第41話 パルフィの鍛冶屋で
夕方ごろコルカの町に到着した私たちは、アラルクがいるクトゥさんの隊商宿に向うことにした。
宿の前では、アラルクがいつものように薪を割っている。
「アラルク。遅くなってごめんね」
そういうや否やアラルクは手を止めこちらへ向かってきた。
「ソル。待ってたよ。来てくれてよかったぁ。薪を割っていたらソルが来るかもしてないって思って、ずっと薪割っていたんだよ」
どういうこと?
なんでも薪を割っているときに私が来ることが多いから、ずっと薪を割っていたんだって、なんだこの可愛い生き物は。そういえば、話しながら私の手を握っているアラルクの後ろには、しっぽが見えるような気がする。
あー、前から思っていたけどアラルクって、人懐っこかったり、申し訳なさそうに聞いてくる感じが、なんだか犬っぽいんだよね。それも大型犬の子犬。
「アラルク、俺たちも来てるんだけど」
「あっ、ジュトさんお久しぶりです。それにユーリル君と……」
「ユティです。よろしくね」
「ユティさん。いらっしゃいませ。今日は泊まっていかれるでしょう。まずは荷物を運びますね」
私とユーリルとアラルクで荷物を部屋へと運び、ジュト兄とユティ姉で頑張ってくれた馬を馬小屋まで繋ぎに行く。
「本当に遅くなってごめんね。いろいろとあってカインを出るのが遅くなっちゃって」
部屋までの間、アラルクにもう一度お詫びをすることにした。
「来てくれたから大丈夫だよ。それよりも本当に連れて行ってくれるかが心配」
「それはもちろん。そのために来たんだから。カインのみんなも楽しみにしてるよ」
「よかった。そして、ユーリル君も来てくれたんだね。あの時はずっと不安そうにしてたから気になっていたんだよ」
「アラルクさんあの時はご心配おかけしました。今はソルとも出会えたし、カインの人はみんないい人なので毎日が楽しいです。それとユーリルと呼んでくださいね」
「わかったユーリル。俺のことも呼びすてで構わないよ。工房で働くことになるからカインのことは気になっていたんだ。これからよろしくね」
「はい、ラーレたちも楽しみにしてましたよ」
部屋につき荷物を開けていると、馬小屋からジュト兄とユティ姉もやってきた。
「クトゥさんどこだろう。挨拶したいんだけど……」
ジュト兄がきょろきょろと辺りを見わたしている。そういえば私も見ていない。
「父さんと兄さんは市場で仕入れに行ってます。戻るまでにはもう少しかかるかもしれないです」
パルフィも待っているだろうし、早く着いたことを伝えたいけど、アラルクに頼むのは無理そうだな。
「ねえ、アラルク。パルフィはカインに来れそう?」
「うーん、それは大丈夫みたいだけど、いろいろとあったみたいだよ」
やっぱりお父さんの説得に苦労したのかな。やっぱり気になる。
「私、行ってみたいけど1人じゃだめだよね」
「僕も行くよ」
そうかこいつもいたんだった。というか来ないはずがないな。
「父さんたちが帰って来るまでは俺は出かけられないから、ユーリルお願いできるかな」
「任せてください!」
パルフィの工房まで、いつものように歩いていく。
ユーリルの奴は鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌だ。
「ところで、ユーリル君。君は私の護衛としてついて来てるってわかってるのかね」
「僕が護衛? そんなのできるわけないじゃん。一緒になって逃げるだけだよ」
聞いた私がばかでした。
「でも、もう少し待っててね。今度リュザールにいろいろと教えてもらうことになってるんだ」
はて、リュザールもそんなにガタイがいい方ではなかったし、力も強そうに見えなかった。何を教わるんだろう。
「あー、あいつね。護身術みたいなのを子供の頃育てられたおじいちゃんから教わってたらしくてね。盗賊くらいなら何でもないらしいよ」
人は見かけによらないっていうけど、あのリュザールがねえー。
確かに隊商では盗賊に狙われることもあるから、何らかの護衛手段は持っているって聞いている。
セムトおじさん達はのんびりしているように見えるけど、撃退用の武器はそれぞれが持っているって言っていた。幸い前回の旅の時は見る機会がなかったけど、今まで生きてこられているってことはそれなりの腕前なんだと思う。
ましてや、リュザールは隊商のリーダーだ。盗賊を撃退する方法を持っていても不思議ではない。
「それにしてもパルフィのところのいろいろって何だろうね」
アラルクが言っていた話が気になる。
「さあ、行ってみないことにはわからないから。気にしても仕方がないよ」
それはそうなんだけど、対処方法がわかっていた方がいいんじゃないのかな。
「何が起こるかわからないから、変に構えていたら逆に失敗しちゃうよ」
まあ、ユーリルがいたら何とかしてくれるだろう。って、リュザールから求婚された時は役に立たなかったんだった。こうなれば自分の身は自分で守るしかないな。
市を抜けパルフィの工房の前に来た時、中から通りまで聞こえてくるような大きな声が聞こえてきた。
「お前本当に分かってんのか、一年以内だぞ!」
「親父、何度も言わなくたってわかってるって!」
そっと中の様子をうかがっていたら、パルフィと目が合ってしまった。
「お! ソルじゃん。待ってたぜ。入った入った」
そういうとパルフィは半ば無理やり、私とユーリルを工房の中に連れ込み親父さんに紹介する。
「親父、この子がソル。私の雇い主だ。そしてこっちは……」
「ユーリルです」
「だそうだ。私を迎えに来てくれたから、もう行くからな」
「ぱ、パルフィちょっと待って! すぐには無理だよ。2、3日後に出発する予定だから」
「何でぇ、すぐにでも行けると思ったのによぉ」
「おい、パルフィ。私のことを紹介しろ」
と言ったのはさっきからパルフィが親父と呼んでいる、腕周りが私の太もも以上にあるガタイのいいおじさんだ。
「ソル、あたいの親父だ」
「そんな雑な紹介の仕方があるか! 初めましてソルさん。私はパルフィの父のファームです。この度は娘のパルフィが無理を言ってすみません。ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします」
「初めましてファームさん。パルフィさんはカインの工房に必要です。大事な娘さんを出していただきありがとうございます」
「ところでソルさん1つお願いがあるのですが、パルフィをカインのやるのは1年にしてもらえませんか」
え、なんで?
「だから親父、1年以内に旦那見つけてくればいいんだろう」
その言葉を聞いたユーリルが小さくガッツポーズしている。パルフィの旦那の座は僕の物だとでも思っているんだろうか。それにしてもその自信はいったいどこから来るんだろう。
「おめえが見つけられそうにないから、そう言ってんだろうが」
にらみ合いになっている。止めた方がいいのかな。おじいさんたちも黙っているし少し様子を見よう。
「おい、お前、確かユーリルって言ったな。さっき手を握りこんでいたな。あれは何でだ」
パルフィがユーリルの方を向いて聞いてきた。
「いえ、パルフィさんがお相手を探しているんだ。よかったと思って」
「てーことは、ユーリル、てめえはあたいのお相手候補ってことでいいんだよな」
「はい!」
「わかった。今はひょろっちいからだめだけど、親父、1年後あたいはこいつと結婚する! これでいいだろう」
「ふぁ!」
思いも寄らない方向に話が進んでいる。これっていったいどうなるんだろう……
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