第57話 コルカからの宿題

 今度のコルカ行き、またしても多くの宿題を持ち帰ってしまった。


 急ぎのものから片づけることにする。


 まずは養蚕ようさん。生き物だから最優先。


 薬草畑の世話に行くリュザールとテムスについて行き、一緒に飼育小屋の中に捕獲したまゆを入れることにする。

 すでに中身はさなぎになっていて動くことが無いので、生きているかどうかわからないけど、生きているならそろそろ羽化するはずだ。

 そうして羽化した後は、交尾して卵を産むとユーリルから聞いているので、繭の近くに桑の葉を置いていたら産卵するかもしれない。


「ソル姉。この繭って本当にきれいだよね。コペル姉ちゃんが喜びそう」


 そう、コペルに見せたら大喜びで、すぐにでも紡ぎそうだったから慌てて止めた。だって、見せた途端、繭をほどこうとしてるんだもん。

 第一、繭はそのままで糸を紡ぐことはできない。繭を糸にするには、蛹が中から出てくる前にお湯で茹でなくてはいけない。ただ、そうすると当然蛹は死んじゃう。

 今は育てて増やすことが必要だからね。コペルには悪いけどしばらく我慢してもらわないといけない。




 薬草畑からの帰りに鍛冶工房によって、パルフィに話を聞いてみる。パルフィは、コルカからの帰りにいよいよ銅貨の製造ができると張り切っていたからね。


「ようソル。親父に聞いて金型の作り方もわかったからよ。すぐにでも取り掛かるぜ」


 銅貨の形については、ユーリル、リュザール、パルフィと何度も話し合って決めた。


 仮に真似されて他で作られたとしても、問題ないということで余計な装飾は付けないことになった。ただ、行商人でもあるリュザールの希望で、数えやすいようにしてほしいということなので、その方法を考えていたのだ。

 結果、昔の時代劇(投げ銭で悪党を懲らしめるやつ)に出てくる硬貨なら、真ん中に四角い穴が開いていて、紐に通しておけば数えやすいし、持ち運びもしやすいだろうということになった。

 ただ、その型についてはパルフィが少し悩んでいて、それを今回のコルカ行きで親父さんたちに作り方を相談してきたらしい。


 型ができたら本格的に銅貨の製造が始まる。ある程度貯まったら本格的に普及させることになる。うまくいけば物々交換から貨幣経済に移行することができるかもしれない。


「ところで、ソルとユーリルがリュザールから指導してもらっている技があるよな。あれをあたいにも教えてもらえねえか」


鍛冶工房を出ようと思っているとき、パルフィが尋ねてきた。


「リュザールに聞いてみないとわからないけど、たぶん大丈夫だよ。でもどうして?」


「今度あたいの工房に職人を雇うだろ。どんな奴が来るか分かんねえが、きっと男だ。いくら喧嘩に自信があっても、力で負けるかもしれねえ。もし、何かあった時にはユーリルに申し訳なくて、一緒になることができねえ。自分の身は自分で守りたいんだ。頼むよ」


 確かに、ユーリルもこれからは他の村に行くことがあるかもしれない。それにこの鍛冶工房は、工房や私の家から少し離れているから、パルフィが心配する気持ちもわかる。


「わかった。リュザールにお願いしておくね」


「おう、頼むぜ」




 次に工房の織物部屋にいるコペル達のところに行ってみる。繭で期待させちゃったからなー。すねてなければいいけど。


「コペル。なに作っているの?」


 コペルはすねてる様子はなく、ユーリルが作ってあげた機織り機はたおりきの前で、一生懸命次に織る織物の準備をしているようだ。


「タオル」


「え! タオル?」


「うん、ユーリルがどうしてもって言うから」


 今朝、朝ごはんが終わってから、ユーリルと話していたのはこの件だったのかな。


「作れるの?」


「うん、大体わかった」


 タオルは作ってほしかったけど、どうやって作るか分からなかったからお願いしなかったんだよね。ユーリルは呉服屋さんの関係で作り方知っていたのかな……


「私の分もお願いできるかな」


「大丈夫だよ。みんなの分作るつもり」


 まさかタオルが手に入るとは思っていなかった、もしお手軽な価格で手に入るならみんな欲しがると思う。どれくらいの手間で出来るか、後からコペルに聞いておこう。……うーんこれは本当に人手が足りなくなるな。タオルを作るのなら機織り機があと何台か欲しいし、そうなるとこの部屋では狭くなってしまう。やっぱりこの工房の拡張も必要になるか。



