第52話 仲間たちと一緒に

 地球での綿花の収穫イベントが済んでから半月後、ようやくテラでも綿わたが収穫できるようになった。


「ソル姉すごいね! 本当にもこもこしたものが出てきているよ」


 弾けた綿はコットンボールというらしく、その中には大体15~20個種が入っているようだ。


「うん、テムス。中に種が入っているから、落とさないように気を付けてね」


 収穫には他にユーリル、ユティ姉、コペル、それにリュザールも手伝ってくれた。

 リュザールは先日の紗知さんたちの収穫イベントに参加して、収穫の注意事項も聞いているので、みんなに教えながらやってくれている。


 その療養中だったリュザールは、あれから熱を出していない。無理な食事と、若くして隊商を率いることになった重圧で体を壊していたようなので、それがなくなった今は、元の健康な体に戻りつつあるのだろう。


「この綿、いい生地ができると思う」


 収穫した綿を私に見せ、嬉しそうにコペルが話してくれた。コペルが言うのだから間違いない。ただ、今回のは試験栽培だったから、たくさんは作ることはできないのが残念だけどね。


 綿花は一度にすべての綿が収穫できるわけではないので、これからしばらくは作業が続くことになる。

 そこで集めた種は村のみんなに綿めんの生地の披露とともに配って、来年から本格的に作ってもらおうと思っている。



 それからさらに半月が過ぎ、療養期間も済んですっかり体調も良くなったリュザールは、セムトおじさんの隊商に合流することになった。

 新しく作った荷馬車にたくさんの糸車を積んで、行き先はもちろんコルカだ。今回は、荷馬車の初披露ということで、万一に備えてユーリルも同行することになっている。


「それではソル。リュザールとユーリルを借りていくよ」


「おじさんも気を付けて。ふたりも無理しないで、食事も気を付けてね」


「これからはボクが作るから大丈夫だよ」


 リュザールには、地球での収穫イベントの後から料理を教えている。地球でも水樹さんから教えてもらっているらしく、その水樹さんから今度いつきを招待しなさいって言われているらしい。

 テラではリュザールの料理は食べたことあるけど、風花の料理はまだだ、どんな料理を食べさせてくれるか今から楽しみにしている。



 リュザールとユーリルとはしばらく離れ離れになるけど、風花と竹下には地球で毎日会うことになるから、何かあったら教えてもらえることになっている。事件なら起こらない方がいいけど、トマトが売っていたとかそういうこともあるかもしれないから、翌日会うのが楽しみなのだ。



 隊商の出発を村の広場で見送り、テムスと一緒に工房まで歩く。


「姉ちゃん。今日もやるんでしょう。負けないからね!」


 武研での出来事の後、危機感を感じた私は、こちらでテムスも巻き込んでの修行を続けていた。リュザールたちがいる間は4人で時間を見つけては、相手を掴む訓練をしていたのだけど、いまだに私が勝てるのはテムスだけで、それも勝ったり負けたりといい勝負を繰り広げている。


「夕方からね。ふふふ、そう簡単には掴ませないよ」


 8歳のテムスと同じレベルとは、さすがに自分が情けない。でも、最初の頃よりはわかるようになってきているので、そろそろユーリルには勝てそうな気がしている。ボウリングのご夫婦じゃないけど、諦めなければなんとかなるはずだ。



 ユティ姉とテムスに畑をお願いし、私は糸車を作っている工房の中に入らず、そのままパルフィの鍛冶工房の建設現場へと向かう。


 荷馬車の製作は1台目が出来上がったところで、必要な部品が揃わないためストップしており、その部品を作るための鍛冶工房の建設を急く必要があった。鍛冶職人のパルフィをそのままにしておくわけにもいかないしね。

 現場にはアラルクとパルフィが作業をしており、私もその中に加わることにする。


「お帰りー。2人の見送りは済んだかい」


「うん、さっき。遅くなってごめんね」


「いいって、それよりもユーリルの奴すごいな。さすがあたいが見込んだことはある」


 工房の中に炉を作るのに、カインの気候だと窯の温度上げるのに苦労しそうだというパルフィのため、ユーリル(=竹下)は一生懸命調べて構造を考えてくれたのだ。

 燃料も木材や木炭だけでなく、将来石炭が見つかったらそれを使えるようになっている。炉もいくつか作る予定で、それぞれで温度が違う材料も作ることができるから、効率も上がるってパルフィも喜んでいた。


 鍛冶工房ができたら、荷馬車の部品だけでなく貨幣の製造も始めなければならない。偽造防止の技術についてパルフィに尋ねたら、やはり日本の硬貨のような細工は難しく、あらかじめ作っておいた型に流し込んで、冷やし固めた後それに刻印を打つくらいしかできないようだ。

 どうするか相談したけど、ユーリルもリュザールもテラの経済規模があまり大きくないから、銅貨だけしかなくてもそれほど困らないだろうって言ってくれたので、ひとまずはこのまま進めることになった。


 その銅に関しては、糸車の代金の半分は銅でもらうことになっていて、さらにおじさんたちから預かっている物もあるから、すでにある程度在庫は貯まってきている。

 それに今回から荷馬車での交易が始まるから、もっとたくさん集まってくるだろう。


「アラルク疲れてない? 無理せずに休んでよ」


 アラルクは出来上がった日干し煉瓦を運んでくれているが、一度に持ち運べる量がすごい。前から思っていたけど、力に関しては本当に一二いちにを争えるくらいありそうだ。

 それに時間があるときはジュト兄が手伝ってくれるって言うから、これならユーリルたちが帰って来るまでに、ある程度の形は出来上がるかもしれない。


「これくらい何でもないからね。ユーリルたちが帰ってきた時に驚かせてやろうよ」


 アラルクもカイン村に来た当初は何か余所余所しかったけど、最近ではコルカの頃と変わらないようになってきたから、あの時は新しい場所で緊張していたのかなって思っている。



 これまでの所、みんなの協力もあって順調だと思う。テラの生活をよくしたいという私の気持ちに応えて手伝ってくれる仲間がいる。

 今やっていることが正しいのかわからないけど、信じて進むしかないよね。これからもみんなの喜んでくれる顔を見るために頑張っていこう。

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