第26話 竹下からの報告

 翌朝起きると、すぐに竹下からメールが来た。


 無事向こうに行けたという報告と、打ち合わせをしたいから来ていいかという内容だ。さすがに朝早くから来られると親が何事かと思うので、いつも散歩している川で待ち合わせすることにした。


 待ち合わせに指定した川のほとりには、日避けがあってその下には石で出来た椅子がある。夏場には昔ながらのアイス売りのおばちゃんがいて、それを目当てに来る観光客もいるほどなんだけど、さすがに今の時間は誰もいない。

 橋を渡り、その椅子がある場所に向かっていると後ろから声がかかった。


「おっはよう♪」


 竹下君、語尾に音符が見えてるよ。


「おはよう。えらく調子よさそうだね」


「だってさ、昨日ようやく村の糸車が揃って、村のみんなに配りに行けたんだ♪」


 糸車揃ったんだ、思ったより早い。きっとみんな頑張ってくれたんだろうな。


「俺、村の人の顔がまだわからないからさ、ラーレについてもらって、コペルと一緒に回ったんだけど、糸車を渡したら喜んでくれて、みんながみんな、俺とコペルが村に来てほんとよかったって言ってくれた……」


 そういう竹下の目元はうるんでいる。


「俺もコペルも親を亡くして、逃げるようにカインに来ただろ。こんなに感謝されるって思って無くてさ、本当に嬉しくて……へへ」


 涙を拭いながらもいい笑顔だ。


「いい村だろう」


「うん、それであまりに嬉しくて、すぐに話したくてメールしたんだ。朝早くにごめんな」


「いいよ、僕も気になっていたし。コペルも喜んでた?」


「コペルはあんな調子だから口には出さなかったけど、嬉しそうにしていたよ。そして糸車の使い方の実演もしたんだけど、そこでもまた可愛がられてた」


 コペルの一生懸命に作業している姿は、保護欲を掻き立てられるんだよね。ミサフィ母さんなんて何度も抱きしめているし……これでみんなと打ち解けてくれたらいいと思う。


「あ、そうそう、話は変わるけど、荷車の車軸受けのところは作ってくれることのなったよ。数は4つ」


「よかった。ジュトさんと話していたんだけど、車軸も車軸受けも木製だとそれぞれが削れて、すぐに壊れてしまうだろうって。あとはできるだけツルツルにしてもらえたら助かる」


「うん、明日行くからそう伝えとく。これもついでに言っておくね。部屋の話なんだけど、今度パルフィとアラルクが来るよね。パルフィはソルたちと一緒の部屋でいいとして、アラルクはユーリルと一緒でいいよね」


「うん、もちろん」


「ありがとう。ただ、いま悩んでいるのがテムスなんだ。今まではソルと一緒の部屋でよかったけど、パルフィが来たらコペルも入れて女3人になるよね、そうなるとテムスが1人でかわいそうだと思っているんだ」


「確かに女3人に男1人はきついものがあるか……山下のとこは姉ちゃん3人で女怖いってよく言っている。俺にはうらやましい限りだけど。まあでも、テムスのことなら心配しなくても大丈夫。この前から俺の部屋で寝てるから」


「え、そうなの」


 でも、確かにテムスはユーリルに懐いていたから、そういうこともあるのか。


「うん、ソルたちが行った日からね。夜ご飯食べた後、おばさんと寝るの戸惑ってたようだったから、『僕と一緒に寝る?』って聞いたら、うんって言って移動してきた。その代わりにコペルはおばさんと寝ているな」


 心配する必要もなかった。コペルも1人では寂しいのだろう。いや、ミサフィ母さんが寂しいのか。


「テムス、迷惑かけてない?」


「全然、俺こっちではひとりっ子でテラでも兄弟いなかったから、弟ができたみたいで楽しいよ。特にテムスは素直だし」


 テムスはよく言うことを聞いてくれる、たまに生意気なときあるけど、それくらい男の子なら普通だろう。


「あ、もう家に戻らなきゃ」


 もっと話をしたいけど、そろそろ朝ごはんの時間だ。


「了解。それじゃ後から、立花の所に行ってもいい?」


「ごめん。今日は昼前から綿花の世話の手伝いを頼まれているんだ」


「綿花ってことは紗知さんたちと?」


「そうだよ」


「俺も一緒に行きたい!」


 やっぱりね、そういうと思ってた。


「わかった、聞いとく。あとでメールするから」


「あ、朝ごはん食ったらそっち行くからその時に教えて」


 これは一緒に行く気満々だな。まあ、紗知さんも竹下の事を知らないわけじゃないから大丈夫かな。

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