第64話 村巡り
「ねえ、ユーリル。どういう順番で回っていくか決めているの?」
「近いところからでいいんじゃないの? もしいなかったら帰りに寄れるからさ」
今回私たちが向かう村は10か所近くある。連絡して向かうわけでもないし、村長さんがいないところもあるかもしれないので、ユーリルはその時には帰りにもう一度寄ったらいいと言っているのだ。
それにしてもバーシのバズランさんかビントのトールさんか知らないけど、この短期間の間に一体どうやって、これだけの村に私達のことを広めたのだろう。不思議に思う。
まず私たち三人は、馬に乗りバーシの隣の村に向かって出発した。そこなら今日中に着ける。
「ねえ、アラルク。今日もラーレがお見送りに来ていたけど、どんな感じなの?」
川辺で馬を休ませているときに聞いてみた。
「今度ラーレのお父さんとコルカに行くことになっているんだ」
「え、それじゃあ!」
「うん、ラーレもいいって言ってくれたから、ラーレのお父さんにお願いしたんだ。そしたらうちの父さんと話をしようと言ってくれて」
まだ、お父さんたちの話し合いが済んでないから結婚は決まっていないみたいだけど、ラーレのお父さんとアラルクのお父さんは兄弟だから滞りなく話すは進むと思う。
「本当によかったよ。あの時はなだめるのに苦労したからね」
「ユーリル、そのことは言わないで!」
ん、何のことだろう。聞かない方がいいのかな。
それから数日かけていくつかの村を回り、綿花を栽培してもらうところ、織物をしてもらうところ、他の村の分まで米を作ってもらうところなど、その土地に応じた仕事を依頼し、銅貨の普及についてもお願いした。
あとは、マルト村とシリル川向こうの村を残すだけで、これまでのところ、ありがたいことにすべての村で私たちの提案を受け入れてもらえている。
その時に聞いた話で、どうして私たちのところに
「いや、ビントのトールさんと結婚式で一緒になりましてな。その時に来ていた村長のみんなと意見交換をしまして、そこでソルさんたちの話をお聞きしました。トールさんが困ったことがあったら、ソルさんならきっと手助けしてくれるというものだから、後回しにされてはかなわないと雪が少なくなってすぐに伺ったのです。思った通り多くの村が来ていたようですが、ソルさんは素晴らしい。すべての村を助けようとされる。トールさんを信じてよかった。ソルさんは村の恩人です。これからも頼りにしております」
やっぱり元凶はトールさんか、私たちも口止めしてないから仕方がないけど、いっぺんに来られるとびっくりしちゃう。もともと綿花にしても織物にしても、他のところでも作ってもらおうとは思っていたから、教えるのは構わないのだけど恩人と言われるのはむしろ困ってしまう。
「ソルは今どのあたりにいるの?」
翌朝、散歩のときに風花が尋ねてきた。
「明日マルト村に着くよ。村長さんがいたら、桑畑に行って
「ボクは明日コルカを発つから、マルトだったら入れ違いか……」
「僕も会えるように調整してみるよ」
ずっと休みなく移動してきたから、一日くらい休んでも問題ないと思う。
「本当! 楽しみにしてるね」
風花も嬉しそうだ。さてと、竹下と打ち合わせして、リュザールに会うために休むことをアラルクに悟られないようにしないといけないな。リュザールの隊商が来ること知っていたらおかしいからね。
マルト村では村長さんに会えたので、桑林まで同行してもらった。
「この卵が生地のもとになるのですか?」
「はい、これは蛾の卵なのですが、この蛾は蛹になるときに繭を作ります。この繭がこの生糸になるのです」
枝についている卵を探し出し、持ってきた生糸とともに村長さんに指し示す。
「ほお、これはきれいな糸だ、これで織った織物はさぞ素晴らしいものとなるでしょうな」
カイン村の蚕さん(蚕ではないけど近いからそう呼ぶことにした)も今のところ順調に飼育できている。一度試しにコペルに糸にしてもらったら、地球で見た生糸と変わらないとユーリルが言ってくれた。ただ、カイン村でも今は蚕さんを絶賛増殖中なので、生地にできるまでには至っていない。
「私のところでも今は蚕さんを増やしている段階なので、生地は織れていないのですが、出来上がりは保証します」
「それで、私たちは何をしたらいいのでしょうか?」
「この蛾の飼育をしてください」
「飼育ですか?」
「はい、今はこの蛾は何もしてない状態なので、天敵に食べられたりしていると思います。それを小屋を作って保護してあげたら、天敵や天候の被害もなくなるし、捕りつくさなければいつまでも安定して繭を確保できると思います」
「なるほど、そしてその繭から生糸にしたものを、私たちはほかの村に売っていくということですな。それなら村人の仕事も確保できる。ソルさん本当にありがとう」
