第三話 日本研究部の謎<前編>・改


「部活?」

「ハイ!一緒に入りましょう!」

「そうだ!一緒に信者になろう!」


高校生三日目の朝、入部に誘われた。

てか信者ってなんだよ。狂信者にでもなれと?

新手の工作員育成か…


「あ。ちなみに信者ってのは唯一神(推し)を崇拝する奴だよ」

「なるほど。つまりは新手の新興宗教。…テロか」

「隆也さんは物騒ですね。唯一神っていうのが私にとって隆也さんってことなんですよ」

「ごめん。余計分からなくなった」


君たちさっきから何言ってるの?

部活の話じゃなかったの?

そう思っていると二人は、さも今思い出したかのようなはっとした顔をし、改めて向き合った。

雑談多いなこの二人。


「そうそう部活。一緒に推し研に行かないかってことだよ。きっと隆也となら、シェル様をもっと愛することができると思うんだよ」

「私を選びますよね。もちろんのこと」


別にどっちでもいいんだが…。

そういえばここ、部活強制参加だったな。父さんに任せたから、大丈夫かと思ってたんだけど。


俺は基本的に運動部に入部できない。反射神経を使う百人一首にもだ。

それはなぜか。俺の身体能力が関わっている。

俺の父さん、澄野秀隆の家系は、代々高レベルな身体能力を持って生まれてくる。


話によれば御じいちゃんが肉体改造したとか何とかだけど。

まあ別にどうでもいい。

要は、目立つということだ。


「体育会系は無理、文化系か…」

「さあさあ推し研に」

「もっと二人の時間を重ねましょう」


どちらとも、何やらやばい顔をしている。

にやにやと口角は上がってるし、それに距離が近すぎる。

誘拐をもくろむ不審者にしか見えない。


うーん。

答えは一つしか残されていないと思うんだけどな


「まあ普通にノエルと組むか」

「ふっ。勝ちました!知らない神様に祈っておいたかいがありましたね!」


やったーとガッツポーズするノエルと、床に手をついて絶望の雰囲気を醸し出している圭吾を見て、ふと思った。


三人で入ればいいんじゃないか、と。


―――fine.


***

「いえいえ。独り占めすることに、意味があるんです」

「よく分からないな…」


どうせならみんなでのほうが楽しいのにと言うと、ノエルさんは「まあ、あなたにはわからなかったですね」と苦笑いした。

なんとなく負けた気がする。

そして今は絶賛部活動探し中だ。

俺は身体能力さえ隠せれば特に問題がないため、かなり選択肢が広い。


部活動はどうやら、職員室の傍のこの掲示板を見るらしい。怪しい雰囲気の心霊研究会に、おそらくPCで作ったであろう2Dの少女が誘う推し研に、エトセトラエトセトラ。


ほんと多すぎるな。


「私的には、この日本研究会っていうのが気になります」


指をさした先には、ただの簡素な文字だけのポスターが見えた。誰もみなさそうな端っこである。

やる気ないのか。

それにわざわざ研究する要素があるのか。

まあ外国人のお気に召すだろうけども…。

俺は別にどこでもいいしな。

ノエルと一緒なら…。


「隆也君と一緒なら、どこでもいいんですけどね…」


ポスターに指定してある場所を調べていると、ぽつりと隣から独り言が聞こえた。

若干、うれしそうな口調ではある。


「確かに…ノエルと一緒ならどこでもいいか」

「―――」


今ノエルさんの表情はうかがえないが、照れてるのだろうか。

大丈夫。

俺もちょっと恥ずかしいから。


「ちなみに体育会系と推し研以外ですけど」

「そだよね…」


***

指定されたのは3階の東校舎の視聴覚室だった。

字が乱雑で、本当に読むのに苦労した。

3階の「3」が、もう既に死にかけたミミズみたいになってたから、もしかすれば間違えてる可能性がある。


いや、多分間違えてるな。


「遠いですねえ」

「そうですね」

「さっきからなんで敬語なんです?」

「そうですね」

「…Are you OK?」


すみませんノエルさん…さっきから嫌な視線と予感がするんです。


なんて言えばいいか。

俺の勘はなぜか当たる。

それはもう、射撃訓練で目隠ししたまま十秒で三十個くらいの的に当てられるくらいには。


その勘が警告している。

今マジでヤバいと。


「なんか変な匂いするね。鉄っぽいなんか」

「…これはおそらく鉄を粉末状にし、それを薬品と混ぜ合わせてできる匂いですね」

「よくわかるね」

「…まあ元々なので」


歩く速度を緩めずに、三階に到着した。

ノエルさんのほうは、息は取り乱しているものの、まだ余裕がありそうだ。

薄暗い雰囲気で、昼間なのにカーテンが締まってる。

不気味だけど、訓練と比べればただのお遊びだ。

あれは、一歩間違えれば、死神にお出迎えされるからな。


がらんとした廊下を慎重に歩き、目的の部屋を見つける。

すりガラスからは何も見えなかった。


「しつれーしm……」


勢いよくドアを開けたノエルさんが、数秒固まった後、なんの予兆なんてなく、ばたりと倒れた。


「ノエルさん!」


脈を確認し、気絶しているだけだと安心する。


「びっくりした…ふう」


ノエルさんは何を見て気絶したのか。建付けの悪い、扉の向こうには―――。

果たして。



ゆらゆらと揺れる、首吊り死体があった。

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