第42話 パルフィの親父さん

「わかった。今はひょろっちいからだめだけど、親父、1年後あたいはこいつと結婚する! これでいいだろう」


 正直何が何だか……

 パルフィに腕を掴まれたままのユーリルも停止中だ。だから対処方法を考えといたほうがいいと言っていたのに……。でもまあ、こんなの想像できないから無理だけどね。


「それでおめえ、こいつが1年後、俺に勝てるとでも思ってんのかい」


 ん、勝てる?


「ああ、1年もあれば大丈夫だ。あたいが仕込んで親父を叩きのめしてやるからよ」


 叩きのめす!


「親父もパルフィも熱くならないで。ソルさんたちも困っているよ。まずはお茶にしよう」


 そう言ってくれたのは、パルフィよりも年上に見えるから、跡継ぎのお兄さんなのかな。



 私たちは、工房奥の居間に通されてお茶をいただくことになった。


「おじいさんその後の調子はどうですか」


 さっきから気にはなっていたけど、聞くに聞ける状態ではなかったから、一息ついたこのタイミングで尋ねてみることにした。


「ソルさんこっちの方はいい感じなんですが、あちらが……」


 おじいさんは病気の方は問題ないけど、パルフィたちの方が困っているといった感じだ。おじいさんの説得も功を奏しなかったのかもしれない。


 これは事情を聴いてみるしかないかな。




 …………うーん、やはり親父さんはパルフィに鍛冶屋を続けさせるのは反対で、すぐにでも嫁に出したいみたい。ただ、あまりにもパルフィが言うのと、おじいさんが進めるので仕方がなく1年という期限で許してくれたそうだ。

 ただ、パルフィは1年で帰って来る気なんてないから、結婚したらいいんだろうとなって、親父さんは親父さんで、誰でもいいとなったら、どこの馬の骨を連れてくるかわからないから、俺に勝てるやつを見つけてきたら許してやるということになっているらしい。まさに売り言葉に買い言葉ってやつかな。


 だからと言って、そこにいたユーリルをその相手に決めてしまってよかったのだろうか。そうパルフィに聞いてみると。


「あたいだって誰でもいいってわけじゃないぜ。一目見てこいつなら大事にしてくれそうって思ったからよ。だろうユーリル」


「はい、任せてください! 大事にします」


 一目見てって……まあ、当人同士がいいのなら私に何も言う資格はないけど、ユーリルがいくら頑張ったって、1年後にあのファームさんに勝てるようになるとは思えない。


「そんな感じでソルさん。1年の間、こいつをお願いします。その間、くれぐれも間違いがないように頼みます」


「だから、このユーリルを親父に勝てるようにするって言ってんだろう」


「おめえは黙ってろ! 俺はソルさんと話してるんだ」


「あの、ファームさん、ユーリルがお眼鏡にかなうかどうかわかりませんが、ユーリルは優秀で工房になくてはならない存在です。私がいなくても安心して工房のことを任せることができます。そのユーリルが間違いを起こすとは思いませんが、私と家族、工房のみんなで2人を見守っていくので安心していてください」