そのあと、飼育の方法を教え、糸の紡ぎ方は繭ができたときに改めて伝えることにして、マルト村で一日休むことにした。村長さんがぜひ家で泊ってくれって言ってくれたけど、リュザールたちを隊商宿で偶然を装って待たないといけないのでそういうわけにはいかない。
「ねえ、ソル。どうして村長さんのところに泊まらなかったの?」
う、アラルク。それは聞かないでほしかった。
「あのね、アラルク。ソルは、ただでさえあっちこっちの村長さんのところに行って気疲れしているから、ゆっくりと休みたいって思っているんだよ」
「確かにそうだね。これまでも、村長さんのところに泊まらせてもらっていたけど、気を使ったもんね。それにソルが作ってくれた料理の方がおいしいしね」
さすがはユーリル、頼りになる。アラルクも納得してくれたようだし、料理くらいいくらでも作るよ。
翌日の午後、リュザールとセムトおじさんの隊商がマルト村に到着した。
「やあ、ソルにみんな奇遇だね……えっと、どうしてここに?」
まあ、リュザールがダイコンなのはいつもの通りなので、
「ほかの村々の依頼で来ていたんだけど、ホントびっくりだよ」
「偶然てあるものだね。それでソルたちはこれからどこへ向かうんだい?」
「おじさん、北のシリル川向こうの村に行こうと思っています」
「あちらへかい……リュザールも一緒ならあるいは…………」
おじさんの様子がおかしいけど、何かあったのかな。
「まだはっきりとはわからないのだけど、気になったことがあってね。少し様子を見た方がいいと思うのだけど、すぐにでも出発するのかい」
「明日の朝出発しようと思っています」
「そうか……リュザール、隊商はいいからソルたちに付いて行ってあげなさい」
「セムトさんいいんですか?」
「ああ、気のせいだとは思うが念のためにね」
なんだかリュザールも同行してくれるようになったらしい。
「リュザール、おじさんが言っていた気になることって何かわかる?」
「わからない。ボクは気付かなかったけど、セムトさんには何か気になることがあったのかもしれない。勉強不足だ悔しい……」
リュザールは本当に悔しそうにしている。一応バーシの隊商を率いていたこともあるのに、おじさんには気付けたことが自分ではわからないのに納得がいってないみたい。
「おじさんも気のせいかもって言っていたから、何もないかもよ」
翌朝、私たち3人にリュザールを加えた4人でマルト村の北のシリル川を目指す。
「馬を連れてこられてよかったね」
「うん、ボクの分の荷物は荷馬車に積み替えることができたから助かったよ。まあ、馬がなくてもソルの馬に一緒に乗ってもよかったけどね」
「その時は僕がソルと一緒かな。目の前でイチャイチャされるの腹が立つし。ねえ、アラルク」
アラルクもそうそうと言っている。
「イチャイチャなんてしないよ。それでリュザール、おじさんなんて言っていたの?」
出発前にリュザールは、おじさんと話していたので気になることも聞いているはずだ。
「セムトさんはコルカの町でいつも見る行商の人がいないのが気になったらしい。特にシリル川向こうの行商人が少なくなっていたからその原因を考えていたみたい。ボクはそこまで気付かなかったからまだまだ未熟だ」
そう言って、リュザールは落ち込んでしまった。
「何かあるって決まったわけではないし、行ってみたらわかるよ」
リュザールをなだめながら馬を走らせ、馬で渡ることができるシリル川の浅瀬を通っているときに事件は起きた。
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あとがきです。
「ユーリルです」
「リュザールです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「リュザールって相変わらずダイコンだよね」
「ダイコンってなに?」
「わかんないならいいよ。でさ、ソルと一緒に旅できるようになってよかったね」
「うん、それはよかったんだけど、自分の未熟さに打ちひしがれているよ」
「打ちひしがれるって、よく知ってるね。僕が教えた国語が役に立っているのかな……(できたらダイコンの意味も分かってほしかったけど)」
「何か言った?」
「わ、悪かったからその短剣しまって……え、えっとなんだっけ。そうそう、何か事件が起こったようです。セムトさんが気にしていた事と関係があるのでしょうか」
「……ボクがしっかりしてさえいれば」
「リュザール、それは本文でやって、さあ締めの時間だよ」
「「次回もお楽しみに―」」
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