第七話 「スーパーゴーレム戦②」
「――――ッ!!!!」
ゴーレムはゆっくりと部屋から歩いて出てきた俺を再認識して、力を入れ直して剣を強く握りキシキシと音が鳴る。
直下に振り下ろされたその剣は、軽く天井を削り、風を纏って急速に落ちてくる。
《――武器スキル【轟撃】を発動します》
俺はそれに合わせるように錆剣を追撃させた。体を捻り、右斜め下から切り上げる。火花を散らして銀色の刃と焦茶の刃が衝突し合う。
轟音。
神殿内に空間を揺らすほどの衝撃派が流れて、俺とゴーレムの体をよろつかせる。錆びた剣は崩れ落ちない、それどころか何の変化も起きやしない。
「あーズルいって思わないでくれよ? ……そう、ズルじゃない、これは裏技だ」
破壊不可という破格のスキルを持ち合わせていたこの剣は、アシュトレト曰くどんな事をしても刃は折れないらしい。凄すぎて仰天してしまうなこれ。
今発動させたスキルもチートだ。【轟撃】とはシンプルで強力なスキルであり、通常攻撃を剣を通して増幅させ何倍にもして放つもの。制限こそあるが、気にしないほどの優秀さを誇る。
《『幻影の錆剣』の装備を確認しました。これにより、装備時のステータスが変動します。プレイヤーの筋力、敏捷力が大幅に上昇しました》
装備した時も恩恵が貰えるらしい。確かに体が軽い、ゴーレムの攻撃も跳ね返す事もできた。こんなにも装備するかしないかで変わるものなのか。この錆剣が単純に凄いだけな気もするが。
《武器スキル、【轟撃】のデメリットが反映。一定時間のスキル再使用不可。被ダメージ 20 %増加。『幻影の錆剣』の重量増加》
「ああ、そうか。制限があるんだったなあっと!?」
急激に剣が重くなり、つい体が前のめりになって床に倒れそうになる。重量増加……そのまんまの効果なわけだ。
「重い……うわっ! 回避ッ!」
ゴーレムが間髪入れずに光線を放ってくる。ある程度離れて動くと発射してくるようだ。
咄嗟の判断で体が動き、炸裂する光線を回避する。
「これからどうするかだけどっ!」
剣を盾にしてゴーレムのパンチをブロックする。この剣があればさほどのダメージをカットできることが分かった。アシュトレトからカウンターの蓄積が途切れる報告も聞かないので、剣越しならリセットされないのだろう。
「身体加速を繰り返して、回避を連発。最後にトドメのカウンターだな」
戦闘開始からだいぶ動きやすくなってきたし、そろそろ決着をつけてしまいたい。カウンターと轟撃が重なり合わされば、倒すとはいかなくともそれなりのダメージは与えられるはずだ。
「お……らぁッ!!」
避ける、加速する、ガードする。
手順が増えただけで基本は変わらなかった。自分が納得のいく回数まで稼いで、カウンターをねじ込むのみ。
ああ、どうして俺はここにいて、こんな所でこんな奴と戦っているのだろう?
ふと、そんな今更考える必要はないことを考えてしまっていた。世界が加速し、自分の思考が熱くなってしまっているからだろうか。
《武器スキル【轟撃】のクールダウンが完了しました。再使用可能です。制限を解除します》
「……よし、行くぞッ!」
ゴーレムに向かって俺は地面を蹴り全力疾走する。倒すには近づくことが必須だ、当然ゴーレムはその道を阻んでくる。
そこそこの剣術を習っていた俺は、錆びついて妙に重い剣を使って攻撃を受け流し、ゴーレムの足下まで接近していった。
回避は10回、轟撃は使える。準備は満タンだ。
《スキル【見切りカウンター】を発動します。武器スキル【轟撃】を発動します》
ゴーレムの渾身の剣撃を避け、今できる俺の全力を叩き込んだ。
「――轟撃カウンター」
ゴーレムの足の間から飛んで股の下の付近まで到達したのち、俺は剣を片手で振りかぶる。
ばちばちと電気エネルギーが走り、俺の体を包んでカウンターによる強化を施した。
放出されたスキルのエネルギーはゴーレムの体を一気に侵食し、頭に上るまでバキバキとダメージを与えて削っていく。
ゴーレムは、轟音と共に爆裂して弾け飛んだ。
***
《――サンレッドガーディアンの
「はあ、勝ったのか。あんまり実感が湧かないな。格上とか言ってたけど、俺がズル……いや裏技を使ったせいで超簡単だったような」
真夏のような外へ再び出る。
ゴーレムはあの後、脆い石の破片へと変身した。見た目よりも硬くなかったらしく、普通の石くらいの頑丈さであった。単純にゴーレムの戦闘能力が高いだけだった。
「……創造主って俺が【回避のツリー】以外を選んでなかったらどうなると考えてたんだ? こんな武器を手に入れる手段がなかったら詰みだろうに」
俺は手に持つ錆剣を横目に見て呟く。
まあそれ以前に、こんなの用意できる時点で考えが読めないような変人だろうけどな。
「さて、ボスも倒したことだけど……おいアシュトレト、俺は次にどうすればいいんだ?」
《ヘルプ要請を確認。ボスクリアにより、新たなエリア情報が更新されました。プレイヤーは次のエリアに進んでください》
「次のエリア、ね。やっぱりまだゴールは遠いわけか。悪趣味だ、これは拷問に等しいよ」
誰一人いないこの灼熱の世界で、少なくとも何ヶ月は暮らす事になりそうだ。
「じゃあもう行く。時間が惜しい、今もヒメナがお腹空かして待ってるかもしれない。早く帰って、新しい仕事を見つけなければならないんだ……!」
神殿の裏の奥、新たに開けたという未知の世界へ足を踏み入れる。
どこかが境目というらしいが、それらしい印は見当たらない。俺は見渡す限りの砂漠地帯を変わらない様子で歩いていく。
「……おい、どこが新しいエリアだって? 全然同じ景色じゃねえか」
《第二エリアの到達を確認。プレイヤーのゲーム進行度は、現在
――は?
《創造主へ情報を伝達中……失敗しました。エラーを修正中……失敗しました。引き続き、ゲーム進行の案内役を実行します》
目の前に広がる陽炎を見つめながら、俺は立ち尽くした。
今こいつはなんて言ったんだ? 聞き間違いか? 進行度が……たったの2%?
《残りエリア数は199エリアです。【真・回避のツリー】のルートを開放。プレイヤー、ご健闘を》
……俺の心は落下し、底へと近づいている。
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