第65話 川での戦闘
※この話には残酷な描写があります。ご注意ください。
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時は少しさかのぼる。
「……ちょっと待って。あの林のところ何かいる」
リュザールの突然の言葉に、みんなはいったん立ち止まる。
「何って何がいるの? ユーリル、アラルクわかる?」
二人とも首を振る。当然私にもわからない。
「たぶんだけど、盗賊。少し殺気が漏れている。川に入ったところを両岸から襲ってくると思う」
「他に渡れるところって……」
「この近くにはないよ。かなり遠回りになると思う。ボクとしては襲わせてもいいと思うけどね」
「え、大丈夫なの?」
「アラルクもいるし、ソルもユーリルも自分の身は守れるでしょう」
確かに私もユーリルも、油断しなければ相手に触れさせることは無いと思う。それに、私、ユーリル、リュザールの三人はパルフィに作ってもらった短剣を持っているし、アラルクにはいわゆるロングソードと呼べるような長剣を持たせているから、武装の面でも何とかなると思う。特にアラルクの剣は、ユーリルが調べた地球の剣の技術を取り入れているので、このあたりではこれ以上の剣を持っている者はいないんじゃないかな。
「コルカに行商人が少なかったのは、こいつらのせいだと思うんだよね。いっそのこと退治した方が、このあたりの人のためになると思うよ。ただ、少し様子を見たいから付き合ってもらえるかな」
「私たちはどうしたらいいの?」
「アラルクは人を切ったことは? ……あるね、わかった。まずはボクが話して様子を見る。そこでこちらを殺しに来たときは遠慮なく息の根を止める。ソルとユーリルはそういう経験はないだろうから無理しないで自分の身を守って」
そうして私たちは川に向かうために林の
「これは話し合いは無理かな。すでに血の匂いがしている。もう戻ることもできそうにないし、戦うことになるはずだから気を引き締めてね」
血の匂いは分からないけど、ここに入った途端、何か嫌な感じがしてきた。これが殺気というものだろうか。
川辺に着いた時、リュザールから指示が出る。
「馬から降りて渡ってね、その方が戦いやすい。川を半分近くまで行ったときにあいつら来ると思う。僕はこっちの岸の方をやるから、アラルクは向こう岸の奴らを頼む。ソルとユーリルは馬と自分の身を守ることに集中して」
みんなで馬を降り、川を三分の一くらい渡ったところで両岸の林から人がわらわらと出てきた。全部で7~8人くらいだろうか。
「兄ちゃんたち女連れで旅かい? いい身分だねえ。ご丁寧に馬まで下りて素人かい。ケガしたくないなら馬と女を置いて立ち去りな」
首領と思われる賊から言葉がかけられる。
「そんなこと言って、林の中で血の匂いがしていたけど、逃がす気なんてないんでしょう」
「そんなことないぜ、まあ、逃げ切った人間がいたかどうかはわからねえけどな」
周りから笑い声がきこえる。
こいつらクズだ。このままにしておいたら、どれだけ犠牲が出るかわからない。
「ボクたちはあなたたちの言うことを聞く気がありません。さらにあなたたちをこのままにしておく気もありません」
「へえ、なかなか気の強い兄ちゃんだ。よく見たら顔も可愛いじゃねえか、俺がよがらせてやるからこっちこいや。おい、お前たち! 女以外の2人を始末しろ!」
その言葉を合図に盗賊たちが川に入り、私達の方に向かってくる。
「みんな打ち合わせ通りに」
私とユーリルは4頭の馬の側で身を寄せる。
私のところに向かってきた賊を、リュザールは素早く近寄りそのまま引き倒し短剣でとどめを刺す。アラルクに突っ込んでいった賊は撫で切りにされ川に倒れこむ。
グレーシャーミルクで白く濁っている川は赤く
「何やってんだ! お前ら一斉にかかれ!」
首領の言葉で残りの賊が動き出した。
アラルクは一人を切り倒し、向こう岸からやってきた残りの一人と剣で応酬している。
リュザールは一人を倒し、首領と対峙する。
残ったの2人が私に向かってやってきた!
