第4章
第54話 約束を果たしに
今回の父さんのコルカ行きの診察には私とユーリル、それにパルフィも同行することになっている。
パルフィがカインに来てそろそろ1年。そう、ユーリルがパルフィの親父さんに認められるかどうか、その期限がとうとう来てしまったのだ。
みんなで二人を監視……見守っていくことができ、問題が起こることなくこの日を迎えられて本当によかった。
「なあ、リュザールぅー。本当に勝てるの?」
今回のコルカ行きもセムトおじさんの隊商と一緒に行くので、当然リュザールも同行することになる。
「今の段階で教えられることは教えたから、あとはどれだけパルフィのことを思っているかを伝えきれるかじゃないの?」
「そんなぁー。ファームさんが思いだけで通じる相手じゃないって、リュザールも知っているでしょう。嘘でもいいから大丈夫だって言ってくれよー」
「口先だけで言っても意味がないでしょ、自分を信じてやるしかないよ」
以前荷馬車のお披露目を兼ねてコルカに行ったときに、無視するわけにもいかないからと、ファームさんのところにも挨拶に行ったみたい。
その時は、リュザールとおじさんにも付いてきてもらったらしいけど、「てめえ、パルフィに手を出してねえだろうな!」「万一の時は本当にわかってんのか!」とおじさんたちのとりなしがあったにもかかわらず、散々脅されて帰ってきたらしい。
翌日、竹下と会った時なんて「握りつぶされるかと思った」とあそこを押さえているところを見たときは、樹も身が縮こまる思いをしたものだ。
それ以来、ただでさえ勝てそうにないと思っているところに、さらに苦手意識を植え付けられたみたいで、少しでも自信が欲しいのだと思う。
「心配すんなユーリル。このあたいが全く勝てなくなってんだ。親父にも負けるはずはないって」
パルフィは、暇を見つけてはユーリルのために、ファームさんの代わりになって組手の相手を引き受けてくれていた。
『あたいは子供のころから親父の喧嘩を見てきたからな、親父の真似くらい簡単だぜ』
コルカから脅されて帰ってきたユーリルに、パルフィがそう言ってくれた時、いくら同じように真似できたとしても、あの腕の太さを知っている身としてはどうだろうと思ってしまった。ただ、藁をもつかむ思いのユーリルは、少しでもファームさん攻略に役立てようと組手をお願いしていたのだ。
実際私も立ち合ってみて、パルフィはさすがにあの親父さんの娘なのは間違いないほど、腕が立つことがわかった。最初の頃はユーリルも私も子ども扱いされてたしね。
そのパルフィに勝てるようになったのは、リュザールから技の見極め方を習得できた最近になってからだ。それから私もユーリルも負けることはなくなったので、リュザールの技は本当にすごいと思う。
今回のコルカまでの日数は前回と変わらない7日間の予定だ。おじさんの隊商には荷馬車もあるけど、まだ全員分あるわけではないから歩きの隊員も多い、そのため移動にかかる時間は変わっていない。
初日のバーシの村ではバズランさんの家には泊まらず、いつものように隊商と一緒の隊商宿に泊まることになっている。
おじさんの隊商では、最近ではリュザールが料理当番をやっているということだったけど、今回の旅の間は私とパルフィも手伝うことにしたので、2人づつの交代制にすることにした。
今日は私とリュザールが当番だったので、かまどで夕食の準備を行う。
「リュザール、塩とって」
パルフィの工房ができて、荷馬車も数台作ることができた。まだまだ少ないけど、それでも以前よりは運べる物の量が増えてきて、塩などの必需品も手に入れやすくなっている。
だから、味も(健康のために)少しだけ濃いめにできるようになったので、隊商のみんなの食欲も旺盛になっているらしい。だから量も気持ち多めに作るつもりだ。
「こちらでプロフが作れるようになったら、ソルまた作り方教えてね」
風花とは、地球で一緒にプロフを作ったことがある。そのあと家でも作ってみたらしいけど、家族にも評判だったと喜んでいたから、こちらでも隊商の人たちのために作ってみたいんだと思う。
「それはいいけど、こちらではまだ米が手に入らないよね」
「うん、このあたりでは収穫できるまであと一か月はかかると思う。でもカルトゥの辺りではそろそろできるらしいから、今度仕入れられないかと思っているんだ」
