第六話 咲川日記・一(〜改〜)
七月一日。
今日は、エクスプが新作のホラーゲームを出す日。ちゃんと忘れずに買いに行く。
そういえば、今日転校生が来た。異常な身体能力を持っていると判明。
多分新しい『監視者』だろう。
七月二日。
転校生からの接触は未だ見られない。
新作の『デスランド』は、高揚感を覚えた。仮想感情器官は正常に活動している。
これを、世間一般では『楽しい』というらしい。
七月三日。
あの部室に、何者かが置手紙を残していた。名前と、これを置いた趣旨が簡潔にまとめられている。
転校生の、澄野隆也だった。
やはり、監視者だったらしい。
七月四日。
あと二日で、にーちゃんと交代する。
監視者と思われる澄野隆也は、おかしかった。監視者と思えないくらい普通の人だった。
夜道を送ってもらった後、なぜイベント景品のキーホルダーを渡したのか理解できない。誤作動が起きたかも知れない。
一人になった時、『寂しい』と感じたようなきがした。
確実に、感情は成長している。
七月五日。
今日も放課後に彼が来た。少し落ち込んでいた様子で、何かあったのかと聞くと驚いたようだ。
どうやら、もう一人はいるはずの人が家の都合で暫く休学することを知ったらしい。ノエルさんだ。
あの、外国人の新入生。
すこしだけ。ほんの少しだけ、嫉妬に似た感情を覚えた。
七月六日。
今日は彼が本当によくしゃべる日だった。
私は、基本的に誰とも関わらない方針を貫いている。だから、先生の話は聞いても、同級生は絶対的に無視するのだ。
まあ、話しかける人もいない。最初の頃は、数人いたが忘れた。
話を戻そう。
まとめると、彼が話しかけても、不快とか、面倒ではないのだ。逆に、心なしか居心地がよく感じたのだ。私が頷くだけでも、彼は苛ついたり、諦めようとしない。
わからない。私は彼に対して、何を思っているのか。
分からない分からない分からない。
***
そこでパタンと日記を閉じた。
引き継ぎの作業も、これで大方完了した。少し達成感を感じた。
気がする。
私の仮想感情器官は、あまり精度が宜しくない。他の私と比べると、かなり鈍いだろう。
だから一層わからない。
胸の服を握る。分からない分からない分からない分からない。
「もう、いいや」
今日でもう『最後』だ。次彼と会えるのは、一ヶ月後になる。
キーホルダーを握った。強く、離さないように。
彼と、おそろいのキーホルダーを。
彼との、唯一のつながりを。
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