ユーリルと合図をし、私は2人を引き付ける。
まずは一人。腕を極め、とどめを! 刺せない……
「何やってんの! 死んじゃうよ!」
ユーリルが私の代わりに賊にとどめを刺してくれた。
「ご、ごめん。あ、危ない!」
ユーリルは賊が突いてきた剣を避けたが、川の石につまずいて体勢を崩してしまった。賊は体勢を崩したユーリルに向かって歩いていく。舌なめずりをしているその顔は残虐そのものだ。
(私が
私は、パルフィから自分たちの身を守るようにと手渡された短剣を持ち、いまにもユーリルに剣を振り下ろそうとする賊の背中にそれを突き立てた。
賊は剣を落とし、川に身を沈める。短剣を抜いたそこからは、白く濁った川の水を染めるように赤い血が流れだしていた。
腰が抜けたのか、川に座り込んでいるユーリルの手を取って立ち上がらせてやろうと思うけど、手が震えてその手をうまくつかむことができない。
「ソル! ユーリル!」
アラルクが駆け寄ってきてくれた。
「手が震えてうまくいかなくて」
アラルクの手を借りて、ユーリルを立ち上がらせる。
「大丈夫? さっきはごめんね」
「いや、僕の方もありがとう」
まだ二人して何とか支え合っている状態だけど、だいぶん落ち着いてきた。
リュザールを見るとまだ首領と対峙していた。リュザールが手こずるなんて、かなりのやり手なのかな。
「あなたの仲間はボクの仲間がすべて倒しました。もう終わりです観念してください」
「うるせえ! お前ら許さねえからな」
首領がリュザールに飛び掛かる。リュザールはそれを軽くかわし、そのまま押さえつける。
「覚悟はいいですか」
「わ、悪かった。俺にはまだ小さな子供がいるんだ。た、助けてくれ」
「あなたはこれまで、そう言ってきた人を助けたことがありますか」
リュザールそのまま返答は聞かず、手に持った短剣を首領の胸に突き立てた。
「ソル、ユーリルごめん。嫌な目に遭わせてしまって。相手の力量を見誤っていたボクのミスだ」
「僕はソルを助けると決めた時から覚悟していた。でも、体が付いていかなかった」
「私は覚悟が足りなかった。もう少しでユーリルを失うことになっていたかもしれないと思うと、今でも手が震える」
リュザール、ユーリル、アラルクの三人は、何も言わず私の手を握ってくれた。
「みんなありがとう。アラルクは3人も相手してたでしょう。大丈夫だった?」
「パルフィの剣のおかげで苦労しなかったよ」
その後私たちは、いくら賊とはいえ川に放置したままにはできないので、引き上げることにした。
「馬たちがよく逃げなかったよね」
馬の手を借りて遺体を運んでいるときにユーリルに聞いてみた。
「ああ、絶対大丈夫だからここから動かないでって話していたから」
馬に話したからと言って聞いてもらえるものなのだろうか……私がやってもだめだろうな。
遺体は林の陰にそのまま並べて置いておく。こちらで遺体は埋葬することもあるけど、鳥葬や獣葬することもある。死んだらみんな平等で、自然に還ってもらう。
対岸に渡り、血の付いた服を洗い、たき火を起こして体と服を乾かす。
あの時は興奮してわからなかったけど、川の水は雪解け水だからかなり冷たい。
私は下着が見えないように持ってきた布を体に巻き、火にあたる。
さすがに空気が重たい。何か声を掛けないといけないと思うけど……よし!
「リュザールのおかげで自分の身は守ることができたよ。でも、ユーリルには危ない目に合わせちゃって、リュザールからいつも注意受けていたのに……」
うう、みんなを元気づけようとしたのに……
「あれは僕が動揺してしまって、隙を作ってしまったから。ソルのせいではないよ、気にしないで」
「二人とも動きはよかったよ。さすがリュザールに教えてもらっているだけあるね。ただ、実戦が足りなかっただけさ。ねえリュザール」
特に落ち込んでいるリュザールは、話を振られても答えようとはしない。
「リュザール?」
「ボクはいつになったらセムトさんのようになれるのだろうか」
リュザールはうつむきながら話を続ける。
「今回もボクが判断を間違ったばかりにソルたちに嫌な思いをさせ、危険な目にも遭わせてしまった。ソル、ユーリル、アラルク本当にごめんね」
顔をあげたリュザールの目には悔し涙が浮かんでいる。
「何言ってんの。リュザールがいなかったら、川の真ん中でいきなり襲われて死んでいたかもしれないんだよ。それに僕たちはこの世界に生きているんだ。今日のことはいつかは起こる避けられない運命だったんだよ。この経験はきっとこの世界のためになるはずさ」
「リュザールの判断は間違ってないよ、あいつらを放置していたらこのあとも何人もの人が死んでいたはず。倒すことができる俺たちがやらないでどうするの」
「そうそう、ユーリル、アラルクの言う通り。みんな怪我せずに生き残れたんだし、失敗したと思うのならそれを繰り返さなかったらいいからね。それにリュザールがセムトおじさんに届いてないと思うのなら勉強しないとだね。さあみんな、そろそろ服も乾くから出発しようよ」
「みんなありがとう。ほんとだね、まだまだ勉強しないといけないね」
支度を整えた私達は、本来の目的地の村に向かって進みだした。
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あとがきです。
「樹です」
「風花です」
「「いつもお読みいただきありがとうございます」」
「えっと、ソルたちのことは心配だけど、本文が重たいのでここは軽く行きましょうー」
「おー」
「風花はここは初めてだよね」
「うん、風花としては初めてだけど、前回もリュザールで出てたから緊張とかはしていないよ」
「そっか、わかった。それでは進めるね。ソルたちはとうとう盗賊に襲われてしまいました」
「うまく切り抜けることは出来たけど、今後どうなっていくのでしょう」
「「次回もお楽しみに―!」」
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