第11話 避難民の到着

 20日後、おじさん達の隊商が避難民を連れて村に戻ってきた。


 村に到着した新しい住民は、自分たちの馬に荷物を積んだ4組の夫婦連れと、隊商の馬に乗った男の子と女の子の合計11人。

 夫婦連れは、若い夫婦が2組5人と中年の夫婦が2組4人で若い夫婦の1組には小さな子供が1人。

 中年の夫婦に子供がいないのは、すでに独立しているからだろう。

 隊商の馬に乗った男の子と女の子は、誰の家族でも無いようだ。



 新しい住民を見ようと村の中央の広場には村人も集まっていた。


 それを見て父さんが話し出す。


「皆さん遠くからよくおいでくださった。私はこの村の村長むらおさのタリュフです。今日からここがあなたたちの新しい家となります。村人は家族ですから、困ったことは何でも聞いてください」


「私は副長のマユスです。まずは、数日分の食料をお渡しいたします。そしてこれから住んでいただく場所をお伝えしますので、そちらに住居をお建てください。今日の所は近くの村人が手伝うことになってますので、お持ちになったユルト(地球の中央アジアで使われるテントの一種)を建てられたらいいかと思います」


「いろいろとお尋ねになりたいこともあるでしょうが、長旅でお疲れのことでしょう。今日のところは解散し、疲れを癒してください。明日、お昼にまたここにお集まりいただき、話をいたしましょう」


 避難民の4組の夫婦は、村の備蓄から出した食料を感謝しつつ受け取り、近くの村人に連れられて、これから住む場所に向かっていった。これから村人も手伝って、しばらく住むことになるユルトを建てるのだろう。


 セムトおじさんによると、後に残った男の子と女の子は、工房に住み込みで働く予定でユルトはもっていないらしい。その工房は、村人の手の空いている時間に手伝ってもらって建てていたけど、間に合わなかった。完成までもう少しかかりそうだ。


 そのため、この二人はしばらくの間、私の家の住人になる。


 一緒に来た避難民たちがいなくなり、不安そうにしている2人に父さんが声をかける。


「さあ君たち、しばらくは私の家に住んでもらうことになるからね。うちまで来てくれるかな。私はあとから行くから、ソル、先に案内してあげなさい」


「2人ともこっちだよ。ついてきてくれる。忘れ物無いようにね」


 男の子の方は、背の高さは私と同じくらい、目の色はこのあたりの人と同じ茶色で、短めの明るい茶色の髪をしている。体つきは男の子にしては少し華奢な感じで、力仕事は得意ではないかも。

 女の子の方は、私より背が低く、少し長めの濃い茶色の髪に、肌の色は他の人より少し白い感じで可愛らしい。それよりも目立つのは瞳の色だ。こちらではあまり見かけない青い瞳で特に惹かれる。


「荷物はそれだけ?」


「うん」


 2人には荷物らしい荷物はない、着ている服も傷んでいるようだし、替えの下着も満足にないのかもしれない。

 隊商の移動は村の隊商宿で寝泊りするらしいので、何日も水浴びしてなくて汚いということはないけど、2人とも見るからに疲れがたまっているのがわかる。家に着いたら水浴びでもしてもらって、そのあと服を用意しないといけないな。



