第74話 東からの知らせ
半月ほどが過ぎ、鍛冶工房の隣には居住するためのスペースが設けられた。ここは結婚式のあと、ユーリルとパルフィの二人が住む予定だ。
「忙しいところごめんね。この前少し話したことなんだけどさあ」
コルカに行く準備をしているユーリルに声をかける。
「
リュザールは何とかなるかもって言っていたけど、無理なのかな。
「春先に僕たちが仕事をお願いしているでしょう。どの村でも余った人手はその仕事をやっていると思うんだよね」
うう、やっぱりタオルを普及させようとしたのは早すぎたかもしれない。
「それにしても、タオルがこれほど人気になるとは思わなかったね。コペルに頼んだ僕にも責任があるから、
ユーリル頼むね。こちらの方がパンクしそうだからさ。
ユーリルたち四人のコルカ行きには、セムトおじさんの隊商も同行してくれることになった。当然リュザールも一緒だ。
「うちのリュザールだけでなく、ユーリルとアラルクがいてくれたら盗賊なんて目じゃないからね。私たちとしても助かるよ。なあ、リュザール」
セムトおじさんは北の方で起きた干ばつの直接の影響は収まってきたけど、今度はそこと繋がりがあった村々に影響が及んできていて、治安が少し怪しくなってきていると言っていた。だからできるだけ大人数で移動した方が安全なのだ。
「はい、セムトさん。この二人だけでも心強いですが、パルフィも戦えるように教えましたから」
パルフィへの指導はもう少しで一年になる。リュザールの古武術だけでなく教頭先生直伝の柔道も教えているし、元々が鍛冶で力も強いからなかなか強力なレディに仕上がっている。戦力と考えても問題ない。
「行っちゃいましたね」
翌日ユーリルたちを見送った後、ルーミンが話しかけてきた。
「うん、しばらくみんなともお別れだね」
「僕、ソルさんとユーリルさんいつも一緒にいるような気がしていました。地球でもそうでしたし」
リムンから言われてハッとする。
「そういえば、ユーリルとリュザールが繋がってから二人と離れるのは初めてかもしれない」
リュザールは隊商の仕事でいないことが多いけど、ユーリルはだいたい近くにいた。
「やっぱりそうなんですね。何かあったらわたしとリムンで守りますね。でも、ソルさんの方が強いから余計なお世話ですかね」
「ありがとう、リムン、ルーミン。二人には期待しているよ。でも、とりあえずは危険なことは無いだろうから、仕事しようか」
「えー、タオルはもういいですぅ。ユーリルさんお願いですぅ、早く職人さん連れて帰ってきてくださーい」
ルーミンは、すでに見えなくなったユーリルたちの方を見て祈るような仕草をしている。
「文句は言わないの、待っている人たちがいるのだから。リムンの方はパルフィがいないけど大丈夫」
「僕の方は大丈夫です。銅貨を作っておくように言われていますけど、その作業はこれまでもやってきましたから」
「いいなあ、リムン。わたしと変わらない?」
「いいけど、暑くて重たいよ」
「う、そっちの方が大変そうだ……ソルさん早く仕事しましょう!」
「調子いいんだから」
私たちはそれぞれの持ち場に戻り作業を開始する。
ユーリルたちの出発から5日が過ぎ、高校で竹下たちから状況を聞かせてもらう。
「ユーリルたちはマルトだよね。昨日聞いた時も厳しそうだって言っていたけど変わらない感じ?」
「うん、マルトだね。コルカには明後日到着かな。それで、職人の件はなかなか厳しいよ。春に仕事を頼んだばかりだからさ、どの村も人手が余ってないみたいなんだ」
竹下が言うには、春に荷馬車の製作、綿花の栽培、機織り機での織物をそれぞれの村に頼んだのだけど、荷馬車と綿花をやっているところはすでに仕事を開始していて余剰の人員はいないし、機織りの方もあと二か月もしたら綿花の収穫が始まるので、こちらに人員を送ることはできないということらしい。
「まったく集まらないの?」
「うーん、どの村も俺たちに感謝してくれてて、協力はしたい感じなんだよね。タオルも欲しいみたいだし。だから全くダメというわけではないんだけど、3人来たらいい方じゃないかな」
3人か……5人くらいは欲しかったけど、この際贅沢は言っていられない。
「ありがとう。この際1人でも2人でも来てくれたら助かるから、竹下お願いね。……ところでそちらの方は大丈夫?」
「盗賊のこと? それなら風花に聞いて」
風花に?
「あのね、樹。セムトさんが言うには、いつもよりピリピリしている感じがしているって、隊商を襲ってくるものはいないんだけど、ボクたちが住む盆地以外はあまりよくない状態みたいなんだ。カイン村の方は大丈夫だと思うけど気を付けてね」
おじさんはベテラン中のベテランだからなあ、そのおじさんが気になっているのなら警戒しておいた方がいいかも。それにしても、私たちが住む盆地以外は状態がよくないのか……何とかしてあげられたらいいんだけど、そこまでは手が回らないな。
「わかった、みんなにも伝えておく。そちらも気を付けてね」
翌日の朝、井戸でテムスと会ったので水を汲んであげる。
「テムス、お兄ちゃんたちがいなくなって寂しくない?」
「大丈夫だよ。リムンお兄ちゃんも来てくれているし、寂しくないよ」
工房の部屋はユーリルとアラルク、リュザールの三人が出て行っているのでテムスが一人残ることになった。そこで、寮にいたリムンにお願いして工房の部屋に来てもらうことにしたのだ。そのあとも、ユーリルとアラルクが結婚して出ていくので、そのままいてもらうように頼んでいる。
「ふあー、おはようございます」
「おはよう、ルーミン」「おはようルーミン姉ちゃん」
「ん、ソルさん。あれなんですかね」
ルーミンが指さす方を見ると、確かに東の方に何か点みたいなものが見える。
「まだ、点にしか見えないけど……人かな」
「たぶんそうですね。何人かいるようですよ」
東には薬草畑とタルブクに続く道がある。薬草畑の方は誰も住んでいないから、タルブクの方から来たのかな、こんな朝早くにどうしたんだろう。
しばらくすると人影も大きくなっていき、数人と思っていたのが5~6人ぐらいの集団で中には子供もいるように感じた。
こちらに気付いた一人が近づいてきた。
「はあ、はあ。す、すみません。村長さんおられますか。至急お伝えしたいことがあります」
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あとがきです。
「ソルです」
「ルーミンです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「ルーミン。あんな遠くからよく人が来てるってわかったね」
「はい、私とリムンは目がいいんですよ。ビントでもよく二人で山に登って見張りをしていました」
「そうなんだ。海渡たちは目が悪かったよね?」
「はい。海渡も凪姉ちゃんもメガネがないと見えないです。だからこちらと繋がってあまりにも見えてびっくりしています」
「そんなに違って戸惑わない?」
「最初はびっくりしましたけど、ルーミンは元々そうでしたから、ああ、そうだったって思ったくらいですね。おっとソルさん、それよりもタリュフさんへの至急の用事ってなんでしょうかねぇ」
「子供もいたから尋常な事ではないと思うけど……」
「なんでもなければいいんですけどね」
「「それではみなさん次回もよろしくお願いします」」
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