第59話 武研活動記録3
第55話 修行の成果の翌日の地球での話になります。
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「やばいよ竹下。今日風花、口きいてくれないんだけど……」
「お前何やらかしたの?」
「わからない。朝の散歩の時から機嫌悪かったから、テラでの出来事が原因だと思うけど」
「え、いや、それならなんでお前がそんな目に遭ってんの? 俺ならわかるけど」
「そうなんだよ。話しかけても全然答えてくれなくてさ。今日の武研が怖くて……」
「休む? わけにはいかないよな」
「うん、風花とこのままなのはもっと嫌」
「二人で謝って許してもらうしかないよ。それで風花はどこ行っているの?」
「職員室。日直だったから日誌持って行っている」
春のクラス替えの時に、竹下とは違うクラスのままだったけど、風花とは同じクラスになった。だからこれまで以上に一緒にいることが多いんだけど、今日は、機嫌が悪そうで声もかけづらくて、話かけてもあまり返事もしてくれないんだよね。きっと、かなり怒っているんだと思う。
風花が武道場に来るのを竹下と二人、正座で待っていると。
「二人とも何やってんだ?」
「戸部先生。今日はご迷惑かけるかもしれません、先に謝っておきます」
「た、竹下、何事だ。もしかして風花を怒らせたのか?」
うんと僕がうなずくと、
「風花のことだからケガさせることは無いと思うけど、お前たち本気で謝れよ。私では手に負えんからな。一年生の方は海渡たちに任せることにするから」
今年に入って一年生が5人も入った。うち3人は女の子だ。力が無くても身を守れることが評判になったみたい。まあ、風花のファンの子もいるみたいだけど。
海渡たちが来て僕たちを見てぎょっとしているけど、戸部先生がうまく話してくれているみたいだ。あとは風花を待つばかり……
…………風花が来た。胴着も着て、気合乗りも十分。みんな事情を知っているのか武道場の中も、張り詰めた空気が漂う。
ゆっくりとそして静かに歩き、僕たちの前に立った。
「そんなことをしても無駄だから、二人とも立って」
やばいやばい、これは尋常じゃない怒り方だ。僕も竹下もきっと顔が青ざめているに違いない、恐怖で手も震えているのがわかる。
でも風花は僕たちの手を優しく握り、話し出した。
「ちょっとした油断で命を失うことがあるの」
その言葉を聞いた瞬間、僕たちは風花が怒っていた本当の理由を知った。
「リュザールが、バーシの隊商で育てられていたの知っているでしょう。その時の頭っておじいさんの一番弟子で、ものすごく強かった。
だからボクも、その頭からいろいろと教えてもらって強くなることができたんだ。ある時盗賊に襲われて……相手は弱かったんだ。でも頭、子供が小さいから助けてって言葉に惑わされて、気を抜いた一瞬の隙に……毒針を刺されてしまって……結局その毒が原因でそのまま死んじゃった。それ以来ボクは…………樹に竹下君に、ソルにユーリル。誰もいなくなってほしくない! だから……」
そういって風花は泣き出してしまった。
僕たちは風花を二人で抱きしめ、気持ちを伝える。
「僕は、風花をリュザールを悲しませることはしない。必ず生き残る」
「俺も親友にパルフィを置いていくことはしないと誓う。決して間違えない」
「本当? 絶対だよ」
ああ、もう僕たちは命を粗末にはしない。こんな思いはもうこりごりだ。
「よかった。安心した」
そういうと風花は座り込んでしまった。
風花も落ち着いてくれてよかった。
ん、そういえば、なんか忘れているような……
あ! ここは武道場だった……
恐る恐る周りを見る。静まり返った武道場では武研のみんながこちらを見ている。
や、やってしまった。いろいろと聞かれたはずだ。なんと説明したらいいんだろう……
「す、すごい! 樹先輩に竹下先輩、それに風花先輩。本当に感動しました!」
え、感動って?
「先輩方。素晴らしかったです。まるで本物を見ているようでした。これってお芝居の練習なんでしょう?」
し、芝居? 慌てて由紀ちゃんの方を見ると、舌を出し笑っていた。
僕たちの様子を見て、みんなには芝居の練習って言ってくれていたみたいだ。助かった。
「みんな、見たか。さっき話した通り、今度のクリスマスに老人施設で劇をすることになった。内容はこいつらが今演じたものをやりたいと思うが、お前たちはどう思う?」
ち、ちょっと何? 何が起こっているの? 風花、竹下何か知っている? あー、二人とも固まっちゃっているよ……
「俺、賛成!」「私も」「先輩達かっこよかったです!」
「わかった。こいつらと話をするからお前たちは立ち合いの練習をやっておくように」
「「「押忍!」」」
「由紀ちゃんどうゆうこと?」
「だから、戸部先生と呼べって言っているだろう樹。まあいい。私は、お前たち三人が、何かに巻き込まれているんじゃないかとずっと思っていた。
それがお前たちのためにならないことなら、全力で止めるつもりでいたんだけど、どうもそれはお前たちの成長に必要な物だと感じている。だからまあ、見守っていたんだけど……」
見守ってくれていたんなら、そのままでもよかったと思うんだけど。
「お前たち自分ではわかっていないみたいだけど、何のゲームか空想の世界か知らんがソルやらユーリルやらのキャラ名で喋っているんだよ。中にはそれを追求しようというやつもいるみたいで、そろそろ私の手に負えなくなって来ているんだ。
だからここは劇ということにして、それを表に出したがいいと思ったわけだ。老人施設から、クリスマスにイベントしてくれって依頼が来ていたからちょうどいいと思ってな」
気付いてなかった。注意していたはずなのに……ただ、僕一人では決められないので、
「どうする?」
「私はいいよ」
「俺も、もうこうなったら仕方がないと思う」
「よし。では、お前たちの話なんだから、劇のシナリオ頼むな」
思いも寄らない展開になったけど、風花が怒っていた理由もわかったし、みんなの前でやらかしたことも何とかなった。
劇をしなくちゃいけなくなったけど、クリスマスだから準備する時間もあるだろう……でも劇って、僕たちのことを劇にするんだよね、それってものすごく恥ずかしいことなんじゃないの?
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あとがきです。
「ソルです」
「リュザールです」
「「いつもご覧いただきありがとうございます」」
「うぅ、私たちのことを劇にするなんて恥ずかしくて仕方がないんだけど、どうしてもやらないといけないのかなあ……」
「ボクはソルとのことを知ってもらえるから嬉しいよ」
「リュザールはそうだろうけど……」
「ソル、次回予告してって」
「あ、次回はテラでのお話です」
「次回もお楽しみに―」
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