「突然なんですか?」

 青山さんにメールで喫茶アカサカに呼び出された僕は、不服そうに言った。今は青山さんと呑気に話している場合ではない。とにかく一刻も早く白石さんと連絡を取らなくてはならないのだ。

「いいから座れ」

 青山さんは落ち着かない様子だった。いつも以上にぶっきら棒な物言いで、コーヒーをかき混ぜている。

「結論から言う。白石さんを救え」

 何を言っているのだろう。それはこの前青山さんに言われたばかりだし、僕もその気だ。

「救いますよ。だからこれから白石さんの家に行くつもりでした」

「違うんだ黒田。白石さんには秘密があったんだよ」

「もしかして白石さんの中学校時代のことですか?」

「なんだ、黒田も知っていたのか?」

「ええ、今日白石さんの友達に聞きました」

「それでどう思った?」

「白石さんは男を信用できなくなったんです。だからグレて煙草も吸ってるし、援助交際で男からお金を取って男への恨みを晴らしていたんです。僕はそんな白石さんを救いたいんです」

「相変わらず馬鹿だな。呼び出して正解だったよ」

 青山さんは心底呆れた様子だった。一体何を言いたいのだろう。全く見当もつかなかった。

「訳が分からないです……あ、白石さんから電話だ!」

 突然鳴った携帯電話。着信相手は白石さんだった。急いで電話に出ると、今にもけえそうな声が聞こえてきた。

『もしもし黒田くん?』

「白石さん、今どこにいるの?」

『ごめんね……私……』

 今にも泣き出しそうな声。そして、耳を疑うような言葉が聞こえた。

『お父さんを殺しちゃった』

 白石さんの言葉の意味が理解できなかった。殺した? 誰が? 誰を? どうして? 頭の中はハテナで満ちていた。

 いつの間にか青山さんが僕の携帯電話に耳を近づけている。そして小さく舌打ちをした後に、小声で僕に言った。

「とにかく白石さんを呼び出せ」

「あ、え、白井さん、とにかくこの前の公園に来てくれない?」

 頭が回らない。一体何が起きているのだろうか。僕は青山さんに言われるがまま、この前告白をした公園に白石さんを呼び出して、電話を切った。

「遅かった」

 青山さんの一言が嫌に耳にこびり付く。何が遅かったのだ。まだ何も始まっていないはずなのに。心臓が張り裂けそうだ。

「とにかく行こう」

 青山さんも付いてくるらしい。喫茶アカサカを出る頃には外もすっかり闇に包まれていた。

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