幕間 リュザール1

第38話、39話のリュザールサイドのお話になります。

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「カスムさん今回もよろしくお願いします」


「リュザール。こちらこそよろしく頼むな。それと、コルカでソルに会えるかもしれないよ」


 ソルさんはセムトさんの姪っ子さんで、確かボクと一緒の年なのに自分で作った工房で糸車という便利な道具を作っていると聞いている。女の子なのにすごいなって思っていたから一度会ってみたかったんだ。どんな子だろう、すっごい楽しみ!





 コルカに来て5日……ソルさんを待っていたけど、そろそろバーシに帰らないといけない。もう会えないのかな……


「なあ、リュザール。ソルは間に合わなかったようだけどどうする」


「カスムさん。予定通り出発します。バーシの人たちがボクたちの帰りを待っているから」


 村の人たちを困らせることはできない。ソルさんに会いたかったけど仕方がない……





 コルカから出発して二日目。


 マルト村の隊商宿で荷解きしていたら、隊商宿には場違いな女の子の声が聞こえてきた。


「コルト?」


「お、ソルじゃん。今からアラルク達の迎えに行くの? アラルク待っていたようだぜ」


 えっ! コルトさん。もしかしてソルって言った?


「コルトは何でここに?」


「俺はセムトさんから、リュザールの所にも行った方がいいって言われて、しばらく厄介になる予定なんだ」


 コルトさんと話している、あの子がソルなの?

 でも、コルトさんの陰に隠れてよく顔が見えないな。


 何とかして見えないかと体を動かしていたら、カスムさんが近寄ってきた。


「よかったですね。ソルが来てくれましたよ」


 やっぱりソルなんだ!

 今回は会えないって思って諦めていたから、なんだか嬉しい!


「紹介しますから付いて来てください」


 カスムさん、体が大きいよ。後ろからじゃソルの顔が見えない。

 何とかして顔を見たいけど、紹介されるまで待ってた方がいいかな……





「今、リュザールさんって言った? そしたらカスム兄さんもいるの」


「やあソル。会えてよかったよ。コルカで待っていたんだけど来ないから、今回無理かと思ってた」


「カスム兄さんごめんなさい。いろいろあって遅れちゃいました」


「いや、来られたのならよかった。せっかくだからうちのかしら紹介していいかな」


「はい、お願いします」




 カスムさんが避けてくれた。可愛い!

 この子がソルさんなんだ。


「君がソルさん。ボクはリュザールよろしくね」


「え、リュザールさん? 隊商の?」


「リュザールでいいよ。びっくりしたよね。よく言われるんだ、こんな子供が隊商のかしらをやるのはおかしいってね」


 この子と仲良くなりたいな……


「……ねえ、ボクもソルって呼んでいい?」


「はい、ソルって呼んでください。私が工房やっているんだから、リュザールがかしらしていても全然おかしくないよ。でももっとおじさんだと思ってた」


 子供だって馬鹿にされないのは新鮮だな。それにソルって結構はっきり言う子なのかな。付き合いやすそう。


「あまり子供だってことは言わないでもらっているんだ。商売しにくくなるからね。ソル。改めましてよろしくね」


 あ、自然と手を出してしまった。握手してくれるかな。


「リュザール。よろしくお願いします」


 あ、握り返してくれた。よかった。

 ……あれ、なんだろう、ただ手を握っただけなのにものすごく嬉しい!

 このままずっと一緒にいたい!


 あ、だめだ。思ったことが口から出てしまう!


「ソルの話聞いた時、同じ子供なのに頑張っているなって思っていた。カスムさんからコルカで会えるって聞いて、楽しみにしていたんだけど、会えなくて諦めていたら今日やっと会うことができた。そして分かった。ボクはソルをお嫁さんにしたい!」


 思わず言ってしまった。あー、ソルが固まってしまっちゃった。


「だめ?」


 そうだよね、だめだよね。


「初めて会ったばかりでよくわからないし、私じゃ決められない」


 あれ、だめってわけでもないの。


「リュザール君。俺はジュトと言ってソルの兄なんだけど、さすがにソルもここで返事することはできないよ。うちの父さんたちには伝えておいてあげるから、君のご両親に話をしておいてもらえるかな」


 あ、そうか。ソルのお父さんに頼まないといけなかったんだ。でも、親がいないからどうしよう。


「ごめんなさい。会った瞬間この人だって思ったからつい言葉にしてしまいました。それとボク両親がいなくて」


「それなら私が父さんに話しておいてあげるわ」


 あれユティさんもいる。お父さんってことはバズランさん。そういえばボクの後見人だった。親代わりをしてくれるんだ。


「ちょっと待ってください。私はまだ結婚とかよくわからないです。糸車もようやく作れるようになって、荷馬車もこれからだし、今から新しい人を迎えに行かないといけないし少し時間が欲しいです」


