第13話 工房職人の募集2

 家の中に入りユティ姉に声をかける。薬草畑はまだ行けてないそうだ。今日は私が行くと伝え、コペルとユーリルを探す。二人はこれから一緒に住むから、薬草畑のことも知っていてもらおう。


 コペルは部屋で糸車を使って羊毛を紡いでいた。聞くと布団用に準備をしているようだ。昨日言ったばかりなのに、早速母さんに言って羊毛をもらってきたらしい。昨日も思ったが、なかなか糸車使い方もうまいし糸の太さも揃っている。かなりいい布団ができるのではないだろうか。


 薬草畑に行くからついてこない? って聞くと、行ってみたいという。ついでにユーリルの場所を聞くと、工房建設を手伝っているとのこと。


 二人して工房に向かうと、数人の大人に交じってユーリルが建設の手伝いをしていた。みんなにお礼をいい、ユーリルに声をかけると、ユーリルも薬草畑を見てみたいと言ってくれた。



 そろそろ夕方になるので馬に乗っていくことにし、私は栗毛の小さい方のリンにコペルと、ユーリルにはもう一頭の栗毛のミルに乗ってもらう。


 コペルに、一人で乗らなくてよかったのって聞くと、あまり馬に乗るのが得意ではないらしい。ユーリルの方は両親といた頃は遊牧をしていたらしく、馬の扱いはかなりうまい。


 さっきからコペルには後ろから掴まってもらっているけど、こんなかわいい子に密着されていたら、年頃の男の子ならドキドキするに違いない。実際ドキドキしちゃってるし。昨日の夜は一緒の部屋で寝ていてもそんなことはなかったのに、シチュエーションって大事だね。



 ほんの少しの間のドキドキを楽しんで到着した薬草畑では、まずは綿花を確認してみる。工房の準備で10日ほどユティ姉とテムスに任せっきりにしていて、様子は聞いてはいたけど、確認はできていなかったからこちらの方もドキドキだ。


 よかったー、葉っぱもある程度まで増えており、もうしばらくすると花も咲き始めると思う。虫取りを手伝ってもらいながら、二人に秋には綿わたができることを伝え、その綿は生地にすることもできるというと、コペルは興味津々な様子。


 その後、薬草畑に植えてある他の植物を教えていく。


 2人は薬師でないので初めて見るものも多く、特に毒草を育てているのにはびっくりしていた。もちろん薬として育てているのも忘れずに言ってある。


「ソルは僕みたいな男と一緒でも、あまり変わらないよね。僕はこれまで、同じくらいの年の女の子とあまり話したことなかったよ」


 突然ユーリルが聞いてきた。コペルもうなずいている。


「そうかな、この村ではこんな感じだよ」


 地域性があるのかな、こちらでは年頃の男女が2人っきりになるのは避けるけど、そうでないときは話すことくらいできる。ただ、私の場合は地球では男だから、そこまで気にしてこなかったのも確かだけど。


「だからあまり気にしないで、他の子にも話しかけて大丈夫だよ」


 せっかくならみんなと仲良くなってほしい。


 ユーリルに隊商宿では女の人とは話すことなかったのか聞いてみると、私たちみたいな年頃の女の人は旅には行かないそうだ。普通はそうか。


「この木も薬になるの?」


 ユーリルが桑の木を植えているところで聞いてきた。


「うん、薬にもなるし、実も食べられるよ。実はもうそろそろかな。でも今は虫がつかないかと思って育てている」


「この木、前住んでいたところの畑の横に植わっていたと思う。薬にもなるんだ。実も食べていた気がする。黒くて甘酸っぱかったよね。でも虫をつけようとしてるのはなぜ? 薬になるの?」


「薬じゃないけど、この葉を食べて蛹になるときに繭を作る虫がいるはずなんだ。ずっと探しててもここにはいないのか、見たことないんだよね」


「繭って白っぽくて中を開けると虫が入ってるやつだよね。見たことあるよ」


「ほんと! どこで?」


「さっき話した前いた町の畑に。でも今は、水がなくなっているからその木枯れてるかも」


 残念だ。でも有力な情報を得られたのかもしれない。地球で絹を作り出すカイコという蛾は、飛ぶことができないらしいけど、ユーリルが見た繭を作る虫は飛ぶことができるだろう。そしたら違う場所にある桑の木に避難しているかもしれない。機会があったら探しに行ってみたい。


