⬜︎⬛︎⬜︎ 会話劇 bar『馬場』その1 ⬛︎⬜︎⬛︎

 お台場テレビ本社社屋の最上階にあるbar『馬場』は大人の社交場。日曜日の仕事を終えた2人の女子アナウンサーがカウンター席に並ぶ。


 ゲートが開いて、会話劇のスタートです!


「お疲れ様です! ここは景子先輩の奢りってことで!」

「その代わり、はなし相手になってもらうから、覚悟しなさいね」


「おやおや? 守銭奴の景子先輩が否定しないなんて! さては……」

「なっ、なによーっ」


「さては、男絡みの相談ですか?」

「ちょっと! 言い方、気を付けなさいって」


「いいじゃないですか。カメラの前ってわけじゃないんですから」

「そういう問題じゃないのよ。アナウンサーたるもの……」


「……品行方正・才色兼備、ねぇ……。その前に私は1人の女です!」

「何、そんなに気張ってるのよ。人の言葉を遮って!」


「すみません。相談ごとならいいけど、仕事の愚痴は聞きたくないですから」

「愚痴なんか言ってないでしょう!」


「言いかねないって思っただけですよ」

「皐月は本当に自由ね……少しは先輩を敬え!」


「敬ってますって! スポンサーには頭、上がらないですから」

「それ、敬ってなーい。まったく……」


「冗談ですって。それより先輩、恋のお悩みなら今日はパスです!」

「だっ、誰も恋の悩みだなんて……」


「……あら、言ってませんでしたっけ?」

「言ってない! また人の言葉を遮る。やめなさい!」


「じゃあ、違うんですか?」

「そっ、それは……」


「違うんですね?」

「……なっ……なによ……」


「恋愛相談、なんですね!」

「…………」


「ちゃんと認めたら、特別に相談にのってあげますって!」

「う……うん……そうです……恋愛相談……です……」


「マッ、マスター! お代わり、2つーっ!」

「ちょっと皐月。ペース速いわよ」




「ふっふーん。で、先輩。そのお相手は?」

「驚かないでよ。私、歳下の子を好きになっちゃったみたいなのよ」


「歳下? 先輩、それで悩んでるんですか? 昭和ですか?」

「昭和って……その言い方、辞めなさいって」


「今は令和ですよ。恋愛にまったく制限はありませんよ」

「そ、そうかしら……」


「はい。歳の差はもちろん、同性愛だってオープンになりつつある時代です」

「同性愛って、皐月。貴女まさか私のこと……」


「うーん。たしかに、今の先輩はとってもかわいいーっ」

「やっ、辞めなさい!」


「冗談、冗談。先輩、本当にウブなんですね! かわい過ぎます」

「かわいいかどうかは分からないけど、ウブなのはたしかよ」


「それ、処女ってことですか?」

「ちょっと、言い方! 気を付けなさいってさっきも言ったでしょう」


「じゃあ、違うんですか?」

「そっ、それは……」


「違うんですね?」

「……なっ……なによ……」


「処女、なんですね!」

「…………」


「ちゃんと認めないと、恋愛相談、打ち切りですよ」

「う……うん……そうです……処女……です……」


「マッ、マスター! お代わりのお代わり、2つーっ!」

「はぁっ。明日も仕事なのに……」




「いいじゃないですか、処女。市場価値、爆上がりですよ」

「そうかしら。この歳でっていうのは恥ずかしいわ……」


「そんなことありませんって。前面に押し出していきましょうよ」

「どこに押し出すのよ」


「まぁ、たしかにあまり目立たれると、私とキャラが被っちゃうわね」

「キャラって、何のキャラなのよ?」


「処女キャラですよ、処女キャラ!」

「って、皐月。貴女も処女なの?」


「はい、処女ですよ。普通じゃないですか?」

「随分遊んでるって聞くけど?」


「まぁ、たしかに。恋愛達者ではありますけど!」

「有名俳優とか大企業の御曹司とかに相当貢がせたって聞くわ」


「当たり前です。そういうおじさまは簡単に与えない方がよろこぶんですよ」

「よ、よろこぶって……」


「よろこぶはよろこぶです。どんどん貢がせれば、どんどん資産形成されます」

「それはもう、詐欺のレベルじゃないの!」


「そんなことありませんって。で、先輩。キスはどうなんですか?」

「キッ、キス!」


「何ですか、その反応。今どき小学生だってキスくらいしますよ」

「キスはもっと神聖な営みでしょう」


「あれ? もしかして先輩、キスもまだなんですか?」

「あっ、あるわよ……普通に……ほっぺにチュウとか……なら……」


「ほっぺにチュウって! 先輩、マウストゥーマウスはまだなんですか?」

「も、もう。そういう言い方、辞めてよ……」


「まだなんですか?」

「そっ、それは……」


「まだなんですね?」

「……なっ……なによ……」


「マウストゥーマウス、まだなんですね!」

「…………」


「ちゃんと認めないと、私、帰りますよ!」

「う……うん……そうです……マウストゥーマウス、まだ……です……」


「マッ、マスター! お代わりのお代わりのお代わり、2つーっ!」

「いいえ。4つよ、4つ。マスター、じゃんじゃん持ってこーいっ!」


 『bar馬場』の夜は長い!

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