第66話 川向こうの村
目的の村に着くと、何か物々しい雰囲気に包まれていた。
「お前たちは誰だ!」
村に入ってしばらくしたところで、男たちに囲まれてしまった。
「私はカイン村のソルと言います。村長さんにお話があってまいりました」
「ソルさんではないですか、どうしてここに?」
案内された家から出てきた
「村長さんにお仕事のお願いがあって参ったのですが……今から戦いでも始まるのですか?」
「ええ、川にいる盗賊が、そろそろ襲ってくるのではないかと準備をしているところです。あれ、ソルさんたちはどこから来られたのですか?」
「はい、そこの川を渡って……ただ、そこでは盗賊に襲われましたので、返り討ちにしてきました」
「なんと! そこの賊の頭領は腕が立つと聞いておりまして、村中で相手しないと難しいだろうと思い準備していたのです。それにしてもよくぞご無事で……まあ、まずはお上がりください」
村長さんは私たちを居間に通してくれた。
「盗賊はいつからいたのですか?」
こういう時の話は大体ユーリルに任せている。私たちは頂いたカルミルを飲みながら、話の行方を見守っている。
あれ、ここのカルミルは少し酸味が強い、まだ興奮している脳がすっきりしてくるのがわかる。
「あいつらは私がソルさんのところから帰ってから間もなく……そうですね春の中日くらいからでしょうか、それから川を通る者を襲うようになって、大変困っておりました」
「そうですか。それで行商はどうしていました?」
「ええ、まったく出せていません。この村の者は、それ以来川には近寄らせていませんし、このあたりの村にも知らせはしておりますので、どこの村も行商には行けてないと思います」
「それなら物資は?」
「そろそろ危ない頃でした。それは盗賊も同じで、川に人が来なくなったらこちらが襲われるのも時間の問題でした。本当にありがとうございました。これで行商に出すことができる」
「村長さんのところでは隊商は組まないのですか?」
「我々の村は規模が小さいので隊商を組んでも維持できないのですよ」
「なるほど、わかりました。今回僕たちが来たのは、この村で荷馬車を作って頂きたいと思ったからです」
「え、荷馬車をですか? ただ、そこの川は深いところがあって荷馬車は渡れませんよ」
「はい、だから川に橋を架けてもらいます」
「橋ですか……私達では荷馬車が通れるような橋を作ることができませんが、どうしたらいいのでしょう」
「橋はバーシの人たちに頼んで架けてもらいます。カインに来られた時、バーシの近くの橋を通ったでしょう。あんな感じでそこの川に橋を架けたら荷馬車も普通に通れます」
「確かにあの橋は立派だった。あれなら荷馬車も十分通れるでしょう。でも、その費用はどうするのでしょうか? 私達で出すことができるのならいいのですが」
そしてユーリルは、村長さんにカインで私に説明してくれたことを話した。
「おお、隊商をこのあたりの村が集まって共同で出すのですね、それなら何とか維持できそうだ。それにカルトゥまでの道は遠くて採算が合わなかったのですが、荷馬車くらい荷物が詰めたら行く価値はありそうですね」
「それでは、荷馬車を作る職人をカインに派遣してください。橋の件はバーシに伝えておきます」
「わかりました。他の村にも声をかけ、集めて送り出すようにします」
ということで、ほとんど私が話すことなく交渉が済んでしまった。もちろん銅貨の普及についてもお願いしている。
あー、それにしてもここのカルミルは美味しかったな。作り方教えてくれないかな。
その夜は村長さんの家に泊めてもらうことになった。村長さんは村中の物資を集めてでも、もてなそうと考えていたようだけど、丁重にお断りした。物資のこともあるけど、昼間あんな経験をしたのだ、たくさん出されても誰も食べることが出来なかっただろう。
そして食事が終わると、みんなすぐに与えられた部屋に分かれた。誰もが口を開くとあの時のことを思い出しそうで嫌だったんだじゃないかな。私もお湯を貰い、体を拭いて横になったらすぐに寝てしまった。きっと精神的に参っていたのだと思う。
翌朝、いつもの散歩のときに、僕の様子を見て風花が聞いてきた。
「樹、大丈夫じゃないよね」
「うん、ちょっと自信がない」
