第39話 リュザールという少年2
「ボクはソルをお嫁さんにしたい!」
何がどうなっているかわからない。慌ててカスム兄さんやコルトの方を見るけど、首をブンブン振っている。どうもいつもはこんな感じではないようだ。
あのユーリルもびっくりしているようだし、ジュト兄もユティ姉も固まってしまっている。
「だめ?」
そう聞かれても。
「初めて会ったばかりでよくわからないし、私じゃ決められない」
第一テラでは、結婚相手は親が決めることになっている。子供同士で約束してても、親の了解がないとうまくいくことはない。どうしても一緒になりたいのなら、それこそ駆け落ちするしか方法はないと思う。
「リュザール君。俺はジュトと言ってソルの兄なんだけど、さすがにソルもここで返事することはできないよ。うちの父さんたちには伝えておいてあげるから、君のご両親に話をしておいてもらえるかな」
ジュト兄はちゃんと手順を踏んでくるようにって言っているようだ。ってあれ、もしかして話が進みつつあるの。
リュザールは、あっ、しまったという顔をして話し出した。
「ごめんなさい。会った瞬間この人だって思ったからつい言葉にしてしまいました。それとボク、両親がいなくて」
「それなら私が父さんに話しておいてあげるわ」
ユティ姉だ。どういうことだろう。
ユティ姉によると、リュザールは赤ちゃんのころバーシの橋のところで捨てられているのを旅人が見つけ、その後バーシの老夫婦のところで育てられたみたい。8歳になる頃その老夫婦も相次いで亡くなってしまって、そのあとはバズランさんが後見人となって、バーシを拠点としている隊商に預けられたということだ。
あとで聞いた話だけど、バーシでもリュザールを育てようというところはあったようだけど、あまりにも頭がいいので、隊商の
だから今でも親代わりはバズランさんになるので、結婚の相談は父さんとバズランさんで行うことになる。
って、だからなんで結婚が前提で話が進んでいるの!
ユーリルなんて他人事みたいに成り行きを見守っているし、ユティ姉は『よかったね、ソル』って言ってくるし、もう少し考える時間が欲しいよ。
「ちょっと待ってください。私はまだ結婚とかよくわからないです。糸車もようやく作れるようになって、荷馬車もこれからだし、今から新しい人を迎えに行かないといけないし、とにかく少し時間が欲しいです」
「ソル大丈夫だよ。明日結婚するってわけじゃないし、時間は十分あるよ」
ジュト兄ぃー。
「ソル、これは時間をあげるから覚悟決めろってことみたいだね。お、リュザール君がすごい目で見ている」
ニヤニヤ笑いながら私に話しかけてきたユーリルは、そう言って後ろに引っ込んでしまった。
あんにゃろー親友のくせに役立たずだ。助けてくれる気がないんだな。
「ごめんねソル。ボクがいきなり言ったばっかりに困らせてしまって、嫌いにならないで」
これくらいで嫌いになることはないけど……
「話しかけてもいい」
うんと頷くと、リュザールはものすごくうれしそうな顔をして『ありがとう』って言った。
その後改めてユーリルやジュト兄たちを紹介して、今日の夕食の話をすると。
コルトが『頼むソル、またあれ作ってくれ』と頼んできた。
「あれってプロフ? お米持ってきてないよ」
「え、ソル、プロフ作れるの。お米ならあるから使っていいよ」
リュザールはそういい、隊員に米を持ってくるように指示していた。
どこの隊商でも食事には苦労しているようだ。
コルトも半ばあきらめていたようだったけど、私の顔を見て、口がプロフ用になってしまったと言っていた。まるでパブロフの犬みたい。
リュザールも最初はコルカから米を持って帰るつもりはなかったようだけど、あまりにもコルトがおいしいと言うので、食事用の米と種籾を持ち帰っているんだって。
「バーシでもバズランさんのところでプロフの試食会をしてるから、種籾は喜ばれるかもしれませんよ」
リュザールにそう言うと『いい情報ありがとう。さすが僕のソル』って、なんかやりにくいな。
リュザールの隊商も10人ぐらいのグループだ。私たち4人いるから14人分のプロフを作ることになる。この前と違って、今回はユティ姉もいるからかなり楽できそう。
料理の途中ユティ姉が聞いてきた。
「どうするのソル」
「どうしようユティ姉」
「見た時にこの人じゃダメってことはなかった」
「うん」
「なら大丈夫よ。きっとうまくいくわ」
確かにリュザールと一緒にいても嫌悪感は全くないけど、これだけの時間じゃ判断なんてできないよ。
食事の準備ができたと伝えると、隊商のみんなで料理を運ぶのを手伝ってくれた。
……ユーリルとリュザールが一緒になって運んでくれているんだけど、いつの間に仲良くなったのかな。
食事の時、私の隣にはいつものようにユーリルが、真向かいにはリュザールが座った。
「ねえ、リュザールと何かあったの」
二人が妙に仲がいいのが気になる。
