幕間 リュザール2
あれ、ここは。
そうだ、先月引っ越してきたんだ。
それにしてもこれは何だろう。
夢?
生まれてきてからの記憶がある。これが夢なの
優しかったおじいちゃん、おばあちゃん。ボク、一緒にいることができてうれしかったよ。
隊商の
ボク? そうか男だった。
それにしてもソルは可愛かったな。
心配かけてごめんね。すぐによくなるからね。
「あれ、ここは」
辺りを見わたす。
窓の外が明るい。小鳥のさえずりも聞こえるから、日の出からそんなに時間がたっていないみたい。
ベッドがあって、机に本棚……真新しい制服もかかっている。
お姉ちゃんから女の子ぽく無いって言われるけど、ここは紛れもない、引っ越してきたばかりの私の部屋だ。
昨日の夜は確か……絨毯の上で羊毛の布団を敷いて、可愛い女の子に手を繋いでもらって寝たはず。
「夢にしては……きっと夢じゃない」
こんな詳細な記憶が夢だとは思えない。
でもどうして…………
「うーん、わかんない」
そういえば近くに川があったはずだ。
時計は……6時すぎ。
時間にも余裕があるし気晴らしに行ってみよう。
家から10分ほどのところにある川へと向かう。
「東京だと朝早くても結構人がいるけど、ここは少ないのね」
先月引っ越してきたばかりのマンションから、ビジネス街を抜けて川に向かっているんだけど、今の時間帯は人通りもまばらだ。
会社と住居が近いから、朝の始動の時間帯も遅いのかもしれない。
川の周りに着くと幾人かの散歩している人たちも見える。
「おはようお嬢ちゃん」
「あ、おはようございます」
川沿いの遊歩道を歩いていると、おばあちゃんが声をかけてくれた。
「あまり見ない顔だけど、この辺の子かい」
「先月引っ越してきました。初めて来ましたけど、ここはいいところですね」
遊歩道のところどころには休むための椅子もあり、なにより川のせせらぎが心地いい。
「おお、そうかい。よく来たね。ここは夜も綺麗だから誰かと一緒に見に来るといいよ」
そういいおばあさんはその場を後にした。
そうか、夜も綺麗なんだ。いつか来てみたいな。
遊歩道沿いの東屋の中にある椅子に腰かける。
それにしても暑いな。9月に入ったのにこの暑さだ。
ハンカチで汗を拭きながら昨日のことを考えてみる……
ボクの名前はリュザール。本当の親がわからないからはっきりとはしないけど、今年14歳になるみたい。バーシ村に住んでいて、優しいおじいちゃんとおばあちゃんに育てられた。
おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなった後は、隊商の頭に引き取られ行商の勉強をすることになった。
その頭も亡くなった後は隊商を引き継ぐことになり、行商で生計を立てている。
今度はセムトさんの隊商と協力して、同じように子供で工房を始めたソルという女の子が作った糸車を売ることになっている。
どんな子だろうと思っていたソルと、ようやく会えるはずだったコルカではとうとう会うことができなかった。
諦めていたらマルトで偶然会うことができて、会った瞬間、ボクはソルをお嫁さんにするって決めた。
すぐにはソルをお嫁さんにはできないみたいだけど、嫌われては無いみたいで嬉しくなっていろいろと話していたら、熱を出してしまった。ソルに心配をかけちゃった。
こんな詳細な記憶が夢であるはずがない!
もちろん古い昔の記憶は曖昧だけど、最近のはしっかりと覚えている。
それに、何より女の私が男の状況を知っている。こんなの保健体育でも習ってない、ましてやそんな経験もない。いくらVRとか発達しているからと言って、見たこともないのにそれがわかるというのはおかしすぎる。
これはきっと違う世界のリュザールという少年の実体験の記憶だ。どうして私がそれを知ることができたのかはわからないけど……
「わからないものはしょうがないか」
そろそろ帰らないと始業式に遅れてしまうかもしれない。今日は転校初日だから遅れるわけにはいかない。
そう思い立ち上がると後ろから声をかけられた。
「あのー、ハンカチ落とされましたよ」
振り向いた先にいた少年。何か懐かしいようなどこかで会ったような感じがして思わず口にしてしまう。
「ソル?」
「え……」
あれ、私何言っているの。この少年がソルのはずないのに。
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしていて。私のハンカチです。ありがとうございます」
「え、あ、暑いので気を付けてくださいね」
うー、失敗した。変な子って思われなかったかな。
でも何か気になる子だったな。また会えるかな。
新しく通う学校までは徒歩で20分かかるようだ。夏休み中に一度歩いているから間違いないだろう。
担任の先生に紹介され、みんなに挨拶する。
「初めまして立花
目が覚め、周りを見渡すとそこは隊商宿の大部屋だった。
頭に手を当てると……熱は下がったかな。これでソルを安心させられる。
しかし、どういうことだろう。
ボクがリュザールなのは間違いない。
でも、なぜ立花風花としての記憶もあるんだ。
それも昨日風花が感じたように、いきなり風花の記憶があるって感じで、何も知らないボクが、女性の体を知っているっていうのがおかしいのも昨日と一緒だ。
「リュザールの記憶を追体験してるのではなかったのかな」
思わずつぶやいてしまった。周りも見ても誰も起きてないようだ。あ、ソルとユティさんはいないから、食事の準備に行っているのかな。
少し考えてみる。
双方向型追体験? やっぱり夢? きっかけは何?
考えてもわからない。
これは誰かに話すべきだろうか。でも、熱出したばかりだからソルに伝えたら心配するだろうな。せっかく会えたのに変な子だって思われたくないし。
明日は普通に戻っているかもしれないから、とりあえず熱が下がったことをソルに伝えに行こう。
やっぱりソルは台所にいた。ユティさんは……いないみたい。
「あの、ソル。昨日はごめんなさい」
「あ、おはようリュザール。調子はどう」
ソルはなぜか頬を手で押さえながら話している。やっぱり可愛いな。
「おはよう。もう大丈夫みたい」
「よかった。でも無理しちゃだめだよ」
「ありがとう。無理しないよ」
心配かけてごめんね。もう平気だよ。
「あのね、リュザール。一度カインに来て父さんに診てもらった方がいいよ」
いつも熱はすぐ下がるから、タリュフさんに見てもらうほどのことはないよ。
「ボクはいいよ。大丈夫だよ」
「私が心配なんだけど。安心させてくれないの」
あ、ソルに心配かけないって決めたんだった。
「あ、ごめん。わかったよ一度行くね。ソルはいつ頃カイン村に戻るの?」
「10日後ぐらいかな」
その頃なら時間取れるかもしれない。
「その辺りなら隊商も休みだと思う。ソルがバーシに寄ったときに一緒にカインまで行っていい?」
「うん、一緒に行こう。待っててね。ところでリュザール。寝てるときに何か夢とか見なかった」
あの事は現実で夢ではないと思うし、ソルにこれ以上心配をかけることはできないから黙っておこう。
「たぶん、夢は見なかったと思う。どうかしたの?」
「いや、見てなかったらいいんだ。気にしないで」
「あら、リュザール君おはよう。よくなったみたいね」
ユティさん水汲みに行っていたのか。
「はい、ユティさん。おはようございます。おかげさまでいいみたいです。それじゃあボク行くね。ソル、仕事の邪魔をしてごめんね」
ソルとバーシからカインまで一緒に行ける。楽しみだなあ。
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