる。

 これなら残りの材料は村から集めることができそうだ。母さんとサチェおばさんにお願いして手配してもらおう。


 今回は荷馬車のおかげで、隣村のバーシからも材料を確保することが出来たから。村人に無理なお願いをしなくて済んだ。ゆっくりと披露宴を楽しんでもらいたい。



「それで新しい料理は何にするか決めたの?」


「そうですね。こちらではナイフもフォークもないし、あるのはスプーンだけですからね。箸もまだ私たちしか使ってないから、簡単に食べられるものが喜ばれるでしょうね」


 これまでルーミンと一緒に色々と試してみている。例えばパスタに関して言えば、材料はあるのでいろんな種類のものが作れるんだけど、こちらの人にはまだスプーンしか使えないので、長い麺タイプではなくて短いマカロニとかペンネあたりのものしか作っていない。


「一つは小籠包。これなら手で持って食べられる。そして、ハンバーグを作りたいのですが、大きいのは食べにくいので、ミートボールみたいな大きさで作ろうと思っています」


 私たちは箸を使うことができるから、木製の箸を使っている。それを見てテムスは箸の使い方を練習しているけど、まだ使うのに苦労しているからスプーンで食べられるものを作ってあげないといけない。


「ねえ、ルーミン。私たちが箸を使って食べるところも見て、使ってみたいという人たちもいるかもしれないから、スプーンと両方で食べられるものとかも用意できない?」


「そうですね。それなら唐揚げとかはどうでしょうか」


 唐揚げなら箸でも掴めるし、スプーンでも掬える。それに、冷えてもおいしいからみんな喜ぶだろう。


「それいいと思うよ。箸も余分に作ってもらうように頼んでおくね」


 私たちが使う箸は、最初はユーリルたちが作ってくれたけど、今では木こりのオジャクさんたちに頼んで作ってもらっている。オジャクさんが作ってくれる箸は、長さ形も揃えていてバリも取ってあるからとても使いやすい。

 でも、披露宴で出す箸は一回使って終わりかもしれないから、割りばしみたいな簡単なものでいいと思う。村人が箸を使いたいと思うのなら、その時は自分専用の箸を作ったらいい。




「披露宴はユーリルさんたちが帰ってきた翌日ですよね」


 ユーリルたちは、バーシから隊商と一緒の速度で移動しているので、カインに到着するは夕方近くになる。その時間から準備を始めても、何とか翌日の午後には披露宴を行うことができるように、今のうちから日持ちするものを作っておかなければならない。


 私は地球で竹下と風花にユーリルたちの現在地を聞くことができるから、いつカインに到着するかわかるけど、ここを出発する時点で彼らがコルカを出発する日が決まってなかった。だから、本来なら帰って来る日を知るすべはない。連絡用の早馬を出すわけでもないので、ユーリルたちの顔を見てからしか本格的な準備ができないのがもどかしい。


