第六話 「スーパーゴーレム戦①」
「……危険察知? 格上? そういう事はもうちょっと早く教えてくれない?」
「――――ッッッ!!!!」
小人が巨人と対峙する。俺は少し後ろに後退り、ゴーレムはずしん、ずしんと前に出てくる。
いつ攻撃してくる? どう動き出す? 剣か拳のどちらで攻撃してくる?
俺の思考はトップスピードで働く。相手を分析しながら戦うのは、冒険者の初心者であった頃以来か。
「――来たッ!」
ゴーレムが剣を振るった。ものすごい速さの剣撃が接近し、俺に迫る。正確に、より確実に俺を殺すための完璧な軌道だ。
観察していた俺はすぐさま【回避 L v 6】を発動させて低くしゃがむ。剣は俺のすぐ上を通り過ぎていった。予想通りの攻撃が来てくれて、簡単に避けられた。
「よし! まず一回――」
これをあと99回ほど繰り返せば、俺の勝ちだ。今のところは特に問題はない。俺が疲れ果てるのだけが心配だが、この調子でいけば…………。
「…………がはっ」
俺の体に大きな拳が直撃した。剣を振るってから約2秒も経たない内に次の攻撃が繰り出されたのだ。あまりに速く強い衝撃が襲い、俺の知覚を置き去りにして、背後に吹き飛び神殿の壁へと衝突した。
「……ゴホッ! ゴホッ! な、なんだ今の速さは……あんなの、反応できるわけないだろ……!」
《【痛覚耐性】が発動されました。プレイヤーの受けるダメージは半減されます。カウンターの蓄積回数は、攻撃を受けたことによりリセットされました》
チュートリアルのボスだと考えていたのに、まるで違った。これは、俺が冒険者として活動していた時に味わった、“越えれない壁”を思い出させる。勝てないと一瞬でも思わせる独特のモンスター達の強者感だ。
《【危険感知】が発動しました》
「!! クソッ!」
アシュトレトのおかげで、再び俺に大剣が迫ろうとしていることに気が付いた。前を見てみるとゴーレムが天井スレスレで剣を振りかぶっているのが分かる。
《【回避 L v 6】を発動します》
ギリギリのところで横に転がり回避する。危険感知がなければ今頃負けていだろう。剣は壁に勢いよく突き刺さり、轟音が響き渡る。
「攻撃を受けたらカウンターのチャージ解除……これ割と無理なやつじゃ……」
自分より大きな剣と手を避けるのも大変なのに、あの速さだ。格上というのも頷けるな、正直心が折れそうになるよ。
俺はゴーレムから距離を取るように離れて様子を伺う。カウンターはどこまでが許容範囲なんだ? 体に敵が触れたらアウトなのか、武器を挟んで防御すれば大丈夫なのか。こういう所を事前に調べておかないから嫌になる。
ゴーレムは剣を壁から抜いて俺の方へ向かってくる。移動速度は遅い、下半身を動かすのは俺より速くないようだ。
「緊急回避ぃッ!」
斜め上段の剣撃をまた躱し、円を描くように走る。
《【回避 L v 7】にレベルアップしました。【身体加速 L v 2】にレベルアップしました》
「ナイス! って、身体加速なんてあったっけ?」
そういえば、肉を食った後に聞いた気もしないでもない。これは良いニュースだ、レベルが 1 でも上がれば性能は段違いだからな。
「そら、身体加速! そして回避ッ!」
《発動します》
さっそく【身体加速】なるものを使用し、地面を削るほどの剣撃をスキルを二つ同時発動させて避ける。
一気に体が軽くなり、前に向かって俊足で移動できた。読んで字の如く体にかかっている速度を加速させるものだった。避けやすさが格段に上がっており、補助するには最適のスキルだ。
「これなら……! と、危ねえッ!」
次々と迫りくる強撃を走りながら回避する。先ほどとは段違いの行動力となり、回避率が上がる。
「これで五回、か。……先が遠すぎやしないか?」
図体がデカいからか移動速度が遅いとはいえ腕を伸ばしただけでこちらに届く。それが何よりの厄介だ。
避けて、避けて、避けまくる。
俺が避けると、ゴーレムの拳や剣は神殿をめちゃくちゃにしていく。地面を殴った拍子に余波が起き、バキバキと石床がひび割れる。
「これじゃキリがないな!」
寸前すぎる回避をし続けて、ようやく10回に到達。アイツが本気なのかも分からないし、このままじゃいつかバテて俺の負けだ。
外へ逃げようにも、閉じ込められているため逃げることはできない。
「何か……何かないか……!」
俺の持ち物はリザードの爪ナイフ、葉っぱのポーチ、平凡な動きやすい服だけだ。ここにも特に調達できるアイテムもない、あるのはバカデカいゴーレムとクリア後の宝箱部屋だけ…………。
「あの部屋なら……何かあるんじゃないか?」
「――――ッッッ!!!!」
「なっ!?」
ゴーレムの両眼が強い光を放ち、次の瞬間赤い光線を発射してきた。それは俺のすぐ横で破裂して、左腕を少しだが掠り、抉った。
「ぐぅぅ……!!」
《【痛覚耐性】が発動されました。プレイヤーの受けるダメージは半減されます。カウンターの蓄積回数は、攻撃を受けたことによりリセットされました》
床が削れて炎が立ち上る。まさかの遠距離攻撃で、回避を発動させるのに遅れてしまった。
「また……リセットかよぉ!」
ダメージが半減した気がしないほどの灼ける痛みが腕に走る。そして、今ので溜めた努力が消し飛んだ。別の意味で意識が飛びそうになる。
後ろのゴーレムからシュイイインッ! というチャージしてるかのような音が聞こえてくる。数秒後にまた熱い光線が発射されるという合図だろう。
「身体加速!」
《【身体加速 L v 2】が発動します。【身体加速 L v 3】にレベルアップしました》
また一段階俺の移動速度が上がる。回避を発動せず、そのまま真っ直ぐに走り抜ける。背後からドゴォン! という爆発が起きた。
「ボスってのも納得する。これだけの強さならそう名乗ってもおかしくないな。でも、序盤で出てきちゃダメだろうが!」
全力疾走で最初にゴーレムがいた後ろの鉄扉を目指す。
あの扉の奥はおそらくゴーレムを倒した者だけが歓迎される場所だと思う。なら、制覇した証として何か道具、それかゴーレムに関係したものが配置されているのではないだろうか?