「その繭でどうするの?」


 コペルが聞いてきた。


「綺麗な糸が取れるから、それで生地を作ろうと思ってる」


「綺麗なんだ。私も早くその糸見てみたい」


 うん、私も早く見てみたい。でもまずは糸車と綿花からだね。


 その後、三人で必要な薬草を採集し、夕方になったので少しの間のドキドキを楽しみつつ家へと帰った。



 翌日広場には多くの人が来てくれた。


 セムトおじさんの所には5名、私の方にも7名。そして、放牧の手伝いと畑の手伝いを募集しているところにもそれぞれ1人づついるようだ。

 おじさんの方に来た5人は、新しく来た住民の中で、子供がいない中年の夫婦の旦那さんが2人に、村人で長男でない男の子が3人だ。中年の夫婦には子供がいないので、今から家畜を飼っても後を引き継ぐ者がなく、日々の生活ができれば問題ないということらしい。馬を出せるのも決め手になったのかもしれない。そして長男でない男の子は家を継ぐことができないので、いずれどこかで仕事を探さないといけないから、これを機に隊商に入ろうと思ったのだろう。


 放牧の手伝いと畑の手伝いには、新しく来た住人の若い夫婦の旦那さんがそれぞれいったみたい。こちらは手伝いをしながら自分の家畜を増やしたり、畑をしたりするつもりだと思う。


 私のところに来た7名は昨日話していたラーレに同じく結婚前の女性のアクシャさん、そして長男でない男の子のニサン、そして新しい住民の夫婦の奥さんが4人全員だ。


 一応3人の予定なので、それぞれ話を聞いていくと、ずっと働いてくれるのはラーレとアクシャさんにニサンで、奥さんたちの方は、時間が空いた時に手伝わせてほしいということだった。

 みんな糸車を作ることに対して問題ないようだったので、お願いすることにした。地球でいうところのフルで働いてくれる人3名とパートさん4名だ。


 村の者は知っているが、新しい住民の方は分からないと思うので、一緒に来ていたユーリルとコペルも呼んでみんなで自己紹介をした。


 フルで働いてくれるのが、全部で5名。

 男がユーリル、ニサンの2人。

 女がコペル、ラーレ、アクシャの3人

 そして、パートで働いてくれる奥さんが4名。


 それぞれが挨拶をし、工房が出来上がったらお願いすると伝えて解散してもらった。


 すると、ラーレとアクシャ、ニサンの3人が残っている。多分ユーリルとコペルと話がしたいんだろう。


「それじゃあ、ユーリルはコルカの北から、コペルは西から来たのね」


「この村はみんないい人たちばかりだから安心していいよ」


 二人の話を聞いて、みんなが声をかける。


「ソルもテムスも優しい」


「うん、みんな気を使ってよく声をかけてくれる。あとソルにも聞いたんだけど、この村は結婚前の男女が話をしても怒られないの?」


「うーん、2人っきりにならないなら何も言われないわね」


「でも、バーシでは話さないって聞いたよ」


 結婚前の男女が話をすることは、問題があるというところが多いようだ。でもなんでこの村は大丈夫なんだろう。


「ここでは話せるんだからいいじゃない。それよりあなたたち読み書きはできるの?」


「僕は少し」


「読めない」


 ユーリルは少し読み書きできるのか。それは助かるかも。


「そうなんだユーリルは書けるのね。私とアクシャさんは書けないけど読むことはできるわよ。ニサンも確かそう」


「ほんと」「すごい」


「まあ、ソルに教えてもらったんだけどね。この村の子供は、結構ソルに教えてもらっているから読める子は多いわよ。せっかく一緒に住んでいるんだから、ソルに頼んで教わったらいいわ」


「ソルお願いできる」「お願い」


「喜んで」


 2人がその気ならいくらでも。時間を作って、またラーレたちにも教えたいな。


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あとがきです。

「ユーリルです」

「コペル」


「えっと、なぜかここに来て話せって言われたんだけど、コペル何か聞いてる?」

「ううん」

「どうしよう……え、何、これを読むの? コペルは読める? そっか、読めないか。それじゃあ僕のあとについて言ってね」

「わかった」

「皆さんこれからも『おはようから始まる国づくり』よろしくお願いします」

「します」

「これでいいの?」

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