「……今日は竹下君も入れて少し話をしよう」
朝食のあと、いつもの竹下のお店の商談室を借りて話をすることになった。
「おはよう。風花と樹、揃ってどうしたの?」
「どうって……竹下君は大丈夫?」
「え、俺は……大丈夫じゃない」
「やっぱり。でも仕方がないと思う。あんなことがあって、普通にしていられるのならそれは精神がおかしい」
「なんだかさ、よくわかんないんだよね。さっきまで戦っていた相手が、俺の短剣で動かなくなるの……その時の白い川が赤くなっていく様子とか一生忘れられないと思う」
竹下も苦しんでいたんだ、僕だってあの短剣を突き立てた時の感触が、今でも手に残っている。
「二人ともよく聞いて。あの時君たちは命を懸けて戦って、その結果として相手を手にかけることになった。でもそれは必要なことで、もし、盗賊を逃がしていたら今度はあの村が襲われて、村長さんを始め多くの人たちが死んでしまっていたかもしれない。
忘れろとは言わないけど、必要以上に自分を追い詰めないで、ボクは二人が無事で本当によかったと思っている。苦しいときはいつでも言ってね」
「聞きにくいことだけど、リュザールが初めて人を殺したのっていつなの?」
「ボクは12歳の時かな。隊商が襲われて、それまではボクは守られていることが多かったんだけど、相手の人数が多くてボクがやらないと他の隊員がやられちゃうところだった。昨日のソルみたいな感じだね」
「その後何ともなかったってことは無いよね」
「うん、しばらくは夢に出て、夜何度も泣いた。そのたびに
風花の胸で泣くことはできないけど、風花は僕たちよりも小さい頃に苦しい経験をしてきていたんだ。
テラのために頑張ると決めて、テラの治安を考えたらこういうことは起こってもおかしくなかった。今更なかったことにはできないんだから、前を向いていくしかないじゃないか。
「ほんとだよな。俺たちよりも小さかったリュザールが乗り越えられたんだから、くよくよしても仕方ないよな。前に向かって行こうぜ。樹、風花」
竹下の方も折り合いがついたようだ。
「ありがとう風花」
翌朝、お世話になった村を後にする。バーシの村には3日後に着く予定。
「思ったよりもソルとユーリルが大丈夫そうなんだけど、なんで?」
アラルクが私たちのことを聞いてきた。
「さ、さっき、リュザールに気持ちを落ち着けてもらったから」
「そうなんだ、よかったね。俺も最初の時はしばらくつらい思いをしたから、今日は二人を励ましてあげないといけないって思っていたんだよ」
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
事件のあった川を渡る。盗賊の出る気配もないし、あの時感じた嫌な感じもしないから、少なくともここにはいないようだ。
川の途中で、リュザールとアラルクが私とユーリルを心配そうに見つめている。
「大丈夫だよ。ねえユーリル」
「うん、心配しないで、二人ともありがとう」
川を渡り切り、盗賊を置いて行った林を横目に見て私たちは先へと進む。
その後バーシ村に到着した私たちは、村長のバズランさんにシリル川の件を伝え、橋を建設できる場所の調査に行ってもらうことにした。
色々と会った今回の旅もようやく終わりだ、少しくらいゆっくり出来たらいいんだけど、難しいだろうな。
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あとがきです。
「ソルです」
「リュザールです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「ごめんね、リュザール。心配かけちゃって」
「仕方がないよ、誰だって経験したくてやっている人なんていないから」
「ありがとう、みんなのおかげで元気でた」
「うん、よかった。困った時にはいつでも頼ってね。それでは次回予告の時間となりました」
「次回からしばらく地球での話になります。時間は少し進んでゴールデンウィークでの出来事を中心に物語が進みます。どうやら樹たちは合宿に行くようですが、何が起こる!?」
「「次回もお楽しみに―」」
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