「ん。ああ、彼は志を同じにする仲間だからね。ねえリュザール」
「ユーリルは心の友だ。今日この時から親友になった」
どうも怪しい。何か企んでいるに違いない。これはあとからユーリルを問い詰める必要がありそうだ。
ちなみに食事の方はというと、やはり好評だ。この隊商の人たちはまだプロフを食べたことが無かったらしく、米を持ち帰るのを懐疑的に思っている人もいたそうだ。確かに炊いただけの米を知っているのなら、わざわざ作ろうと思うこともないはず。
でもプロフの味を知ってしまったら、またいつか食べたいと思ってしまう。つまり材料の米がこれから必要になってくるということだ。目ざとい行商人ならそれを見逃すはずがない。
リュザールはプロフを食べる前から評判(コルトの話だけどね)を聞いただけで、米の必要性を感じ取ったのかもしれない。やはり隊商を任されているのには、それなりの訳があるようだ。
「おいしいねソル。コルトが言った通りだった。米を持ってきていてよかったよ、ソルの手料理も食べることができたからね」
リュザールは、私の目の前で本当においしそうに食べている。普通の友達としてならいいんだけど、結婚相手となると……。テラでも地球でも幸せになろうと決めたけど、いざとなると戸惑っちゃう。
そのあとはリュザールも普通に接してくれ、食事が終わった後はユーリルと三人でいろいろと話をした。
あそこの山は綺麗だったとか、あそこの道は狭いから話に聞いてる荷馬車は通れないとか、私が行ったことのない場所のことも教えてくれたりもしたけど、ユキヒョウを見たことがあるというときのユーリルは面白かった。
「ボク、タルブクに向かう山の中でユキヒョウに会ったことあってさ、あまりに綺麗で見とれていたらふっといなくなっちゃった。あの時のことは忘れられないな。……あれ、ソルってユキヒョウと一緒に住んでなかった?」
「うん、一緒にいたよ。よく知っていたね」
「セムトさんから聞いたことがあったから」
「……ねえ、それ本当の話?」
「ユーリルに言ったことなかったかな」
「初めて聞いた。いつ頃までいたの?」
なんだかユーリル、泣きそうな顔になっている。
「去年の冬に入った頃だと思う。山に帰っちゃった」
「つ、つい最近じゃないか! ユキヒョウ大好きなのにー!」
日本では動物園の檻の中に入ったユキヒョウしか見ることができないから、私やテムスみたいに一緒に寝て、抱きついたりしていたとか、ユーリルにしてみたらうらやましい限りだろう。
……カァルどうしてるかな、山に行ったら会えるかな。会えなくても元気にしてたらいいな。
そう考えてると、これまでテンション高めに話していたリュザールが急におとなしくなっていることに気が付いた。見てみると顔が赤い。熱があるのかなと思い、おでこに手を当てると……やはり熱があるようだ。
ジュト兄と話していたカスム兄さんにそのことを伝える。
「また出たのか、どうも興奮すると熱が出ることがあるんだよね。翌朝には下がっていることが多いから、先に休ませてあげよう」
興奮して熱って最近聞いたことあるな。ユーリルはバツが悪そうにしてるよ。
「リュザール。熱があるようだから今日は早く寝た方がいいよ」
「ごめんねソル。迷惑かけちゃって」
「迷惑なんて思わなくていいから」
似たようなやり取りもした気がする。
「わかった。寝るからさ……ねえ、ソル、お願いがあるんだけど、ボクが寝るまで手を握っていてもらえないかな」
病気になると気弱になるのはみんな同じだ。心細いんだろう。ジュト兄の方を見るとうんと頷いてくれた。手を繋ぐぐらいはいいみたい、ここは大部屋だから2人っきりじゃないしね。
それに一緒に寝るわけではないから、リュザールが地球と繋がる心配もしなくていいと思う。
「手を握っていてあげるから、ゆっくり休んでね」
そういいリュザールを寝床まで連れていき、手を握ってあげる。
なんか大きな弟がいるみたいだな。弟といえばテムスと手を繋いで寝たことあるけど、テムスは地球に行ってるような感じしないな。こちらからはいけないのかな……
リュザールの手のぬくもりを感じながら、私も意識を手放していた。
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あとがきです。
「ユーリルです」
「リュザールです」
「リュザール、熱は平気?」
「なんかここでは大丈夫みたい。ところでここは何をするところなの?」
「ここは読者の皆さんに感謝を伝えたり、お知らせしたりするところみたいだね」
「感謝か。それじゃあ、読者のみんなボクとソルを会わせてくれてありがとうございます。これでいいんだよね」
「えっと、まあ、いいんじゃないかな」
「お知らせは?」
「えっとね、これを読むの」
「「皆さん次回もお楽しみに―」」
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