第53話 武研活動記録2

 武術研究会(武研)の活動日は、教頭先生と由紀ちゃんの都合もあるので、毎週月水金の夕方5時までと決められている。


 年が明けて間もなく、何とその武研に2人の1年生が入ってくれた。由紀ちゃんが副担任をしているクラスの生徒で、男の子と女の子の双子の姉弟。

 男の子の方が中山海渡かいと君、女の子の方がなぎちゃん。二卵性双生児なので顔はそこまで似てないけど、性格はよく似ている。2人ともなかなかにアグレッシブなのだ。


 あれは入会初日、自分たちの実力を知ってもらうために、僕たちと同じように掴む立ち合いをしてもらったのだけど、


「海渡君、遠慮なく掴みかかってきてごらん」


 僕がこう言った途端、まさか全力で突っ込んでくるとは思ってもいなかった。


「くそ!」


 風花の指導を受けていなかったら、逃げることもできなかっただろう。それにしても海渡は口は悪いな。


「海渡! 口が汚い」


 そういって凪ちゃんは、道場の上で僕を睨み付けている海渡に近寄って頭を叩いた。


「姉ちゃん痛い」


「ごめんなさい樹先輩。よく言って聞かせますので」


 うーん、それにしても睨み付けられるとか、何か恨まれるようなことしたのかな。


 こっちは風花から一応三か月以上指導受けているんだから、避けることくらいなんてわけない。


 そう、しばらくの間は相手を掴む訓練ばかりさせられていたけど、ある日、それこそコツがわかって誰にも掴まれなくなったのだ。それは竹下も同じで、攻め手は勝つことができなくなってしまった。風花以外はね。

 由紀ちゃんは僕たちの上達の速さに目を見張っていたけど、実際は地球とテラの両方で訓練したので、できて当たり前。まあ、それは言えないんだけど。


 今は相手を無力化する技を教えてもらっているんだけど、それもなかなか大変なのだ。ユーリルが急ぎでなかったら、数年かけて覚えるようなものらしい。


 凪ちゃんのほうは風花が相手をした。


「風花先輩行きますよ!」


 もちろん結果の方は風花に触れることさえできない。最初の僕と同じだ。そこにいるのになぜ触れないのか、不思議に思っているようだ。


「お前たちわかったか、レベル差があるとこうなるんだ。最初の頃は樹たちもお前たちと一緒だったが、今ではある程度できるようになっている。鍛錬あるのみだから頑張るんだぞ」


 由紀ちゃんは相変わらず時間があるときは来てくれている。風花には全くかなわないけど、最初の頃のように子ども扱いみたいにはなってないので、上達していると思う。



 その後の1か月の間、2人は武研があるときは1日も欠かさず参加してくれている。

 最初の頃、なぜか威嚇してきた海渡も、何度か手合わせをしていくうちに逆に懐かれてしまった。どうしてこうなったかわからない。

 竹下は「誤解が解けたんでしょ」っていうけど、何を誤解させていたのかは教えてくれなかった。


「樹先輩。今度相手の攻撃を見極めるコツを教えてください!」


 いや、それは自分も今風花から教わっている段階だから。こっちが教えてほしいくらいだから。まあ、下級生に慕われるのは悪い気がしないけどね。



「なあ、樹。本当に間に合うと思う?」


 これまでの鍛錬で、相手の攻撃を躱すことはできるようになっているけど、倒す方法は教わってない。

 風花の流派は、相手の力を利用してその力で相手を無力化するので、相手の攻撃を見極め力の流れを読まないと倒すことができない。

 ファームさん相手に攻撃を躱すだけでは、おそらくパルフィにふさわしい人とは認められないだろう。


「風花が間に合うって言ってくれているんだから、信じてやっていくしかないよ」


「そうなんだけどさぁ、なにかあと少しで出来そうな証っていうのかな、そういうのが欲しいじゃん」


 確かに今二人でやっているのは、ソフトボールを使っての至近距離でのキャッチボール。

 キャッチボールとは言っても、グラブは使わず振りかぶっての投球もしない。ただ、相手の手の届く範囲に、上からでも下からでもいいのでボールを投げること。キャッチする側は片手でも両手でもいいので、それを受け止めることただそれだけだ。もう半月くらいひたすらこれだけを続けている。

 テラでもソフトボールが無いので玉ねぎを使ってやっている。


「風花に聞いても、『私も玉ねぎで覚えたの』って言うから続けるしかないんじゃないの」


「これのゴールってさ」


「まったく落とさなくなること」


「風花って何気にスパルタだよな」


「うん、妥協を許してくれない感じ」


「お前も苦労しそうだよな……」


「…………。と、ところでさ、海渡たちずっと1か月間掴む訓練やっているけど、飽きないのかな」


 海渡と凪の2人は戸部先生の指導の元、掴む訓練を、風花は久しぶりに来た教頭先生と組み手をやっている。


「あー海渡は戸部先生に任せておけばいいし、凪は風花がいるから大丈夫だよ」


 あー、なんとなくわかってきた。僕が海渡に睨まれたのもこのあたりの理由か。



「おのれー風花、年寄りに花を持たそうという心は無いのか」


 教頭先生まったく勝てないからって、そんなこと言っても風花には効かないよ。


「教頭先生はお強いので手加減ができないのです」


 おー、風花も大人の対応だ。


「むむ、それならば仕方がないの。次は負けんからの」


 教頭先生がちょろすぎる。



「竹下ー。そろそろ時間だから締めろ!」


 由紀ちゃんの号令のもと、みんな集まる。


「今週もみんなケガ無く活動できました。来週、先生たちも大丈夫なようなので、予定通り行います。来週もみんなで楽しくやっていきましょう。それでは今日もありがとうございました! 押忍!!」


「「「ありがとうございました! 押忍!!」」」


 挨拶の最後に押忍を言うようにしたのも由紀ちゃんの趣味。さあ、来週も頑張ろう。


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あとがきです。

「中山海渡です」

「中山凪です」

「「皆さんいつもお読みいただきありがとうございます」」


「姉ちゃん、俺たちがここに出ていいの?」

「風花先輩から頼まれたんだからきちんとやるわよ」

「ほんとに姉ちゃんは風花先輩のこと好きだよね」

「だって、あんなに可愛くて優しくて強いんだよ。それになんだか男らしいときもあってギャップに萌えるんだよね」

「確かに他のクラスの女子もそう言ってた」

「でしょう。それよりも海渡はもう樹先輩のこと嫌って無いでしょ」

「あ、あれは誤解で、戸部先生のこと名前呼びするからてっきり……」

「そうね、樹先輩には風花先輩がいるからね。戸部先生とはただの幼馴染みたいだし」

「姉ちゃんは風花先輩がとられるの大丈夫なの?」

「私は風花先輩が幸せになってくれたらそれで幸せ……でも、樹先輩も謎よね」

「そお? 格好いいと思うけど」

「格好いいとは思うけど、女の子に対する優しさが他の男子とは違うのよね、なんだか身をもって体験しているような感じがするんだけど……」

「身をもってって何を?」

「わかんなかったらいいわよ。それより締めの時間よ」


「「皆さん『おはようから始まる国づくり』第三章はこの話で終了です」

「次回から第四章が始まります」

「「これからもよろしくお願いします」」

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