「そうそう、みんなには内緒だけど明後日にはここに着くから準備急がないとね」


「はい!」





 二日後、予定通りユーリルたちと隊商の一行はカイン村に到着した。



 隊商と広場で別れたユーリルたちは、父さんのところへ挨拶に訪れた。


「ユーリルにアラルクお帰り、無事で何よりだ。おお、これはファームさん(パルフィの親父さん)ではないですか、よくおいでくださった」


 父さんにはファームさんが来ることは当然教えていない。食事の時危なく話しそうになって、ルーミンから足をつねられたことは内緒だ。


「はい、タリュフさん。恥ずかしながら嫁の家族という立場ながら参らせていただきました。よろしければ披露宴に参加させていただけると嬉しく思います」


「いえいえ、娘を思う親の心はよくわかります。私の息子のユーリルとその嫁のパルフィ、二人の門出を祝ってください」


 すでに両親がいないユーリルは、うちの子供という扱いになっている。だから私とは姉弟だね。同い年だからどちらが上か知らないけど多分私が姉だ。




 父さんとファームさんの話を、憔悴しょうすいしきった様子で聞いているユーリルに声をかける。


「お帰り……そんなに大変だったの? お姉ちゃんに話してごらん」


 竹下からは話は聞いているけど、今はテスト期間中で詳しい内容までは教えてもらえてはいない。


「いきなりお姉ちゃんってなに? それよりもプレッシャーがすごかった」


「私とユーリルは姉弟だからね。ファームさんは、結婚を反対しているわけではないんでしょう?」


「姉弟? 兄妹の間違いでしょう。ファームさんもう結婚には反対ではないんだけど、移動の間事ある毎ことあるごとに僕のところにやって来て、旦那はどうあるべきかとか、男としてとか、子供の育て方とかずっと持論を言ってくるんだよ……」


「パルフィは何も言わなかったの?」


「適当にあしらっとけっていうけど、そういうわけにもいかないから」


 あの決闘以来、ファームさんの中でのユーリルの株は上がり、パルフィの旦那としてどうあるべきか思い続けていたんだろうな。それが、この旅の間に一気に放出されたと……

 確かに期待されているから無下にもできないよね。ユーリルの苦労がしのばれるよ。


「僕、しばらく休んでおくね」


 そう言ってユーリルは工房の元の部屋へと向かった。鍛冶工房の新しい自分たちの部屋に向かわなかったのは、鍛冶工房に行っているファームさんに会わないためだろう……


 そのファームさんはというと、父さんたちと話し終わったらすぐにパルフィと一緒に鍛冶工房に行っている。よほど鍛冶工房のことが気になっていたんだと思う。ほんとによく似た親子だ。

 鍛冶工房には、リムンとファームさんが紹介してくれた職人さんの他にテムスもいるはずだ。

 テムスは春以降、真面目に鍛冶工房の仕事を手伝っている。本気で鍛冶屋さんになるつもりかもしれないから、ファームさんと話すと何か刺激になるかもしれない。




「ソルごめんね。準備大変でしょう」


 ラーレを家へと送り届けたアラルクが、ユーリルと入れ替わりでやってきた。


「気にしない、気にしない。みんな楽しみにしているんだから。それよりも、アラルク。パルフィのところに行ってきたんでしょう。どうだったの?」


 パルフィは正式にカイン村に嫁ぐことになったから、出発前にコルカで近しい人たちとお別れ会みたいなものをやると聞いていた。


「たくさん近所の人たちが集まって盛況だったよ。それで、親父さんがユーリルはうちの自慢の婿で誰にも負けないから、腕に覚えのある者はかかってきやがれって言って煽るもんだから、ユーリルが何人もその相手をさせられて大変そうだった」


 竹下も風花もそんなこと言って無かったけど……


「それで、ユーリルはどうだったの?」


「すごいね。いつものようにみんなコロンと転がされていた。やられた方は不思議そうな顔していたのがおかしかったよ」


 ふふ、ユーリルはリュザールからお墨付きを貰えるくらい腕が上がっているし、見た目は華奢だからやられた方は何が何だかわからないだろうな。


「ありがとう。楽しそうでよかった。アラルクも疲れているだろうから休んでいて」


 アラルクも工房の元の部屋へと向かって行った。アラルクは、明日結婚披露宴が終わったらラーレとの新居に移動することになっている。




 その後、村の女性陣全員で披露宴準備を行い、何とか明日の昼までに終わらせる目途が立った。これでもみんなにおかしく思われない範囲で準備をしてきたから間に合いそうだけど、やはり200人分ともなると大変だ。



 夜暗くなるまで披露宴の準備を行ったあと、明日この部屋を卒業していくパルフィを囲んで話をする。


「ソルにコペルそれにルーミン。あたいたちのためにすまねえな」


「気にしないで、みんな楽しみにしていたんだから。ねえ、コペル」


「うん、明日は楽しみ」


「おう、ありがとうな」


「ようやくだね」


「まあな」


 ユーリルとパルフィが出会ってからそろそろ二年になる。最初はいきなりユーリルを捕まえて「こいつと一年後に結婚する」と言った時はびっくりしたけど、ようやくこの日が来たという感じだ。


