第76話 迎撃

 村人からの報告を受け、私たちは盗賊を迎え撃つ準備をする。


「みんな分かってる? こちらの方の人数が多いから一対一で戦う必要なんてないからね。とにかく相手の動きを止めて、止めを刺す。まずは父さんが話をすると思うけど、戦いは避けられないはずだから気を抜かないでね」


 見張りからの報告では、盗賊は十数人、馬に乗ってきているのですぐにでもこちらに来るということだった。カインの村人がここに来る前に戦闘が始まる可能性が高い。ここにいるみんなで対処しないといけない。

 逃げてきた人たちと私とルーミン以外の女性、それにテムスは工房の中に避難させ、私たちは鍛冶工房の先の平原で盗賊を待ち受ける。



「ソル。準備はいいかい」


「うん、父さん。こちらの方は大丈夫」


「わかった。まずは私が話してみるけど、みんなはすぐに動けるようにしておいてくれ」


 見張りの人が村の人たちにも知らせに行ってくれているけど、カイン村は広くて集まるのに時間がかかる。父さんが話をしたとしても、そんなに引き延ばすことはできないだろう。



 人影はやがて大きくなり、塊となってこちらにやって来る。知らせの通り、全員が馬に乗っているようで数も10人以上いそうだ。


 馬に乗ったまま盗賊のかしらと思われる男が、正面にいる父さんの前に進み出た。


「お前が村長むらおさか」


「はい。村長のタリュフと申します。皆様はどういったご用件でこちらにお越しになられたのでしょうか?」


「いやあ、ちょっと欲しいものがあってな。それを分けてもらえねえかと思ってんだ。それをくれたらすぐにでも立ち去るからよぉ」


「いったい何をご所望でしょうか?」


「なあに、これから俺たちがしばらくの間食べていけるだけの食料と物資、それに年頃の女。女は俺たちの人数分だから12人だな。まあ、未婚の生娘がいいが、ここにはそんなにいないだろうから結婚してても20才超えてなければ構わん。村人の命に比べたらこれくらい安いもんだろう」


 他の盗賊たちからも笑い声が上がる。こうやって食料や物資を、無くなる度にたかりに来るつもりだろうか。それに未婚の女と言ったら、私とルーミンは連れていかれてしまう。



「申し訳ございません。その要求には答えることができません。このままお引き取りください」


「はあ、何言ってんだ! 命の代わりにって言ってんだろうが、このままここで死ぬか!」


 盗賊の頭は父さんに向かって、手に持った見るからに切れなさそうな剣を振り下ろそうとする。

 私はそれを見て、後ろ手に隠し持っていたパルフィ作の秘密兵器を構え、盗賊のかしらの顔めがけて矢を放つ。

 放たれた矢は、かしらの右頬を貫き、さっきまでかしらだった物体はそのまま落馬する。


 それを合図に私たちは盗賊に対して躊躇せず攻撃を仕掛ける。


 パルフィにもう一台作ってもらっていたクロスボウはルーミンが持っていて、馬に乗った盗賊に向かって連続して矢を放つ。同じくパルフィ特製の長剣を持っているリムンは、盗賊の攻撃を避けながら剣を突き刺している。


 この騒ぎに馬から落とされる盗賊たちもいて、そんな盗賊たちには工房のみんなが数人がかりで飛び掛かり、止めを刺していく。

 馬に乗ったまま逃げようとする盗賊もいたけど、私とルーミンのクロスボウで仕留めさせてもらった。

 逃げていくのを見逃さないのは、日本人の心を併せ持つ私としてはくるものがあるけど、仮に逃がして夜襲われでもしたら目も当てられない。ここは平和な世の中でも何でもないのだ。



 数分後、盗賊は誰一人として動かなくなっていた。


「みんな、よくやってくれた。ケガはなかったかい」


「みんな大丈夫みたい。父さんたちは?」


「あっという間だったから、何ともなかったよ。それにしてもその武器は凄い威力だったね。パルフィに作ってもらったんだってね」


「この前あんなことがあったから、いつ襲われるかわからないと思って」


「そうだね。でも、これは危険なものだから、どこにでも渡してはいけないよ」


「うん、わかっている。ユーリルやリュザールともそうした方がいいって話しているから」


「そうかい、みんなとよく相談して決めるんだよ。おっと、ようやく来たようだ。この人たちの弔いは、私たちの方でやっておくからみんなは休んでおきなさい」


 村人が集まって来るのを見て、父さんが私たちに休むように言ってくれた。



 工房のみんなに、今日は仕事はしなくていいからゆっくりと休むように言って、解散することになった。


 盗賊たちの遺体は父さんが村人とともに運んでいる。これから村にある死者の帰る場所に運び、弔ってあげるのだと思う。たとえどんな相手であっても死者は丁重に葬ってあげないといけないから。



 私の横には、休むように言われても盗賊が運ばれている様子を呆然と見つめている、リムンとルーミンがいた。


「二人ともありがとう。おかげでみんな無事だったよ」


 ルーミンはハッとしたように振り返り、


「ソルさん! 私たち生き残りました」


 ルーミンは私の手を取って話してくれるんだけど、その手は少し震えているようだ。


「ルーミン。無理しなくていいんだよ。リムンもね」


「ビントでは盗賊との戦いに参加していて、人が死ぬところは見てきたつもりでした。でも、海渡の地球での知識を持ってしまって、そのうえで自分自身の手で殺めてしまう……少し時間がかかりそうです」


 ルーミンの手の震えはまだ収まらない。


「僕は……無我夢中でした。リュザールさんの代わりに、みんなを守らないといけないって思ったら体が動いていました。でも、終わった後は人を刺した感触や、手にかかる血の温かさがよみがえって来て、いまだに手の震えは止まりません」