「開け! 頼む!」
それを利用すれば少しでも楽になるはずだ。回避だけでカウンターを狙うだけじゃすぐにダメージを食らってキリがないんだ。
俺は扉まで辿り着くが、開かない。頑丈に閉ざされ、叩いても押してもびくともしなかった。
「やっべ……万事休す、か?」
命懸けで到達した活路は固く封鎖され、ゴーレムが迫る。剣を片手で振りかざし、斜めに振り下ろす。
《【回避 L v 7】を発動します】》
顔スレスレで回避が発動され、剣が髪の毛の先端を軽く持っていく。後ろには扉と壁、避けるには最悪のコンディションだ。
「……お?」
ふと後ろの扉を見てみると、剣で少し削れているのが分かった。流石はゴーレムの怪力、こんな鉄簡単に切り裂けるんだな。
「……そうだ。良い事思いついたよ、お前、ちょっとここ壊してくれない?」
俺が出来ないならコイツに開けて貰えばいいじゃないか。我ながら咄嗟に考えたにしては冴えている。
ゴーレムにはおそらく知性らしきものはない。あるのは侵入者であるプレイヤーを立ちはだかる為の戦闘命令だけだ。
ゴーレムはなりふり構わず眼を赤くし、強烈な威力を誇る光線を装填する。
「タイミングを合わせて…………全力、回避ッ!」
《【回避 L v 7】を発動します》
体勢を傾け、横に勢いよく飛んだ。俺の背後に放たれた光線は空間を轟かせるほどの炸裂音を出す。俺の狙い通りの結果となり、扉は前もって剣のダメージを受けていたのもあって部屋の奥へ吹っ飛んだ。
「よし! これで中へ……」
「――――ッッッ!!!!」
《ボスクリアおめでとうございます。扉が開き、新たなエリア情報を更新しました。どうぞ奥へお進みください。創造主からのクリア報酬がございます》
アシュトレトがそんなアナウンスをして教えてくれる。って、ボスクリアだって? まだゴーレムも倒してないのに、ここに入れさえすればいいのか?
まあ今は気にしている暇はない。どっちにしろこの奥も行き止まりだし、ゴーレムを倒して元来た道を戻るしかない。
俺は聞き逃さなかった情報、“クリア報酬”を頂くため部屋に入った。ゴーレムの手が伸びてくるが、入り口が小さくて通らない。
急いで部屋を模索すると、正面に想像を絵に描いたようような宝箱が存在していた。
「これがクリア報酬ってやつか? まあクリアしてないんだけどさ、前倒しって事で許してくれよっと!」
早くしないとゴーレムのレッドビームが飛んできそうなので、俺は宝箱の蓋を開けた。
「な、何だこれ…………剣、か?」
その中には、一本の剣があった。
その剣は酷く錆びており、刃の部分が焦げ茶色に変色した細長い刀身だった。とても何かを斬るには適していないような代物だ。
横向きに雑に置かれた剣の柄を掴んで宝箱から取り出し、両手で持つ。
「重っ……。こ、これが報酬なの? ショボくないか……? こんなボロっちい剣……」
《『幻影の錆剣』を入手しました。詳細を表示します》
ウィンッという音が鳴りパネルが出現した。どんな剣なのか気になるので、念の為確認してみる。
《――幻影の錆剣――
“赤の鍛治職人”が250年前に製作した神代の剣。その刃は廃れ、かつての全てを斬り裂く持ち味は無くなってしまったが、それと引き換えに久遠の時と無限の耐久力を得た、賢者の遺物。
スキル : 【破壊不能】【轟斬(制限あり)】 》
「……………………おう」
予想以上の代物で、思わず胃もたれしそうになった。だから序盤にこんなもの置くなよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます