第68話 温泉合宿2
前の席を後ろ向きに反転させ、五人で向かい合わせになって話を聞くことにした。
「私たちクリスマスの時に、樹先輩の劇を演じたじゃないですか」
「それ以来僕と凪、夢を見るようになったんです」
「最初の頃はぼんやりとだったのですけど、最近では割とはっきりとわかるようになってきて」
「凪に話をしたら、凪も同じような夢を見ているというし、その内容も先輩方の劇の世界のようで……」
さすがは双子。息ぴったりに説明してくれる。少し質問してみよう。
「それで、どうしてあちらの世界だと思った?」
「まず名前が劇で出てきた名前と一緒でした。もちろんあちらの言葉ですけど、ソルさん、ユーリルさん、リュザールさん」
凪は僕たちをそれぞれ指さしながら、僕たち以外知るはずのないあちらの発音で名前を呼んだ。
「それに、先輩たちが劇の中でやってきたことと、あちらの世界のソルさんたちがやっていることが全く一緒でした」
「二人は夢を見ているって言っていたよね。あちらで意識して動くこととかはできないの?」
竹下が尋ねている。
「はい、僕たちは夢でしか見ることができません。だから終わったことしかわからないし、あちらの自分にこちらで知っていることを教えることもできません。先輩たちは、何らかの方法であちらの世界と行き来しているんですよね。僕たちにもその方法を教えてください。もう、こんな悔しい思いはしたくないんです」
「あちらがまだ危険な世界だということは分かっている?」
風花は二人に質問し、「はい」という言葉を聞き、さらに続ける。
「もし繋がると、命を落とすような目に遭ったり、逆に相手の命を奪わないといけないこともあるよ。それでもいいの?」
僕たちはそれを身を持って体験した。できたらこれ以上そんな思いはしてほしくない。
「私たちはあの日以来、毎日この夢を見ています。もしかしたらこれがずっと続くかもしれません」
「それに先輩たちに起こった川での出来事も聞いています。それなら、あちらの僕たちもこちらの知識を持っていた方がきっと安全に過ごせます。先輩たちを手伝わせてと頼みましたが、これはあちらの僕たちを守るためでもあるのです」
「先輩たちがあちらのみんなの生活をよくしようと努力しているのは知っています。より安全な世界を作ろうとしていることも」
「僕たちにも手伝わせてください」
「「どうかよろしくお願いします」」
これはどうしたものだろうか。すぐには決められない気がするけど、まずは誰なのか聞いてみよう。
「あちらの名前を教えてもらえるかな」
「私はリムン」
「僕はルームンです」
驚いた。双子だったのでまさかと思ったら、そのまさかで、さらに性別が逆転していた。あ、年上年下の関係はこちらと一緒なんだ。
「あと何か決め手はないかな……」
思わずそう呟いてしまった。
劇には出てこなかったビントから来た双子の名前を知っていたり、テラの発音で僕らのことを呼んだりしていたので、間違いなくあちらのことがわかっていると思うけど、気持ち的にはまだこの二人を巻き込みたくないと思っている。
「あ、それならこの前ミサフィさんが、夜部屋に来て教えてくれたこと話してもいいですよ」
ん、ミサフィ母さんが夜に来て教えてくれたことと言えば……あ、あれじゃないか!
「海渡! それは言ったらダメ!」
うわ、みんな興味津々な顔して見ているよ。
だって、あれは今度結婚するパルフィのために、どうしたら旦那さんを喜ばせることができるかの指南で、日本人の立場からすると実の母親から聞くのもあれだと思ったけど、大変ためになる話だった。
でもこれは
「わ、わかった、ちょっと三人で相談するから、自分の席に戻ってくれる」
ちょうどバスは、宿泊施設のある山のふもとの交差点で止まっていて、この隙に座席を戻し、海渡と凪の二人はもとの席に帰った。
「あと20分ぐらいで着くね」
「樹。そんなことより、今ものすごくソルがミサフィさんから教えてもらったことが知りたい!」
はぐらかそうとしたけどダメだった。
うわぁ、竹下の目が獲物を狙う獣の目になっているよ。
「それは女の子の秘密だから、教えるわけにはいかないの」
「私でもだめ?」
「風花はリュザールだからダメ」
「「どうしても?」」
「どうしても!」
どうしてもだめ。これは結婚してからのお楽しみなんだから。
「ちぇ、つまんないの、せっかくいいおかずになるかと思ったんだけどなあ」
おかずって……隣に風花もいるのに、ん、風花はあまり気にした感じでもないな。やっぱりリュザールだから、このあたりのことは分かってくれているのかな。
「えっと、話を戻すけど、どうする?」
「どうするもこうするも、自分たちのためにお願いしますって言われているんなら、してやらないといけないんじゃないの。それにあの二人だいぶん繋がっちゃているから、中途半端な方が危ないよ。このままだと精神に異常きたすかも」
「あの二人はここで一年以上武術を覚えているから、それを持っていた方がテラで生き残れる確率は上がる」
もしあの二人が今の状態のままテラで何か事件があったとする。こちらの知識を持っていたら助けられたのにそれができなかったとき、あの二人はその後の人生を後悔しながら生きていかないといけないかもしれない。
それに地球とテラと時間を二倍使えるってこともメリットなんだよな。うーん、それなら仕方がないか。
「わかった。今日の夜、僕が海渡と手を繋いで眠るから、風花は凪をお願い。二人も僕たちの仲間になってもらおう」
宿に着いた僕たちは部屋割りをして、荷物を置いた後、お昼を食べるために食堂に集まることになった。午後からは道場に集まって練習を行うことになっている。
部屋は大体4人部屋らしいが、今回参加の15人のうち男子は6名なので男女とも3名ずつで部屋を分ける。由紀ちゃんに聞くと、部屋割りは特に決めているわけでは無いようだったので、当然海渡は僕と竹下と一緒の部屋に、凪は風花と由紀ちゃんと一緒の部屋にしてもらった。
食堂で宿が用意したお昼ご飯を食べ、道場へと向かう。
しばらく練習して、休憩時間になった時に海渡と凪を呼び、話をする。
「一応確実ではないけど、これで竹下とユーリルが繋がったし、リュザールと風花が繋がったから、これがトリガーになっている可能性が高い」
「手を繋いで寝るだけで……でもそれって、樹先輩かソルさんが相手ですよね。私は風花先輩で大丈夫なのでしょうか」
「こればかりは何とも言えないんだ。本当のところ正解なんてわからないから、今日はこれで試して、だめだったらまた考えよう」
「できたら海渡と一緒の方がよかったんですけど、そうですねやってみないとわかりませんもんね」
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あとがきです。
「凪です」
「海渡です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「海渡、ミサフィさんの話ってなあに?」
「え、えっと……や、やっぱり双子でもこんなことは話せないよ」
「ふーん、お姉ちゃんのいうことが聞けないんだ。あとでどうなっても知らないからね」
「お姉ちゃんって言っても、ほんの少し早く生まれてきただけじゃないか! 横暴だ!」
「……私、海渡のこと信じている」
「な 何、急に」
「だから、お・し・え・て」
「……みんなには内緒だよ。ごにょごにょ…………」
「へえ、そうなんだ。いいこと聞いた。彼氏できたら試してみよう。……それにしても海渡ちょろすぎてお姉ちゃん心配」
「!!!」
「さて、次回更新のお知らせです」
「うう、図られた。僕たちがあちらに行けるかどうかは夜寝るときの話になるので、次回はその前の時間のお話です」
「その前って言うとあれかしら」
「さあ、どうなんでしょうか。次回も読んでいただけるのを楽しみに待っていまーす」
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