 私はリムンも引き寄せ、二人一緒に抱きしめ話しかける。


「リムン、ルーミン。二人のおかげだよ、みんなが無事だったの。ユーリルとリュザールがいない中、私だけだったらどうなっていたかわからない。二人が来てくれて本当によかった。これからもよろしくね」


「「はい、ソルさん!」」


 二人の体の力が少しは抜けた気がした。





 翌日、竹下と風花を連れて中山惣菜店まで行くことにした。


「海渡たち家にいるって?」


「うん、二階にいますって返事来たよ」


 あの後何度か総菜を買って、すっかり顔見知りになった海渡たちのお母さんに挨拶をして、二階への階段を上がる。


 呼び鈴を鳴らす前に海渡がドアを開けた。一階からお母さんが知らせてくれたようだ。


「先輩たちいらっしゃーい」


 三人で中へと入る。


「元気そうだけど、本当に大丈夫?」


「風花先輩ありがとうございます。昨日の夜、ソルさんとコペルになぐさめられましたからもう平気です」


 昨日は寝るまでの間、いっぱいコペルとルーミンの三人で話したからね。海渡の方はいいとして、


「凪の方はどうなの?」


 お茶を運んできた凪に聞いてみた。


「私は昨日の夜、ずっとテムスが話に付き合ってくれて、それでだいぶん落ち着きました」


 へえ、テムスが……成長しているみたいでお姉ちゃん嬉しいよ。ん、お姉ちゃんなのか? いや、僕はテムスのお兄ちゃんではないからやっぱりお姉ちゃんでいいのか。


「テムスってなかなか男前だろう。あの年で俺たちのことも結構気にかけてくれるんだぜ」


「うん、私もテムスが地球にいたら、絶対彼氏にしたいって思った」


 おー、テムスもてもてじゃん。


「あー、ダメダメ。テムスはコペル一筋だから、たとえ風花や凪が相手でもうんって言ってくれないよ」


 隣で風花がうんうんと頷いている。


 知らなかった。それじゃあ、コペルが待っている相手っていうのはテムスのことなのか。


「えー、そうなんですか残念です。でもコペルって私と同い年でしょう。テムスと年が離れているから先に結婚しちゃうんじゃないんですか?」


「テムスはコペルに僕が大きくなるまで待っててってお願いして、コペルも待っているって言ってくれたって嬉しそうに話してくれたよ」


 テムスは今10歳だから、結婚できるようになるのは早くてあと3年か……


「父さんたちは知っているのかな」


「タリュフさんはともかく、ミサフィさんは気づいているんじゃないかな」


 確かにミサフィ母さんなら気付いてそうだ。


「ミサフィ母さんが止めてくれているかもしれないけど、コペルに縁談持って来られたら困るから、タリュフ父さんたちには一応話しておくよ……って、海渡と凪の様子を見に来たのにテムスの話しばかりになってしまった。ごめんね」


「いえ、私たちは大丈夫です。ねえ、海渡」


「うん、先輩方今日はありがとうございました。何気ない話ができて心が落ち着きました」


「そう言ってもらえると来たかいがあるね」


「ところで、ユーリルさんとリュザールさんはいつ戻られるのですか?」


「もう少しパルフィの用事が掛かりそうだから、それが終わってからだね。カインに着けるのは10日後ぐらいかな」


「それは楽しみ……って、どうしたの竹下、浮かない顔して、もしかしてマリッジブルーってやつ?」


「いや、結婚するのは楽しみで仕方がないんだけど、ファームさんがカインの鍛冶工房をどうしても見たいって言って……結局帰りに一緒に来ることになってしまって……」


 竹下の奴、決闘で勝ったにもかかわらず、あれ以来(ちょん切るぞ事件)苦手意識を持っているからなあ。


「それはご愁傷様。親父さんに気に入られるように頑張ってね」


「そんなぁ、他人事みたいに言わないで、助けてよ」


「知らないよ、他人事だよ」


「さあ、二人ともじゃれてないで帰るよ。夕方は海渡たちの家は忙しいんだから」


「ハハハハハ。先輩たち本当に仲良しで羨ましいです。今日はありがとうございました。カインでの披露宴も楽しみですね。僕も料理頑張らなきゃ」


 そうだった、ユーリルたちが戻ってきたらすぐにでも披露宴だ。その時の料理は、ミサフィ母さんやサチェおばさんに協力はしてもらうけど、僕たちが中心に準備することになっている。


「海渡。明日ミサフィ母さんに料理の相談に行くから付いて来てね」


「わかりました! 新しいメニューもたくさん出しましょうね」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「最近私たち二人のパターンが増えてきたね」

「そうですね。私はいっぱい話せるから嬉しいです」

「ルーミンってそんなキャラだったっけ?」

「私も海渡も元々はおしゃべりなんですよ」

「確かに、思ったことをすぐ口にしてるっていう気はしてた。おっぱいとか」

「だって、朝起きたらおっぱいがあるんですよ。気にしない方がおかしいですって」

「そうなんだ。でも自分のだよ」

「海渡と私が一緒になってもわかります。おっぱいは偉大です。永遠に不滅です!」

「(しまった、話題の選択を間違えた)えっと、次回予告の時間になりました」

「えー、まだまだ語れますよ」

「今度じっくり聞いてあげるから、仕事して」

「はーい、約束ですよ。内容は結婚披露宴の話になります」

「私たちがおいしい料理も作りますから、皆さん楽しみにしていてください」

「「次回もよろしくお願いします」」

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