「……そうですかい、わかりました。ソルさんを信じます。パルフィのことよろしくお願いします」


 信じられた以上はそれにこたえないといけない。みんなで2人を監視……いや見守っていこう。


「ところでソルさん。コルカはいつ立たれますか」


 そう聞いてきたのは、さっきお茶を進めてくれた人で、バランさん。やはりパルフィのお兄さんだった。


「何も問題が無ければ、出発は明後日になると思います」


「わかりました。その日に間に合うように準備させときますので、パルフィのことよろしくお願いします」





 隊商宿までの帰り道、ニコニコしているユーリルに聞いてみた。


「ねえ、一年あったらファームさんに勝てると思う?」


「いや、無理だね」


 無理だねって……


「どうすんの?」


「とにかく1年で鍛え上げるしかないと思う。それとリュザールに期待している」


「護身術ね。それで勝てるようになるのかな」


「わからないけど、諦めたら、もう一生パルフィさんとは一緒になれそうにないから」


 それもそうか、あの親父さんが適当なことして許してくれるとは思えない。


 最後にもう1つ。


「今日のは想定内?」


「想定内と言いたいけど、さすがに予想してなかった。でも、何とかなったでしょ」


 何とかなったというより、流されてしまったという方が正しいような気がするけど、まあ問題ないか。





 宿に戻ると、ユティ姉から料理の手伝いを頼まれた。


「なぜかクトゥさんに食事を作るのを頼まれてしまって、ソルも手伝って」


 あー、そういうことね。相変わらず食事には苦労しているのだろう。


 その夜、いつものようにアラルク達と食事をしているときに聞いてみた。


「マルトゥさん。北の干ばつはどうなっていました」


「まだ、水は戻って来てなかった。もうこうなると戻らないって思っていた方がいいかもしれない」


 昔映画でオアシスが枯れて滅んでしまった国の話を見たことがある。そこでは一度失ってしまった水は戻ってこなかったようだ。

 やはり避難民の人たちが帰る場所は、すでに無いのかもしれない。


「他に水が枯れてるところはありませんでしたか?」


 ジュト兄はこれ以上避難民が増えるかどうか心配なんだろう。


「ここに来る隊商にも聞いてみたことがあるけど、他のところは大丈夫なようだったよ」


 しばらくの間は安心? なのかな。でも準備できることがあったらやっておいた方がいいのかもしれない。



 二日後、予定通りコルカの町を出発することになった。


 アラルクを連れ隊商宿を立ち、パルフィの工房まで向かう。


 工房の前では準備を終えたパルフィと親父さんたちが話をしていた。


「親父、本当にいいのか」


「いいから持っていきな。ソルさんたちにご迷惑かけるんじゃねえぞ」


「ありがとう。大好きだぜ親父」


 親子で別れを惜しんでいるところに悪いけど


「パルフィ。迎えに来たよ」


「おう、待ってたぜ。こっちの準備は大丈夫だ」


 パルフィの荷物を馬に括り付け、出発の準備をする……

 なんか手間取ると思ったら、いつも手伝ってくれるユーリルがいないんだ。


 どこだ?


 いた! パルフィの親父さんとお兄さんに囲まれて縮こまっている……

 ま、まあ、あいつなら何とかするだろう。さて、準備準備!


「パルフィ、さっきファームさんとなに話していたの?」


「あれか、親父たちが新しい金床かなとこふいごをくれたんだ。向こうで作るつもりだったから助かったぜ」


「よかったじゃない」


 パルフィの親父さんたちも、ああは言ってるけどパルフィのことを応援しているんだろうな。


 っと、こっちの準備は終わった……。

 ユーリルの方も……解放されたようだ。なら大丈夫か。


「お待たせ……」


 何んだかやつれている……


「大丈夫だった?」


「う、うん……後で話すよ」


 返す言葉も弱々しい。いったい何を言われたのか気になる。あとで聞かせてもらおう。


「パルフィ、忘れ物無い?」


「おう、いつでも行けるぜ」


「それでは出発します。ファームさん、バランさんありがとうございました」


「パルフィのこと頼みましたぜ」「パルフィをよろしくね」




 行きと違って帰りは4頭の馬に6人。さらに2人分の引っ越し荷物もあるので、馬の上には載せられるだけの荷物が積んである。当然人間は歩きだ。


「パルフィ、カインまでは歩きになるけど大丈夫」


「おう、歩くのは苦手だけど。頑張るぜ!」


 普段は座っての作業が多いはずだから、無理をさせないようにしないと。


 アラルクの方はというと、行きたかったカインに行けるとあって足取りも軽そうだ。こっちの方は大丈夫みたいだね。


 さて、パルフィのことはユーリルに頼もうか。


「ユーリル、パルフィのこと気にかけてあげてよ。歩き慣れてないようだから」


「うん、わかった」


「ところでさっきは何を言われていたの」


 やっぱり気になるので聞いてみることにした。


「……バランさんからはパルフィのことよろしくって、ファームさんからは間違いがあったらちょん切るぞって脅された」


「ちょん……って、うわー、お前本当に気をつけろよ」


 思わず口調が男になってしまった。でも、これは仕方がないと思う。


「わかってるよ」


 本当に分かってんのかな。これは、ユーリルが困ったことにならないように、みんなでしっかりと見守っ……監視していくしかないな。


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「ソルです」

「ユーリルです」

「「皆さんいつもご覧いただきありがとうございます」」


「なんか思った以上に元気そうでびっくりしているんだけど」

「そう、別に普通だよ」

「……お前本当に大丈夫なの?」

「なにが? って、口調が樹になってるよ」

「パルフィのことしっかりやれるの?」

「や、やれるよ……たぶん」

「たぶんって、危なっかしいなー。やっぱりみんなで監視して、二人っきりにはさせないようにしないと……」

「え、いや、でも……お、お願いします」

「自分でも自信ないじゃん」

「だって、男子中学生だよ。仕方ないじゃんか」

「ほんとちょん切られないように気をつけろよな。それじゃあ締めのあいさつ行くよ」

「「皆さん次回もお楽しみに―」」


「皆さんもユーリルのこと一緒に監視してくださいねー」

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