簡単には終われそうにない。
皐月アナの荒唐無稽な提案、競馬バトル。3人は紫亜たんを筆頭に美形揃い。はっきり言って絵になる。最初はドン引きだった会場も次第に盛り上がりはじめる。キャットファイトは蜜の味だ! 簡単には終われそうにない。
正直に言うと、僕はついていけない。勝負だなんて紫亜たんが心配だ。かといって、僕に止める権利はない。紫亜たん自身が断るしか道はない。紫亜たんの表情を見る限り冷静そうだし、無茶はしないだろう。
という僕の希望的観測は、あっさりと否定される。
「望むところ、ですわ」
「期限は4年間……そういうことなら、構わないわ」
「私は、どんな条件でも受けて立つわ」
オーマイガーだ。この場を盛り上げようとして言った僕の軽い冗談が、紫亜たんを荒唐無稽な競馬バトルに引き摺り込んでしまったのか。これは責任重大だ。
とんとん拍子にはなしが進み、細かなルールまでこの場で決められていく。3人の意見が割れるときや、皐月アナがルールをゴリ押ししてくるときは、景子アナが器用に解決を図る。
特に揉めたのが3冠の定義。皐月アナが牡馬クラシックのみというハードモードを主張。慶子さんが頑として聞き入れず、決定は観客席に委ねられる。
「ではでは、牝馬3冠も認めるって人、拍手ーっ!」
反応はイマイチ。牝馬3冠というと、秋華賞も含まれることに納得できないファンが多いようだ。
「次は、桜花賞・オークスを含む変則クラシック3冠ならOKという人ーっ!」
こちらは大盛り上がり。7割強の人が手を叩き、大声を発している。
「念のため。あくまで皐月賞・ダービー・菊花賞のみって人ーっ!」
意外に多くて半数くらいか。2つまたは3つに拍手した人もいるのだろう。
結局この件は、クラシック3冠のみということに決定した。牝馬限定戦のうち秋華賞は除かれるが、桜花賞とオークスはありというわけだ。牝馬の生産に力点を置いている大川牧場の娘である慶子さんの言い分が通った形だ。
みんな、ゲームのはじまりを楽しんでいる。自分の意見をはっきりと主張し、折れるべきときは折れる。紫亜たんはもちろん、慶子さんも集子さんも僕と同い年だっていうのに、すごく大人に見えてしまう。僕には何もできないのに。
ルールが固まった。皐月アナが記念撮影を提案。カメラマンをステージ上に招き入れる。これには慶子さんが猛反発。
性格は硬いといえるほど真面目な慶子さん。向上心があり精神的に大人だ。健康優良少女で元気いっぱいなのも魅力だ。撮影を嫌がるときは、顔を真っ赤にして腕をぐるぐるまわして子供っぽい。そんな慶子さんもとてもキュートだ。
「き、急に撮影とか、む、むむ、無理ですよ!」
対照的なのが皐月アナ。天然なのは玉に瑕だけど、外見的魅力だけなら紫亜たん以上だ。性格は遊び心があるというか、人生をとことん楽しんでる人だなって思う。衣装が落ち着いていたら、もう少し仲良くなれる気がする。
皐月アナが慶子さんを説得するけど上手くいかない。慶子さん、そんなに写真を撮るのが嫌なんだろうか。集子さんと紫亜たんに援護を求めるほど。
「遠慮しないの。カメラさん、腕は確かだから一生ものの写真になるわよ」
「だからダメなんですって。ね、集子さん、紫亜さん」
「そうですね。せめて休憩させて欲しいかしら」
「はい。皐月アナご自身も、もう少し衣装に気を使うべきはではないですか」
皐月アナが自分の全身を確認。前屈みになり腰をひねると、尻尾を手にする。僕の位置からだとバックショットで、お尻を突き出しているように見える。それでいてひねられた胴体から大きな胸がチラリと見えるから不思議だ。
皐月アナの外見的魅力である脚、尻、胸、顔が狭い範囲に集中。自分の部屋で独りで見る分には神ポーズなんだけど、みんなが見ている前ではリアクションし難い。僕には顔を真っ赤にすること以外に何もできない。
紫亜たんが僕の右側に来て、耳元で「イダテンタローくんは、こういう肉欲的な女性が好みなのですね」と囁く。首を全力で横に振りながら心の中で(ち、違います。僕は紫亜たん一筋です。信じてくださーい!)と言うのが精一杯。
結局、10分間の休憩となる。僕が衣装を気にするはずもなく、ステージ下手袖の観客には背を向ける位置でぼーっと待つことにした。ここなら、誰かに見られることはない。それなのに、景子アナがはなしかけてきた。
「ねぇ、井田くん。君さ、紫亜さんのこと好きでしょう」
あまりの直球に、僕が言葉を発することができたのは、しばらく黙り込んだあとだった。
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次回は、景子アナと天太郎くんの物語となります。ご期待ください!
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
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