第12話 工房職人の募集1
夕食後、2人に糸車を見せることにした。
「ねえ、これってソルが考え付いたの? すごい! 僕、今までいろんな人の話を聞いてきたけどこれは初めてだよ」
ユーリルは盛んに感心している。
コペルに使い方を教えると「これは簡単」といって、
「僕たちの仕事はこれを作ること?」
「うん、いつか他のところでも同じようなものを作るようになると思うけど、それまでは作ってもらおうと思ってる」
「器用な人がいたら真似するかもしれないね。それにしてもこの部分よく作っているよね」
そういいユーリルが
その時ふと思った。
そういえば、これまで馬車とか荷車とか、車のついたものは見たことがない。糸車を説明するときも、糸を表す言葉と車を表す言葉を合わせて発音したから、車という言葉はあったと思う。
テラで車という物を見たことが無いのに、その言葉がわかるのは、普段使う言葉の中に何か車を意味するものがあったのだろう。もしかたら、昔は車という物があったのかもしれないし、今もここから遠く離れた場所には車があるのかもしれない。コルカより先は砂漠が広がっているようだから、荷馬車は使えないということで
「どうしたのソル、気分でも悪いの?」
黙り込んで考えていると、ユーリルに心配されてしまった。
「この部分は車っていうんだけど、他に車を使ったものがなかったかなと思って」
「糸車の車ね、実物を見たのは初めてかもしれない。確かに言葉の意味は分かるから、昔はあったのかもしれないね」
ユーリルは少し話しただけで、私が考えていることがわかったようだ。それにしても何だろう。ユーリルとは今日初めて会ったはずなのになんだか話しやすい。同い年だからかな……
「コペルは見たことある?」
ユーリルの問いにコペルは首を横に振っている。
やっぱり見たことないか、それにしてもジュト兄は私が書いた絵を見てうまくそれを形にしてくれた。車の実物を見たことないはずなのによくできたよね、ジュト兄に感謝しないと。
ユーリルに糸車の詳しい作り方は、ジュト兄に聞くように伝えて今日は休むことにした。
コペルともいろいろ話したいけど、今日はさすがに疲れているようだから、今度ゆっくり話をしよう。
翌日、村の広場に村人が集まってきた。
「今日はよく集まってくれた。新しい住民の皆も、昨日はゆっくり休めただろうか」
父さんは、村のみんなの方を見ながら話し出す。
「早速だが、皆の仕事について話をしたい。知っている者もいるかと思うが、今度糸車を作る工房ができる。そこで働いてくれる者を探している」
新しく来た住民は、ユーリルとコペル以外よくわかってないようだ。
「糸車を知らない者は、近くの知っている者に聞いてくれ」
周りの村人が教えだす。
「先日糸車を見せた時、あるものからこれは麦10袋でも欲しいと聞いたことがある。みんなもそう思うか」
麦1袋は大体大人1人10日食べられる量で、物の価値を測る指標にもなっている。
「それで手に入るのならありがたいわ」
と村の女性陣から声が上がる。
「わかった。それではソルから糸車について話がある。聞いてくれ」
「こんにちは。糸車についてですが、父さんとも話し合ってこの村の人たちには、麦6袋でお渡しすることにしました」
村人から歓声があがる。
私はさらに工房の職人についてに説明を続ける。
「……………………最後に今回お願いする職人さんの人数ですが、1日働いてくださる方を3名ほど、空いた時間だけの方は人数制限は致しませんのでどなたでも来ていただきたいと思ってます。皆さんよろしくお願いします」
職人になってくれた人には月に麦10袋を渡す予定だから、家族3人なら一か月食べられる量だ。他にも短時間でも働いて貰えるようにしているから、きっとみんな来てくれると思う。
「次にこの糸車を他の村や町にも売ろうと考えている。そのためには行商人が必要だか、今の村には足りていない。詳しくは隊商のセムトに聞いてくれ」
「……………………というわけで隊商の仕事は大変だけど、喜んでくれる人たちも多いからね、やりがいのある仕事だよ。みんなの参加を待っているよ」
隊商はそれぞれのメンバーが馬やラクダを持ち寄って参加する。隊商のリーダーは、交易で得られた利益から、かかった経費を差し引いた残りをみんなで分配する。
トラックや馬車がないテラでは、荷物を運ぶには馬かラクダが必要で、人手が多い方が連れていける頭数も増える。そうなると運べる荷物も増えるので、当然一回の交易で得られる利益も多くなる。隊商を組むメリットは、それだけではなく、最も重要なのは隊商の規模が大きいほど盗賊や野獣に襲われにくくなるという点だ。
「他に誰か仕事の募集をしたいものはいるか」
副長のマユスさんがそう聞くと、数人から手が上がる。
その人たちは放牧の手伝いや畑の手伝いを探しているようだ。
私たちの話が終わり、あちらこちらから相談している声が聞こえる。
「我こそはというものは、明日この時間にここに集まってほしい。早い者順ではないので焦らなくても大丈夫だ。じっくりと考えてくれ」
父さんがそういい村人を解散させる。
幾人かが残って、私のところに集まり聞いてきた。
「子供が小さくてずっとは働けないけど、ほんとに空いた時間だけでもいいの」
昨日こちらにやってきた小さい子供がいた家族の奥さんだ。
「子供さんも一緒に連れてきても大丈夫ですよ。みんなで面倒見られたらと思っています。他に毎日は無理でも、忙しい時だけ手伝っていただけても助かります」
「旦那と相談してみるわ」
「ねえソル、私も大丈夫かな」
ラーレだ。働いてくれるのかな。
「大丈夫だよ。むしろ大歓迎だよ」
「えへへ、わかった、父さんに相談してみる」
「ねえソル、この糸車はいつ頃手に入るんだい」
「工房ができてからになるから、そのあとになります。ごめんなさい」
「謝んなくてもいいよ。工房ができてからだね、それなら父ちゃんに早く完成させるように言っとくよ」
そのあとも何人かが尋ねてくる。セムトおじさんの方も人だかりができている。
ようやくみんながいなくなったのは、日が傾き始めたころだった。
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