 工房のもう一つの部屋で荷馬車を作っているユーリル達に声をかける。


「お疲れ様、ユーリル。コペルに聞いたよ、タオルを頼んだんだって?」


「そうなんだ。綿生地ができて、手ぬぐいみたいなのは作ってもらえているじゃない。羊毛の時よりは便利になっているんだけど、やっぱり吸水性ではタオルにかなわないからさ。こちらでも作れそうなタオルの種類を調べて、コペルに頼んでみたんだ」


「タオルってそんなに種類あるの?」


「地球で使うような機械織のものは無理だと思うんだけど、手織りのものなら機織り機で作れると思ってね調べていたんだ、そしたらちょうど店の従業員の人にタオル工場見学に行った人がいてさ、聞いたら教えてくれた。コペルにそれを言ったら、理解してくれて作ってみるって。本当にコペルってすごいね」


 うん、そう思う。コペルがいなかったら、カインの人たちに綿花の栽培をお願いした時も、うまく伝わらなかったかもしれないからね。

 そうあの時は、コペルが作った綿めんのガーゼみたいなものを、みんな配って説明できたから、綿わたの有効性を確認できたんだと思う。

 おかげで今年は、カイン村でたくさんの綿花を栽培することができているから、秋の収穫の時が楽しみなんだ。


「それで、荷馬車の方はどんな感じになっているの」


「それなんだけどさ。糸車もだいぶん作って、ほかの町でも作られてくるようになったでしょ。だから、それを作るのをやめて、荷馬車の方に力を入れようと思っているんだよね。セムトさんたちの仲間の行商人からの注文も、全く処理できてないしさ」


 この一年で、糸車は結構たくさんの町や村に売ることができたと思う。まだ行き渡ってはないと思うけど、ほかの町で作ってくれる人たちがいるのなら、その人たちに任せてもいい。


「それはいいけど、やっぱり人手は必要だよね」


「うん、まだまだ居てもいいとも思う」


「コペルの織物の方も人が必要そうなんだよね。部屋も広げないといけないようだし」


「人を増やすなら住む場所も必要だよ。今の部屋では全然足りないから。それでね、その住むところなんだけどね、食事も出してあげたら喜ぶんと思うんだ。だから寮みたいなものを作ってあげたらいいと思う」


 鍛冶工房の人手の方は、ファームさんが手配してくれるみたいだけど、そんなにたくさんは紹介してもらえないだろう。こちらでも手配する必要があると思っている。

 工房の方の職人も増やす必要があるから、セムトおじさんとリュザールに頼んで、他の町で働き口を探している人に声をかけてもらって、一人でも多くの人に来てもらえるようにしないといけない。


 そのためにはユーリルの言った通り、食事を提供するとか、衣服の心配はいらないとか、安心して働けるようにしてあげたら喜んで来てくれるようになるかな。


 そこへ、薬草畑から戻ったリュザールとテムスがやってきた。


「リュザール。いいところに来た。お願いがあるのだけど」


「何? ボクにできること」


「うん。パルフィが自分の身を守りたいから技を教えてって」


「あーなるほど、職人さんが来るんだ。そうだね、ボクたちがいつも見ていることはできないからね」


「ねえねえ、リュザール兄ちゃん。僕も習いたい。ユーリル兄ちゃんみたいになりたい」


 テムスには私が修行の時に付き合っては貰っていたけど、リュザールから正式には習ってはいない。でも基本はできているから習得は早いかもしれないな。しかし、ユーリルみたいにって、戦っているところ見てないはずだけど、夜、部屋で見せたりしているのかな。


「いいよ、教えてあげるね。でも、ボクがいないときはソルとユーリルに教わってね」


 私たちもまだまだだけど、武研では風花の代わりに下級生に教えることもあるから、何とか指導はできると思う。




 さてと、最後は父さんのところだ。


 診察室に行き、ジュト兄と一緒に薬の仕分けをしていた父さんに、工房の増設と寮の建設について聞いてみることにした。これ以上人が増えたら、使っている井戸で大丈夫なのか不安だったから。


「そうか。確かにソルが言うように今の井戸ではまかなえないだろうね。ただ、井戸は勝手には掘れないし、村人が増えるとなると心配する人もいるはずだから、みんなに話しておこう」


 村人が増えるときには、村の人との会合の時に話して、了解をもらうことにしている。もちろん、アラルクとパルフィの時もそうしてきた。


 今回も手順を踏んで、村でみんなを受け入れようと父さんは言ってくれているのだ。本当にありがとう、父さん。


 診察室を出て、工房へと向かっていると声を掛けられた。


「あのすみません。こちらにソルさんというお方はおられますか?」

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