「私の名前はソル。2人とも名前教えてもらえる」


「ソルさん。よろしくお願いします。僕はユーリルです」


「私はコペル」


「ソルって呼んでね。私もユーリル、コペルって呼んでもいい?」


「うん」「大丈夫」


「ユーリルもコペルも兄妹ではないよね」


「うん、コルカの逃げてきた人たちが集められてたところで初めて会った」


「知らない人だった」


「そっか、しばらく一緒に住むことになるからよろしくね。家はもうすぐだから。みんな優しいから心配しなくていいよ」



 家に到着すると、母さんたちに事情を話し、まずは2人に水浴びをしてもらうことにした。


 最初にコペルが水浴びをし、その間に私が使っていて小さくなった服を用意した。今のところはこれを着てもらって、新しいものはこれから作らないといけない。


 その間のユーリルは、テムスがお兄ちゃんができたと喜んで付きまとっている。ユーリルは疲れているだろうに嫌がらずに相手してくれている。


「テムス。ユーリルは疲れているからあまり無理させないでね」


「僕は大丈夫だよ。兄弟がいなかったから、お兄ちゃんって呼んでもらうの嬉しい」


 そういってもらうと助かる。無理してなければいいけど。


 コペルが出てきた後、ユーリルに水浴びに行くように促すと、テムスも僕が教えてあげるって言って一緒について行った。えらく懐いたものだ。


 ユーリルの服はジュト兄のおさがりで、テムスが大きくなった時用の物を用意した。こちらもいずれ新しいものを作ってあげたらいいと思う。


 水浴びを終えたコペルはというと、こちらは母さんが構っている。「私、女の子が欲しかったの」って、聞き捨てならないことを言っているように聞こえたけど気のせいだろう。


 ユーリルとテムスが水浴びから戻ってくると、父さんも広場から帰ってきた。


「お、2人ともきれいになったね。服はジュトとソルのおさがりかい」


 水浴びを終えた2人は、まだ疲れは残っているようだが、砂の汚れも落ち、本来の髪の色や肌の色に戻っている。


「はい、水浴びもさせてもらいました。服も頂いて、ありがとうございます」


 ユーリルは、相変わらずテムスにまといつかれながら、丁寧な返事をした。


「ありがとう」


 母さんの横に座ったコペルの話し方は、少しぶっきらぼうな感じだ。


「ほんの少しの間に仲良くなったみたいだね。私はこの村の村長で薬師のタリュフだ。私にも君たちのことを聞かせてもらえるかな」


 父さんが帰って来たので、改めて家のみんなを集めて、挨拶をすることになった。


「僕はユーリルといいます。14歳です。父さん母さんが亡くなった後、コルカの北の町の隊商宿で働いていましたが、水が干上がり仕事を失いました。頑張って働きますので、ここに置いてください」


 ユーリルは背が私と同じくらいだから、年下かと思ったら同い年だった。話し方が丁寧なのも、早くから両親を亡くし働いていた影響なのかな。


「私はコペル。13歳。コルカの西の村にいた。村が襲われ、父さんと母さんはいなくなった。行商のおじさんからここに来たら大丈夫だからと言われてここにきてる」


 コペルは一つ下だ、こちらは結構怖い目にあっているみたい。話し方はやっぱりぶっきらぼうな感じだけど、水浴びしてきれいになった髪と白い肌、それに青い瞳は外国映画に出てくる子役の子みたいで本当に可愛い。


「そうか2人とも苦労したね。もう心配しなくていいよ。今日からここが君たちの家だ。みんな家族になるから安心しなさい」


 テムスはユーリルにお兄ちゃんお兄ちゃんって言って、手を取って喜んでいるし、コペルの方は話を聞いた母さんが、怖かったねって言って抱きしめている。うちの家族の方の受け入れは問題ないようだ。

 

 私たち家族の紹介をしたあと、父さんは二人に今後のことについて伝える。


「2人に働いてもらう予定の工房はまだできてないから、しばらくは工房の建設やこの家の手伝いをしてほしい。それと、ユーリルは工房の中に住むための部屋ができるから、それまではこの家にある診療所で、コペルはソルたちの部屋で寝起きするように。あと、工房の責任者はソルだから、仕事のことはソルに聞くように」


「えっ」と、ユーリル。コペルは何も言わないけど目で「そうなの?」って聞いている。まあ、そうなるよね、自分と同じくらいの子供で大丈夫か心配するのは当たり前だ。


「不安なのは分かるが、君たちに作ってもらう糸車という物はソルが考えたものだ。ほかにもいろいろと思うことがあるらしいから協力してやってくれ」


 父さんがフォローしてくれた。でも、糸車は自分で考えたものではないので申し訳なく思う。


「ソル、よろしくお願いします」「お願いします」


「そんなに改まらなくても。大したことしてるわけじゃないから」


「さあ、それでは食事にしよう。今日のところは2人とも準備はいいから、ソル、家を案内してあげなさい」


「はい父さん。ユーリル、コペルついてきて」


 3人で居間を出て中庭に出る。テムスもついてきそうだったけど、食事の準備のために母さんから止められてた。


 玄関は最初に通ってきているので、まずはユーリルが寝泊りする玄関横の診療室に案内する。

 診療室は中庭からも表からも出入りできるようになっており、部屋の真ん中には絨毯が敷かれ、壁の棚には薬が種類別に並べられている。棚の下には、薬を作るためのすり鉢にすりこ木が置いてあり、家の薬は大体ここで作っている。診療室は緊急の時以外は夜使うことがないので、数日ならユーリルが寝泊りする分には問題ないと思う。多少薬草のにおいはするかもだけど。


 次に私たちの部屋に連れていく。大きな部屋ではないけど、もともと3人で使っていたので1人増えても問題ない。コペルも「うん、大丈夫」とのこと。

 工房ができたらユーリルは工房の部屋に移ると思うけど、コペルはそのままだろう。年頃の女の子を1人で部屋に住まわせることはできないし、未婚の男女一緒とかはありえない。母さんがあんなにコペルを気に入っているのなら、父さんたちはコペルをこのまま引き取って、この家から嫁に出すつもりだと思う。


 あー、布団を用意しなきゃ。部屋を出る間際に思い出し、ユーリルを呼び止め、子供部屋に置いてあるお客様用の布団を一組渡す。今日はお客様用でいいけど、2人にはちゃんとしたものを準備しないと。そう口にすると、「私作れる」とコペルが言う。詳しく聞くと、亡くなったお母さんが編み物が上手で、よく教わっていたそうだ。

 綿花の栽培がうまくいったら、相談に乗ってくれるもしれない。

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