荷馬車が使えるようになって、少しだけど穀物類の
「リュザール。背が高くなったよね」
隣で棚から器を取っている姿を見ながら思う。そういえばもう少しでリュザールと会って1年になるんだ。最初の頃は少し高かったくらいだったけど、もう少ししたら見上げないといけないかもしれない。
「そお? 樹だって背が高くなっているよ。風花も毎日会ってうわぁって思っているから」
確かに樹もここ一年で10センチくらいは背が伸びている。私も風花も背が伸びているけど、やっぱり身長では男の子にはかなわない。
身体の成長に心が付いて来ているかわからないけど、いつまでもそのままにしておけないことがあることもわかっている。
「もう決めなくちゃいけないよね……」
「ん、何か言った?」
「ううん、独り言」
今回の隊商には父さん、私、ユーリル、パルフィも加わり合計15人の大所帯だけど、夕食も2人で作ったらあっという間だった。
「いつもすまんねリュザール。それにソルもありがとう。それではみんないただこう」
「「「いただきます!」」」
7日目とうとうコルカに到着だ。ユーリルは、昨日あたりから少し口数が少なくなってきているし、緊張しているのだろう。
ただ、ユーリルがパルフィの親父さんのところに行くのはしばらく後になる。というのも、コルトがバーシの隊商に行っているので、父さんの診療の受付をする人間がいなくなっているのだ。
私はジュト兄の代わりなので、父さんの手伝いをしないといけないし、リュザールは隊商の仕事で忙しい。結果、残った人間の中で文字が書けるユーリルが、その役目を担うことになる。
パルフィはまだ字が書けないし、診療の間は実家に里帰りすることになっているので、しばらくはお別れだ。
「ちょっとわかんねえところがあるからな、じいちゃんと親父に聞かなくちゃなんねえんだ」
ということらしいので、里帰りの間も修行しちゃうんじゃないかな。
コルカ到着後、私たちは隊商宿に隊商は市場に向かうことになるが、パルフィは宿まで行かずに直接工房に行くということなので、リュザールが送っていくことになった。
「そうじゃあ先に行ってるからな。待ってるぜ旦那様」
そう言ってパルフィは実家の鍛冶工房へ向かったが、ユーリルに火を点けるには十分すぎる言葉だった。
その日の午後から始まった診療。初めての仕事にもかかわらず、ユーリルはどんどんと仕事をこなしていく。
「おばあさんこちらへどうぞ。腰が痛いんですか? 慌てないでゆっくりでいいので……すぐにタリュフさんが見てくれますから、ここで待っていてくださいね」
もともと気持ちの浮き沈みが大きいとは思っていたけど、調子がいいときのユーリルほど頼りになるものはいない。
翌日の診察でもユーリルは患者さんの様子を見て、必要な言葉をかけてあげているので、待ってもらっている人たちも安心しているようだ。
昼過ぎにパルフィのおじいさんがやってきた。
「おじいさん、調子はいかがですか?」
「やあ、ソルさん。今回は薬を切らしてないのでいい調子ですよ」
「それはよかったです。それでパルフィは?」
「あの子はいい顔になって帰ってきた。きっと毎日が充実しているのだろう。自分の工房のために息子たちの技を盗もうと、必死で仕事を手伝っておる」
おじいさんは顔を近づけ、私だけに聞こえる声で聞いてきた。
「それでユーリル君は大丈夫だろうか? 前見た時よりは体つきも大きくなっているようだが、ファームに勝てるかね。パルフィは彼のことを楽しそうに話しているから、一緒にさせてあげたいのだがね」
「大丈夫ですおじいさん。見ての通りりユーリルは頼りになりますから。ファームさんも認めてくれるはずです!」
おじいさんにはそう言ったけど、私も心配なんだよね、ユーリルは気合入っているようだし、水差さないように気を付けておかなくちゃ。
その日の夜、この宿での恒例の、クトゥさんたちの食事も作ってあげているときに、ユーリルがやってきた。
「なあ、パルフィのおじいさんなんて言っていたの? こっそりと話していたみたいだけど」
「パルフィ頑張っているって、おじいさんはユーリルに期待しているって言っていたよ」
「ありがとう。僕も頑張らなきゃね」
それから3日間、忙しかった診察も終わり、ついにその日がやってきた。
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