「ソル大丈夫だよ。明日結婚するってわけじゃないし、時間は十分あるよ」


 ごめんねソル。急にこんなこと言ったから困らせちゃった。それにしてもさっきからソルの耳元でささやいてる少年は誰だろう。もしかしてソルのいいひと? それならボクはもうだめなのかな。


「ごめんねソル。ボクがいきなり言ったばっかりに困らせてしまって、嫌いにならないで。話しかけてもいい」


 ソルがうんって頷いてくれた。本当によかった。





 夕食を作る話になって、コルトがソルに何かお願いしている。気になって聞いているとプロフを作ってくれるそうだ。プロフはコルトがあまりに勧めるから米を仕入れてきたけど、食べたことが無いからちょっと不安だったんだよね。


 そう言ってみると。


「バーシでもバズランさんのところでプロフの試食会をしてるから、種籾は喜ばれるかもしれませんよ」


 さすがはボクのソル。いい情報を教えてくれた。バーシに帰ったらバズランさんに種籾を持って行ってあげよう。





 ソルがユティさんとプロフを作りに行っているときに、さっきソルに耳打ちしていた確かユーリルという少年がやってきた。


 ソルは渡さない! 決闘だ! って言ってくるんじゃないのかな。決闘はあまりしたくないんだよね、全力になっちゃうと力加減がうまくいかないから。


「ねえ、リュザール君。ちょっと話があるけど、いいかな?」


「ユーリル君だったよね。リュザールでいいよ。それで話ってなに?」


「ありがとう。僕のこともユーリルって呼んでね。そしてそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。僕、君とソルのこと応援するからね」


「え、どういうこと?」


「僕とソルは君が心配しているような関係じゃないから。しいて言えば腐れ縁ってやつ。どう転んでも恋愛関係にはならないよ」


「いや、それでも、どうして応援してくれるの」


「ソルってさ、なんか自分はこうじゃないといけないって思い込むところがあって、たぶんこのままじゃ恋愛することもできないって思うんだよね。それに付き合ってみるとわかるんだけど、男みたいな考え方してるから、周りがなかなか踏み込んでくれなくてさ、たぶんリュザールだけだよ、ああ言ってくれたの」


 そうなんだ、でも手を握った瞬間この人だって思ったから、考え方が男っぽくても全く問題ない。


「じゃあ、このままソルのこと好きでいいの?」


「うん。僕だけじゃなく、ジュトさんもユティさんもみんな応援しているよ」


 よかった。


「でもユーリルに何のお返しもできないよ」


「いいって。ただ僕も気になる子がいるから、もしその子との間で何か手伝ってもらいたいことができたら、その時に協力してくれたら助かるよ」


「わかった。その時は何でも言ってね。でも、どんな子なの」


 そういってユーリルから聞いた名前は覚えがある。確かコルカの鍛冶屋さんで、ものすごく恋愛とは縁遠そうだったんだけど、ユーリルは知っているんだろうか。


「ソルからもそう聞いてる。でも今から迎えに行って、これからずっとカイン村で一緒にいるんだよ。諦めなかったら何とかなるさ」


 すごいなユーリルは、ボクもソルに気に入ってもらえるように頑張ろう。





 食事は大切なんだと改めて思う。こんなに豪勢な食卓を見るのは、この隊商に入って初めてではないだろうか。


「おいしいねソル。コルトが言った通りだ。米を持ってきていてよかったぁ、ソルの料理も食べることができたし」


 ソルとユティさんが作ってくれたプロフは本当に美味しかった。これなら一度食べた人はまた食べたいと思うはず。コルトの話を信じて運んできてよかったよ。


 食事か、隊商のみんなのためにも何とかしてあげたいと思うけど、ソルに料理教えてって頼むのはだめかな。





 そのあとはソルとユーリルとでたくさん話した。特にボクが行ったことのある場所の話は面白そうに聞いてくれた。


 また、ユキヒョウの話の時のユーリルが面白かったな。ソルがユキヒョウと暮らしていたのは結構有名だったけど、ユーリルは知らなかったんだね、あんなに残念がるとは思って無かった。





 ……でも、迷惑かけちゃったな。最近はあまりなかったのにまた熱が出ちゃった。


 ソルがおでこに当ててくれた手が冷たくて気持ちいい。


「リュザール。熱があるようだから今日は早く寝た方がいいよ」


「ごめんねソル。迷惑かけちゃって」


「迷惑なんて思わなくていいから」


 ソルは優しいな。ボクのお願い聞いてくれるかな。


「わかった。寝るからさ……ねえ、ソル、お願いがあるんだけど、ボクが寝るまで手を握っていてもらえないかな」


「手を握っていてあげるから、ゆっくり休んでね」


 よかった。ソルと手を握ると安心できるんだよね。


 寝床まで行って横になる。ソルもその側で横になってボクの手を握ってくれた。

 ソルの手がひんやりしていて気持ちがいい。


 今日はソルに会えてよかった。明日は元気なって心配させないようにしよう。


 右手にソルの手を感じながら、ボクはいつの間にか眠ってしまっていた。

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