第75話 戦闘準備
村にやってきたのは、二組の若い家族だった。
奥さんと思われる人に聞いてみたら、夜通し歩いてきたと言っていた。小さい子供もいたので大変だったと思う。
父さんに伝え、この家族を居間へと案内する。
「どうされました、こんな朝早くに。もしかして山を越えてこられたのですか?」
父さんから私も同席するように言われ、一緒に話を聞いている。
「はい、命からがら逃げてきました」
確かにみんなの様子を見ると、
「いったい何があったのですか?」
この人たちはカインとタルブクの間に点在している、村とは呼べないほどの規模の集落に住む人たちのようだ。
「三日前、私たちが住んでいるところに盗賊が現れ、襲ってきました」
「我々は異変に気付き、何とか逃げることができましたが、他の家の者たちはどうなったかわかりません。悲鳴が聞こえてましたのでおそらく……」
「無理なお願いだとはわかっておりますが、私たちをこの村で保護していただけないでしょうか? 唯一の財産の家畜も失い、これからどうしていいかわかりません」
「お助けください。どうかよろしくお願いします」
よっぽど怖い目に遭ったのだろう。まだ震えている子供もいる。
……盗賊に追われ逃げてきたのか。セムトおじさんが言っていた、この盆地以外の場所の状況がよくないことと関係があるかな。
「それで、盗賊は何人ぐらいいたのかわかりますか?」
「ごめんさない。逃げるのに必死で……」
「いえいえ、お気になさらずに、まずは食事をとられてお休みください。その間に村の者と相談をしてまいります。ソル、この人たちが休める場所は?」
「女子寮が空いているからそこが使えます」
逃げてきた家族が食事をしている様子を見ながら、父さんと話す。
「まともに食べてなかったのかなあ」
大人はそこまでではないけど、子供たちは必死で食べている。三日前に盗賊が来たと言っていたけど、ここまでの間、まともに食事することもできなかったのかもしれない。
「そうだねえ、みんな無事にたどり着けて良かったよ」
「父さん、盗賊はここまで来ると思う?」
「多分来るだろうね。盗賊が何人いるかわからないが、襲われた村の物資では足りないだろう。それに、この人たちはタルブクよりもこの村に近いところの人たちだから、あちらの方に行くよりここに来る可能性が高いはずだ」
食事のあと二組の家族を寮まで案内する。
「お姉ちゃんありがとう! ごはん美味しかった」
「どういたしまして、お腹いっぱいになった?」
「うん!」
「あの、本当にありがとうございました。もう一日遅れていたら体力的に危なかった。感謝しても感謝しきれません」
「父さんは、困っている人を見捨てることはできませんので、気にしないでください。それよりもゆっくりと休んで、体の疲れを癒してください」
二組の家族を女子寮の空いてる部屋に案内し、工房へと向かう。
「父さんが村の人たちと相談しているけど、おそらく盗賊が来て戦うことになると思う」
「いつ頃来るのかわからないんですか?」
「うん、ここに来た人たちは逃げるのに必死で、後ろの方まで気にすることはできなかったみたい。だから来ない可能性もあるの」
「リュザールさんたちがいないのが悔やまれますね」
その通りだけど、明日地球で風花たちに話して、急いで戻ってもらったとしても4~5日はかかる。それに来るかどうかわからない盗賊のために、ユーリルたちの結婚を遅らせることはできない。
「リュザールたちを呼び寄せるわけにもいかないから、今、村にいる者だけで相手しないといけない。来ないかもしれない相手のことを気にするのは疲れるかもしれないけど、命にかかわることだから気を抜かないでね」
一人では行動しないように注意し、リムンとルーミンの二人を残してみんなには仕事をしてもらうことにした。
「ソルさんはどう思われます?」
「父さんは、タルブクよりもこちらが近いから来る可能性が高いって言っていたけど、今ではタルブクよりはカインの方が裕福なんだよね。だから、私もこちらの方を選んでくると思う」
パルフィが来てから農具なども鉄製に替えて、作業の効率も上がっているし、地球の知識を利用して肥料のやり方も工夫しているので、収穫量も以前に比べてかなり増えてきている。他の村にも教えてはいるけど、広まるまでにはしばらく時間がかかると思う。
「リュザールさんたちには知らせるのですか?」
「うん、話はする。そういう約束だから。でも戻って来てもらうつもりはないかな。だから、もし来たら私たちが戦わなければいけないんだけど、二人にはその覚悟があるかどうかと思って」
二人はこちらと繋げるときに、危険な目にあうことも了解してくれた。でも、実際にその時になって
「あのあと、風花さんにソルさんたちの川での戦闘の話を聞きました。ソルさんは止めを刺すのを
「うん、私はあの時盗賊に止めを刺そうとして手が止まった。それをユーリルに助けてもらったのだけど、そのせいでユーリルが危険な目に遭った……もしかしたら私は親友を失うことになっていたかもしれないって、ずっと思っている」
私の話を聞いて、リムンとルーミンの二人も話を続ける。
「私たちが生まれたビントでは、山から山賊が下りてくることが度々ありました。その都度撃退していたので今の私たちが生きています」
「僕たちは戦ったこと初めてではないんですよ。ただ、ビントにいた頃は武術も何も覚えてないから、大人の後ろについていただけですけどね」
「私たち二人は直接人を殺したことはありませんが、気を抜いていたら自分の身や家族、仲間が危なくなることは分かっています」
「だから盗賊が来たら、仲間であり家族同然のカインの人たちのためにも全力で戦います」
「それにパルフィさんからもらった
二人の気持ちは分かった。これならやれる!
「ありがとう。リムン、ルーミン。でも、自分の命が一番大切だから無理はしないでね」
「「はい!」」
翌日、朝の散歩のときに風花には話していたけど、改めて学校で竹下にも状況を説明する。
「それで、大丈夫そうなの?」
「父さんたちの話では、しばらくの間村人が交代で見張りをして、もし盗賊が来たときは全員で戦うことになっている。リムンたちも覚悟はありそうだから、こちらで何とか出来ると思う」
「俺はさすがに戻れないよなー。明日コルカに着いちゃうし。風花はどうするの?」
「戻りたいけど、樹から来なくてもいいって言われちゃって」
「本当は二人に戻って来てもらいたいけど、いきなりカインに帰るって言っても誰も納得しないよ。盗賊の人数は分からないけど、パルフィに作ってもらった例の武器もあるし大丈夫だよ。それに来ないかもしれないしね」
「そうだよな。盗賊が来ていること知ってたらおかしいよな」
「そうそう、だから二人はコルカで用事をすませて帰って来てね。結婚式楽しみにしているんだから」
「わかった、そっちのことはそっちに任せる」
「樹、無理しないでね。そして、何度でも言うけど
その二日後、見張りの村人が山から来る多くの人影を見たと報告してきた。
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あとがきです。
「ルーミンです」
「ソルです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「ソルさん。村の人が見つけた人影ってやっぱり盗賊でしょうか?」
「まだわからないけど、たぶんそうだと思う」
「私たちだけで大丈夫かなあ?」
「ルーミンとリムンの二人がいてくれるから心強いよ、きっと大丈夫」
「ソルさんがそう言うのなら大丈夫な気がしてきました。パルフィさんに作ってもらった武器もありますしね」
「そうそう、みんなで練習もしてきたからね。それと盗賊だったら容赦したらだめだよ」
「わかりました。みんなで生き残るために頑張ります」
「「それではみなさん次回もよろしくお願いします」」
「ところで、私の活躍する場面はありますか?」
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