最後の秘密

 公園も闇に包まれていた。ブランコと滑り台とベンチだけが建っている小さな公園で、僕と青山さんは静かに白石さんが来るのを待っていた。

 なぜ白石さんは父親を殺したのか。そもそも本当に殺したのか。頭の中で答えを導き出そうにも、今の僕では冷静な思考ができるはずもない。青山さんに視線を移すが、青山さんも黙ったまま口を開こうともしない。遅かったとはどういう事なのだろうか。青山さんは白石さんが父親を殺してしまう事を知っていたのだろうか。誰でも良いからお教えてくれ。と、切に願っても風の音が聞こえるだけだった。

 永遠とも思えるこの時間に、胃の中がストレスを訴えてくる。もう帰ってしまいたい。そうだ、これは夢なのだ。目を瞑り、再び目を開ければきっとベッドの上にいるはずだ。そう思って目を瞑ったその時、青山さんが口を開いた。

「来た」

 目を開けると、そこはベッドの上なんかではなく、暗黒に包まれた公園の中だった。そしてその暗黒の奥から、弱々しい足取りでこちらに向かってくる白石さんの姿が見て取れた。

「なんであなたがいるの?」

 白石さんはまず、青山さんに向かって口を開いた。その言葉には僅かに怒気も含まれているように感じた。

「やっぱり私のこと知ってるんだね」

「ま、待ってください! ねえ白石さん、ほ、本当にお父さんを殺したの?」

 堪らず僕は聞いた。白石さんは俯いたまま黙っている。

「黒田も少し黙って」

 青山さんは人差し指を僕の唇に当てながら言った。その様子を見ていた白石さんは、人が変わったように叫び出した。

「やっぱり黒田くんもあの男と一緒だね。嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき!」

 僕が嘘つき? 一体どういう事だろう。もしや、カンニングが僕の仕組んだ虚偽である事がバレたのだろうか。

「嘘つきは白石さん、あなたもだよ」

 青山さんは優しい声で言った。さっきから二人とも何を言っているのだろうか。

「白石さん、それに黒田。あなたたちの最後の秘密……いや、秘密なんて一つしかなかったんだよ」

 だから何を言っているんだ。秘密が一つしかないなんてあり得ない。だって、ジャーキングもカンニングも煙草も援助交際も、立派な二人の秘密ではないか。

「白石さんは煙草も吸わないし、援助交際もしていない。人殺しなんて以ての外だよ」

「嘘よ!」

 白石さんは叫ぶ。青山さんはそんな白石さんに近づくと、煙草を一本とライターを渡した。

「ならいつものように吸ってみて?」

 白石さんは煙草とライターを受け取ると、煙草を手に持ったまま、先端に火を当て始めた。

「白石さん……」

 ああ、青山さんの言う通りだ。少なくとも白石さんは煙草を吸った事がない。火の点け方すら知らないのが何よりの証拠だ。

 白石さんは必死に火を点けようと踠いているが、やがれ諦めて両手をだらんと落とした。

「どうして……どうしてこんな嘘を?」

「それは黒田と同じ理由だよ」

 僕の問いに青山さんが答えた。

「……私は席を外すから、あとは白石さんの口から話しな」

 そう言って青山さんは公園の外へ出て行った。僕はまだ状況が理解できていない。

「黒田くん……座ろうか」

 促されてベンチに座ると、白石さんは意を決したような表情で、全てを話し始めた。

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