「長かったね」


「もう少し早くできると思ったんだが、職人育てるのに時間かかっちまったから仕方がねえ。でも、今日鍛冶工房を見てきたけど、あたいがいなくても職人みんながかんばってくれていたからな。これならいつ子供を授かっても大丈夫だぜ」


「子供と言えば、パルフィさんはいつからなんですか?」


「今日からだな。明日からが勝負だぜ」


 こちらでは日本と比べ物にならないくらい性教育が徹底している。まず子供が10才になった時にどうしたら子供が生まれるのかなど基本的なことは教える。

 その後も子供の成長に合わせて知識を与えていって、この前のミサフィ母さんが教えてくれたこともその一環だ。

 これはこちらでは避妊の方法が限られているということに尽きるのだけど、資源が乏しいテラでは必要以上に子供を持ってしまうと家族全員が暮らせなくなってしまうことがあるから仕方がない。

 だから、どこの家でも上の子と下の子の間は大体4~5年空いている。それは、上の子の手伝いが期待できる年になって下の子をもうけるから、おのずとそうなってくるようだ。


 というわけで、当然どのタイミングなら子供授かるかなんてことは、しっかりと教えられているわけで、パルフィが今日からということはそういうことなんだと思う。


「そうなんだ、いいなあ。早く私も子供が欲しい」


「ルーミンは可愛いからな、すぐにでも見つかるさ」


「早く見つけないとお父さんが適当な人見つけてきちゃいますぅ」


 パルフィとの最後の夜は遅くまで賑やかに続いた。





 翌日、試験明けの放課後、武研のコーチを頼まれているので竹下と風花と一緒に中学校まで向かう。


「アラルクから聞いたんだけど、パルフィの家で腕自慢させられたんだって?」


「うん、そうそう。ひっきりなしに来るから大変だった」


「そんな面白そうな事、どうして教えてくれなかったの?」


「だって、話していたら樹君、うまく話を合わせることができないでしょう」


 風花には言われなくないんだけど……まあ、そういうこともあるかもしれない。


「アラルクとの話も弾んだんじゃない?」


「まあ、おかげさまでね」


 パルフィが気合入っているってことは、竹下には話さない方がいいだろうな。海渡にも内緒にしておくように言っておかないと……ユーリル頑張ってね。




 さてと、明日はついに待ちに待った結婚披露宴だ。朝から準備で大変だこちらも頑張るぞ!


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あとがきです。

「ルーミンです」

「ソルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「また私たちですか。最近働かされすぎだと思いますぅ」

「前回、話し好きなんて言うから都合よく使われちゃってるんだよ。私も巻き込まれちゃっていい迷惑だと思う」

「ソルさんは主人公の一人なんだから仕方がないんじゃないですか?」

「一人?」

「はい、樹先輩とソルさんのダブル主人公です! 二人が主人公です!」

「別なんだ。そう言われるのは新鮮」

「だって、人格は一緒だけど別の人間でしょう。樹先輩にはおっぱいがないし」

「(ここでおっぱいの話に乗っちゃうと終わらなくなっちゃう)おっぱいは関係ないでしょう。だっ」

「! おっぱいは偉大です。あるとないとでは大違いです」

「(しまった。食い気味に来られた)だからその話は今度ゆっくりと聞くから」

「この前もそう言って全然聞いてくれないじゃないですか。ソルさんのおっぱいについて語りたいのに」

「(何を言ってんだこいつは)さ、さあ。次回予告のお時間です」

「あー、またはぐらかした」

「次回はユーリルたちの結構披露宴のお話になります」

「ソルさんのおっぱいはですね」

「皆さーん次回更新をお楽しみにー」

「小ぶりでも張りがあっ」

ブツ、ツーツーツー

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